臨時パーティー
冒険者協会で支部長に面会を申し込む。窓口職員の機転か、面会はすぐに叶った。支部長の部屋で、先程ダールに語ったことを繰り返す。自分なりの憶測も添えて話すと、支部長は頭を抱えた。
「何らかの行動は起こすだろうと思ってはいたが、いやはや何ともお粗末だな」
「まあ、上と下で意思疎通が上手くいってないんだろうよ」
「ともあれ、警戒はしておいてくれ。当面はソロ活動は控えて欲しいんだが」
「集団で採集するのか?」
「いや、そうじゃなく、臨時でパーティー組むとか何か……ヴィルヘルムは確か懇意にしてる冒険者が居ただろう」
そこで、支部長は窓口職員を呼び、指示を出した。暫くして、窓口職員は誰かを伴い部屋に戻って来た。
「ちょうど依頼達成の報告にみえていました」
「一体何事なんだよ……て、ヴィル?」
「ステフ!」
窓口職員が連れて来たのは、アベル達のパーティーだった。扉から顔を覗かせた面々を見て、先頭のアベルではなく後方に居たステフに反応してしまったのは、やや気まずい。支部長は彼らを招き入れると、事情説明をして臨時のパーティーを組む要請をする。
「拉致監禁って、大丈夫だったの、ヴィル?」
顔を合わせてすぐから、傍に寄って来ていたステフは、話を聞くなり心配して顔や躰をペタペタ触る。
「大したことない。睡眠薬嗅がされて物置部屋に転がされただけだ」
「大したことじゃないか!」
血相を変えて抱き付いてくるステフの背中を、落ち着けとばかりにトントン叩く。ステフは納得いかない表情をしながらも、とりあえず躰を放した。一連の行動に目が点になっている支部長やアベル達に向き直る。とても気まずい。
「……で、臨時のパーティーを組む件、どうだ」
「俺とアベル達では、請け負う依頼の傾向が違うが、問題無いか?」
「俺達の討伐をヴィルさんや騎獣が手伝ってくれるなら、俺達もヴィルさんの採集に付き合えるけど、どうだろう」
「俺はいいけど、君達とヒューイの相性が合うか心配だなぁ。一度、家で顔合わせしてみてくれ」
「では、また報告上げてくれよ」
それから支部長の部屋を辞して、アベル達と共に家へ帰る。母屋に入る前に、直接厩舎に回り込みヒューイとアベル達は対面した。寝ていたヒューイは、人の気配で顔を上げこちらを向いた。
「ただいま、ヒューイ」
ステフは無邪気にヒューイの首元に抱き付いて、モフモフと毛並みに埋まる。ヒューイはフンと鼻を鳴らし、受け入れる。アベル達は、翼犬を間近に見るのが初めてらしく興奮気味だ。特にホリーは、目をキラキラさせてヒューイに見とれている。
「じゃあ、一人ずつ試しに近付いてみて。最初はアベルだ。手をここに」
ヒューイとの間に入り、アベルの差し出す手をとると、ゆっくりヒューイの鼻先に近付ける。ヒューイは表情を変えない。
「大丈夫そうだね。次、グスタフ」
同様にしてグスタフの手も近付けると、ヒューイはくわっと欠伸をした。ギョッとしたグスタフの手に力が入る。
「欠伸しただけだよ。驚かせて済まないな。じゃあ次、ネイサンね」
グスタフと入れ替わり近付くネイサンが、チラリとこちらを流し見る。その視線に少し含むものを感じて鼻白むが、ステフのパーティーメンバーなので受け流した。そうして差し出されたネイサンの手を近付けると、ヒューイの眉間にやや皺が寄る。
「ちょっと相性悪そうかな。まぁ、問題無いレベルだよ。最後はホリーだ」
ホリーの差し出す手をとり、ヒューイの鼻先に近付けると、ヒューイはベロッとホリーの手を舐めた。ホリーは跳び上がって驚き、涙ぐんでいる。
「あははっ、一番気に入られたね、ホリー」
「え、ヒューイちゃん、あたしを気に入ったの」
「ステフでも最初は眉間に皺が寄ったもの。ホリーはかなり気に入られたみたいだよ」
「ヴィルさんは?」
「俺は別」
ヒューイに向かい、鼻先を撫でてやると、目を細め頬摺りしてきた。ステフはヒューイに水をやっている。それから、皆で母屋に戻って、今後の相談をする。
「俺は薬草類の採集だし、期間にゆとりがあるから、アベル達の討伐依頼を優先して構わないよ」
「俺達は、次の依頼にオークの群れの討伐を考えてるんだ」
オークは、アベル達のパーティーにとって、因縁深い魔物だ。駆け出しの彼らがうっかりエンカウントして敗走し、ステフの行き倒れの原因になった。
「依頼の達成基準は、数?それとも群れの殲滅?」
「殲滅かな。複数の村から合同で依頼されてるから」
「そう言う依頼は、普通なら複数パーティーで受けるタイプだろうな。今回は、ヒューイがいるから大丈夫だけど」
「翼犬、強いんだな」
「むしろ、丸ごと食べちゃうから、魔石を残す方が大変かも」
「……」
「まずは頭だけで止めるように言い聞かせるよ。魔石を剥ぎ取ってから、素材を取る分を残して、後はヒューイにあげてくれ」
「了解」
相談の後、アベル達に夕食を振る舞う。買い置きの堅焼きパンと、野菜スープ、肉の串焼きだ。どれも大した手間はかからない。ステフにパンのスライスを任せて、スープを作る。パンのスライスが終わったステフにスープの注ぎ分けを頼み、その間に肉を焼く。まず一人一つずつ渡すと、追加を焼きながら食事を始めた。
「美味しい!」
「うわっ、旨っ!」
アベル達はガツガツ食べている。口に合ったらしい。ホリーは味付けや作り方なども気になるようだ。依頼の薬草類採集のついでに、自家用のハーブ類も採集して料理に使っていることを話すと、興味を持ったホリーに、今度ハーブの採集や加工を教える約束をした。




