採集クエスト
東の森には、半日足らずで辿り着いた。勝手知ったる森の中を歩き、いつもの拠点に皆を連れて行く。休憩しながら、火を熾す場所や水場の案内など、普段のソロ活動ならしなくてもいい事をする。夕食には、オーク肉を焼いた。食べながら、取り留めの無い話をする。
「ヴィルさん、いつもここを拠点に、採集クエストしてるの?」
「ああ。ソロで動くなら充分な広さだろう?」
「俺達が混ざっても、そんなに狭くないっスよ」
「ここの森は、採集にはいい所だ。ただ、あまり魔物は居ないから、討伐には向かないな」
「駆け出しの頃、よく来たぜ」
「オレ、この近くで行き倒れて、ヴィルに拾われたんだ」
ステフの言葉に、アベル達は固まった。オークとこの森は、彼らにはトラウマだろう。そのオークを今回、群れ単位で討伐出来たのだから、トラウマ克服には良かったのではなかろうか。グスタフやネイサンも、敗走当時のことをぽつぽつと語る。
「とにかく、余力も何も無い時に、いきなり現れたからな、あのオーク」
「パニクって、逃げるので精一杯っスよ」
「まさか、ステフが倒してるなんて、思いもしなかったわ」
「ましてや、その後で行き倒れてるなんてな」
ホリーやアベルも、しみじみと言う。一方で、ステフはその後の出会いを思い浮かべているのか、言葉にはせずニヤニヤと顔を赤らめている。その様子を見咎めてか、ネイサンがステフに絡んだ。
「うわっ、やーらしい顔して、何を思い出してるっスか」
「えっ、いや、その……」
「何でパーティー最年少で最弱のステフが……くそぅ、羨ましい!この果報者!」
「あははっ」
ネイサンに続きグスタフまで加わって、ステフを小突く。ステフは二人の絡みを笑って流しているが、見ている方は気まずい。話題を変えようと、明日の採集について説明する。
「依頼のあった薬草類は、この五種類だ。森に入ってから、道々摘んでおいたから、見本に渡しておくよ」
「この薬草は見たことあるけど、こちらは馴染みがないな」
「基本的な傷薬用のは、皆駆け出しの時に一度は採集を請け負うだろうね。他のは、かなり専門的な用途だから、薬師からの指名依頼さ」
「さすが、採集のベテランは違うな」
アベルに見本を渡して、皆に分ける。一応、群生地などは秘匿させて貰い、各自森に散って探すことになった。
夜、休むのに、いつもはテントを張るが、皆がヒューイと居たがるので、各自持参した上掛けに包まりヒューイの周りに横たわった。ヒューイは、まるで授乳中の母犬のような有様だ。ヒューイは特に嫌がりもせず、皆も満足そうにしているので、まあいいだろう。
翌朝、簡単に朝食を済ませると、昨夜渡した見本を手に皆出掛けて行く。少し遅れて、こちらもいつもの群生地でマイペースに採集すると、昼頃に一旦拠点へ戻った。三々五々、戻ってきた皆の採集分を見てみると、量的には個人差があるが、薬草の種類に間違いはなかった。
昼食後、再び採集に出る皆を見送り、ホリーに残って貰う。約束だったハーブ類の採集を教える為だ。まずは、拠点に自生しているローズマリーを摘んで見せる。
「これはわりとどこでも見掛けるハーブだよ。ローズマリーって言って、肉の臭味消しに使えるし、水に入れると殺菌効果があるんだ」
「ニキビに効きそう」
拠点を出て暫く歩き、草地に入って辺りを見回す。目についたハーブを幾つか摘んでホリーに渡した。
「これはミントだよ。街中でも見掛けるな。爽やかな香りがするから、水やお茶に入れて飲んだりするね。煮出して虫除けに使ったりもするよ。重曹と煮出し液を合わせると、夏場の汗止めにも出来る。使い勝手がいい」
「料理以外の利用方も多いのね」
「こっちはバジル。チーズやトマトと相性が良い。生でも食べられるから、付け合わせ野菜に混ぜても美味しいね」
「ヴィルさんって、女子力高い!」
ホリーの感想に、複雑な気分を味わいながら、苦笑する。その草地で別れて、通常の採集に戻る。夕方近くなって拠点に帰ると、程無く皆も拠点に帰ってきた。採集分を集めて、種類ごとに括り量を確かめると、既に依頼分をクリアしている。ソロで三日位かかるところを、パーティー単位でかかれば一日で済んでしまうのかと、感心した。
もう街に帰るには遅い時間なので、拠点にもう一泊してから帰ることになった。夕食の支度をしていると、ホリーが手伝いたがったので、肉の串焼きの下拵えを任せる。ハーブソルトを渡すと、作り方を知りたがるので、またその内にハーブの講習でもと約束した。
翌日、街に戻ってから、皆はその足で協会へ依頼達成報告に向かう。こちらは、まず家に寄りヒューイを休ませてから、協会へ向かった。オークの群れ単位での討伐は、かなりの収益になった。採集分も、クリアまでの時間を思えば、採算が良い。臨時パーティーは、なかなかの成果を上げた。




