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新居と訪問者

それから、二人で街の中央広場まで歩く。今日中に、家探しと騎獣狩りの目処をつけたいところだ。朝食を見繕いながら、相談する。


「騎獣の情報収集なら、冒険者協会で集めたらどうかな」

「騎獣を持ってるヤツって、情報を秘匿したがるから、望み薄だけど」

「じゃあ、とりあえず商人連盟に行って、借家の紹介して貰うか」


話しながら、露店で買ったスープを飲むと、中にヒラヒラした薄いものが入っている。最近、流行り始めた、練った小麦粉の塊を薄く削ったものらしく、つるりとした食感が面白い。露店に器を返しに行くと、店主がちょうど練った小麦粉を片手に、もう一方に包丁を構えて、スープに削り入れるところだった。空中を小麦片が舞い飛び、なかなか派手なパフォーマンスだ。暫く感心しながら眺め、その後商人連盟に向かった。


連盟の建物に入ると、まだエントランスの人影はまばらだった。手空きの受付職員に声を掛け、厩舎付きの借家物件を探して貰う。幾つか条件に合う物件が見つかり、担当者に引き継がれた。


「厩舎付きの家をお探しとのことですが、馬をお持ちで?」

「いや、これから騎獣を狩る予定なんだ。先に厩舎を用意しておこうと思ってね」

「左様ですか、ではこちらはいかがでしょう」


担当者はてきぱきと話を進め、候補を挙げる。その足で、現地へ内見しに向かった。案内された場所は、街の東側外壁に近く家もまばらな感じで、その分建物や厩舎はゆったりした造りだ。何となく、王都のサイラスの家を連想した。


「こちらでしたら、厩舎もありますし、敷地に余裕もあって、騎獣が増えても対応できますよ」

「なるほど、それなら申し分なさそうだ」

「比べるのに、他の候補も見たいな」


次の候補は、北の高級住宅地に近い立地で、敷地も建物も大きく、使用人を雇わないと回らない家だった。賃貸料だけなら予算内だが、その他のコストが嵩みそうだ。


「確かに、厩舎付きで条件には合ってるけど」

「将来的には、決して無駄にはならないかと」

「いきなり、これは……ワンクッション置きたいね」

「でしたら、こちらなどいかがでしょう」


続いて担当者に連れて来られたのは、東地区の南寄りにある家だった。庶民や冒険者の混在する東地区と商人の多い南地区の境目だけあって、敷地はやや狭い。物件は厩舎付きで、建物もそこそこな広さがあり、最初に見た物件のような侘しい感じはしない。ただ、狩る騎獣の大きさ如何で、手狭になる懸念がある。


「ここはいいけど、狭さが気になるかも」

「オレもここ気に入った。でも、ヴィルが気になるなら、最初に見た所でもいいよ」

「ちょっと物寂しい感じだったけど、大丈夫か」

「オレ田舎育ちだし、全然大丈夫!」


商人連盟に戻って、最初に見た物件の賃貸契約を交わす。同時に、通いの使用人を紹介して貰う。掃除や洗濯などを頼む為だ。今まで、宿から洗濯を外注していたことを思えば、コスト的には大差ない。


家が決まり、次は騎獣だと冒険者協会へ向かった。情報は望み薄とはいえ、何の手がかりも無しでは狩り場の見当もつかない。協会の受付職員に話し掛けると、思いがけないことを言う。


「ヴィルさん、ちょうど良かった。ヴィルさんを訪ねて来た方がお見えです」

「え、俺に客?」


窓口職員はカウンターを出て、エントランス手前の卓や椅子が並んだスペースに来ると、隅にある席に案内した。そこには、見たことの無い人物が座っていて、こちらが近付くのを見ると立ち上がった。中肉中背の地味な感じで、白っぽいローブ姿の男だ。


「ヴィルヘルム様ですね?お初にお目にかかります、私は神殿で神官長補佐役のカインと申します」

「神殿?俺は信者じゃないが」

「ヴィルヘルム様は類い稀な浄化の力をお持ちとか。これは、ぜひ一度神殿で祝福を受けられて、更にその能力を高められてはいかがかと」

「悪いけど、興味無いんだ」

「そうおっしゃらず、ぜひ一度神殿へお運び願いたく」

「忙しいんだ。帰ってくれ」


取り付く島も与えず、神官を追い返す。宗教関係に係わると、碌なことにならない。セクハラ被害より厄介だ。窓口に戻ると、職員に釘を刺す。


「あんなの、取り次がなくてもいいよ」

「でも、ぜひ紹介して欲しいと粘られまして、仕方なく」

「次は勘弁してくれ。それより、今日はこの辺りで騎獣の情報がないか、聞きたかったんだ」

「それでしたら、耳寄りな情報がありますよ」


窓口職員は、先程の失点を取り返すように、レア情報を流してくれた。街の西にある荒れ地の先に、小高い丘があり、そこで飛龍の目撃情報があるとのことだ。騎獣に竜は考えていなかった。


協会を出ると、一旦ステフと分かれ、それぞれの定宿を引き上げる。新たに借りた家で落ち合い、二人で中に入った。建物は年季が入っているがよく手入れされており、家具付きですぐに暮らせる。内見の時にざっと見ていたが、二人で落ち着いて見回ると、ここに住む実感が湧く。持って来た荷物を片付けると、足りないものを買い出しに行く。


「そういえば、ステフはアベル達に、宿を引き上げることは話してあるのか?」

「まだ言ってないよ」

「なら、買い出しが済んだら、アベル達に報告がてら食事しようか」


今まで宿暮らしで持っていなかった、調理器具や寝具などを買い足し、食材なども買い込んで新居に運ぶ。それらを片付けてから、ステフの定宿だったところに行き、アベル達に声を掛ける。休養日で、皆それぞれに過ごしていて、宿にはネイサンしか居なかった。また日を改めて飲み会でも、と伝言を頼む。


そのまま宿の食堂で夕食を済ませて、二人で新居に戻った。

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