騎獣の獲得
前線拠点に戻ると、上級冒険者達を含め大方の冒険者達は既に戻っていた。後は、確認や事後処理に残った協会職員や後方支援担当の冒険者達が、まだ戻っていないらしい。
「お疲れー、ライ、ヴィルヘルム。遅かったな」
拠点に戻ったところで、レフに声を掛けられた。『紅刃』がにやりとこちらを見ながら答える。
「ヴィルが魔力切れでひっくり返ってたから」
「おい『紅刃』、人聞きの悪いこと言うなよ」
「二つ名呼びは止めてくれ」
「知るか」
武装を解き、武具の手入れをしていたサイラスとトールが、呆れ顔でこちらを見ていた。
「やはり、ヴィルヘルムはライと相性悪そうだね。次はレフか俺が一緒に出るか?」
「騎獣に同乗するなら、サイラスの一角馬が良さそうだが」
「俺は構わないぜ。ヴィルヘルムならフロルと相性良いし、俺の風属性魔力ともかち合わないし」
そう言ってサイラスは、こちらにニコリと微笑む。四人の中では一際若くて小柄に見えるサイラスだ。体格が同じ位の自分となら、一角馬に同乗しても邪魔にならないだろう。
「俺は構わないよ」
「じゃあ、次はよろしくな!」
サイラスと握手を交わす隣で、レフは残念そうに、『紅刃』は苦虫をかみつぶしたような顔で見ている。トールだけは、カラカラと屈託無く笑っていたが、ふと思い付いたように言った。
「暫くは同乗して依頼をこなすにしても、いずれヴィルヘルムにも騎獣は必要になるな」
「なら、俺と狩りに行くか?一角馬の群生地、知ってるから案内するぞ」
「それなら、オオトリを卵から育てた方が」
サイラスとレフが口々に自分の騎獣のアピールを始める。戸惑って、二人を交互に見ていると、背後から『紅刃』が胴に腕を回し、その場から連れ去った。
「いきなりなんだ!」
「ごちゃごちゃ五月蝿い。少し休むぞ」
そう言って、『紅刃』は個人持ちのテントに入って横たわる。懐に抱え込まれて身動きが取れないまま、強制的に休憩する羽目になった。人を何だと思っているのか、忌々しい。
夕食時になって、やっと『紅刃』の拘束から抜け出た。炊き出しの列に、レフやサイラスと並ぶ。二人から、このクエスト後の流れを聞く。
「とりあえず、この全員で王都に引き上げてから、報酬の分配がある。その後、解散だ」
「又すぐに招集かかるだろうがね」
「次までの間に、騎獣の狩りに行くかい?」
「オオトリは卵の確保より、孵化させて育てる手間があるからな。その点、一角馬は狩って調教すればすぐ乗れるよ」
「何アピールしてるんだ!?」
話が逸れたが、騎獣の確保は出来るならばしたい。二人から、それぞれの騎獣のメリット、デメリットを聞く。順番が来て食事を受け取り、食べながら話の続きを聞いていると、トールや『紅刃』も食事を手に話へ入ってきた。
「なんだ、ヴィルヘルムの騎獣の話か。黒狼はいいぞ!機敏で攻撃力もあるし、主に従順だ」
「それなら、大山猫だろう?テスがよく懐いてる」
「どの騎獣がいいか分からないが、よく考えてみるよ。それより、早く街に帰りたい」
「街に家族でもいるのか?」
レフに聞かれて、無言で頷く。もうそろそろステフが護衛クエストから帰って来る頃だろう。伝言は残してきたが、あまり長く街を離れていたくない。それに、騎獣を持つなら、二人で乗れる方がいい。狩るのも一緒にしたい。
「じゃあ、俺が連れて来たんだから、責任持って送って行くよ」
「何もレフが送って行く必要は無い。俺が行く」
レフの言葉を遮り、『紅刃』が前に出る。レフが食ってかかろうとするのを、間に入ってトールが止めた。
「レフ、ライ、それ位にしとけ。とりあえず、話は王都に帰ってからだ、いいな?」
仲裁したトールの後に続いて、その場を離れた。後を追って来たサイラスと三人で広場の端に座る。
「レフもライも、何いきり立ってるんだか。ちょっと頭を冷やした方がいいね」
「全くだ。あの二人、ヴィルヘルムが絡むと常軌を逸するな」
「えーと、俺のせいなのか?」
「いや、ヴィルヘルムは悪くないよ。あの二人がどうかしてる」
サイラスがやれやれといった風情で首を振り、トールも同意する。それはそうと、騎獣の獲得はなるべく早いに超したことは無い。王都から街に帰る途中で騎獣が狩れるなら有難い。サイラスに聞くと、一角馬の狩り場は街とは反対方向だった。トールの薦める黒狼も、生息地はやや遠いらしい。街の近くで狩れる騎獣を聞くと、あまり人里近くにはいないという。
「騎獣にできるような大型の魔物は、人里からは離れた場所に現れるからな」
「そうか」
「まあ、全然いない訳じゃないよ。運が良ければエンカウントするさ。その時、テイムできればいいな」
「確率低そうだけど」
その日は、サイラス達のテントに厄介になった。サイラスはステフと似た年頃に見えるし、話す内容も割とステフに近くて、一緒に居て楽だった。トールはサイラスの親世代で、一歩引いてどっしり構えた態度に好感が持てる。主に騎獣の話をしながら、眠りについた。




