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共闘

待ち構えている所に近付いて来た群れが、目で見える距離に入った。魔物はコボルトだ。二足歩行の犬のような魔物で、ゴブリンと同様に群れで行動する。繁殖力も強く、放っておくとすぐ増える。群れの長が上位種だった場合、厄介さが跳ね上がる事も一緒だ。


魔物の特性としてはよく似ている両者だが、その違いは何かと言うと、種族的な質だろうか。ゴブリンの方がより凶暴で、襲われた場合の被害が大きい。


索敵(サーチ)では、魔物の位置や個体数、凡その強さくらいしか読み取れないので、経験を積んで魔物の発する気配の違いを覚えていく他ない。この近辺でよく見掛けるような魔物は正確に察知出来るが、此処では滅多に見ないコボルトでは、その姿を目にするまで分からなかった。


コボルトの群れは、森の小径に沿ってやって来た。小径の両側にある木立の中にも少数の遊撃隊が潜んでいる気配があるので、隊を分けて襲う程度の知能はあるらしいが、こちらの後方に回り込むような頭までは無さそうだ。


「……って事は、このコボルトの群れには上位種がいないのか」

「え、何で?」


ステフの投げ掛ける疑問に、先程の考察を話した。


「群れの動かし方が力押しで何の(てら)いも無いからさ。策を弄する頭が無いのなら上位種はいないと思っていいだろう」

「成る程……ヴィル、鋭い」


上位種はいないらしいとは言え、数の脅威は依然としてある。気を引き締めてかからねばならない。


「もう少し引き付けてから仕掛けよう。結界(バリア)展開!」

「初撃は我から行こう」


アーヴァインは弓を構え、矢を番えると弦を引絞り、放つ。矢はそれに合わせて放たれた風術に乗り、先頭にいたコボルトを撃ち抜いた。攻撃に驚いたコボルト達がざわつく。追い打ちを掛けるように、背後から翼犬のヒューイが強襲した。


「よし! 一気に畳み掛けるぞ!」


足並みの乱れたコボルトの前衛をステフの(シールド)で抑え、ダールのメイスが叩く。左右からの遊撃隊は、デューイと手分けして捌いた。後方からアーヴァインの連射する五月雨のような矢をかいくぐり、ヒューイが群れを蹂躙する。


程なく乱戦は収束し、最後の一頭をヒューイが斃してコボルトの群れは殲滅された。


「数が多かったから手間取ったけど、この間のゴブリンよりはマシだったな」

「ああ、あれは酷かったよー」


後処理作業をしながら、ステフと軽口を叩く。小者ばかりで、魔石が殆ど出なかった。ヒューイやデューイもあまり食指が動かないらしく、斃したコボルトの死骸が積み上がっていくばかりだ。


そこへ、急速に近付いて来る気配を感じた。これは、よく知る人物のものだ。


「誰か来るようだの。知り合いか?」


同じ気配を察したアーヴァインから問われ、頷き返す。


「知り合いの冒険者だ。狩りに出てた筈だが」

「え、ライがこっち来てるの?」

「ああ。随分と慌てているようだが、何なんだろうな」


驚くステフに返答しているうちに、件の人物が姿を見せた。やはり騎獣に乗ったライだった。こちらと目が合うなり、騎獣から飛び降り駆け寄って来る。


「無事か、ヴィル、ステフ! ウルはどうした⁉」

「そっちこそどうしたんだ、そんなに慌てて」

「獲物を持って協会に寄った所に、お前らがゴブリンの群れに襲われてるって報があったんだ。で、急いで駆け付けたんだよ」


そう言えば、ウルリヒを避難させる時にランディが協会にも一報を入れると言っていた事を思い出した。連絡した時には、まだ群れの種族まで特定出来ていなかった。


「もう討伐は終わった。群れはコボルトだったよ」

「ウルは?」

「ルーイに乗せてランディの所に避難させた。危険だったからな」


そう言うと、ライはホッとした表情を見せた。


「討伐は終わったが、まだ問題はある」

「何だ?」

「コボルトがこんな所にまで出て来るということは、元々の生息域で何か異変が起こっている兆しだろう。調査する必要があるんじゃないか?」

「それはあるな。協会の上の連中に言っておこう」

「それから……」

「まだ何かあるのか⁉」

「……コボルトが不味いらしくて、ウチの従魔達が食べないんだ。死骸の処理に困る」

「……俺が燃やす」


ライは半ば呆れながら、コボルトの山に火術を放った。お陰で、後処理が楽になったと礼を言うと、ライに小突かれた。


「仮にも上級冒険者『紅刃(こうじん)』の俺様を焼却炉代わりに使うのは、お前ぐらいだろうよ」

「礼を言っただけなのに怒るな」


それでも収まらないのか、ライに拳でコメカミをグリグリされた。解せぬ。




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