第6話 可愛いエミリーに似合うと思って
「ねぇ、クライ……」
「ん~?」
「どうしてアタシの職業が〝魔法使い〟なのよ?」
ダンジョンへと向かう最中、エミリーは俺に対して聞いてくる。
俺たち二人は『ミロノフ』の冒険者ギルドを発ち、町の近くにある初心者向けの低難易度ダンジョンへと向かっていた。
冒険者ギルドでは報奨金が貰えるクエストなども受注できたが、俺もエミリーもその手の作業をこなすにはレベル不足。
まずは最低限に戦えるくらいまではレベルを上げようと考え、レベリングに赴くことにしたワケで。
……しかし、エミリーは自分が〝魔法使い〟としてレベリングをすることにあまり納得がいっていないらしい。
「アタシ、魔法なんて使えないんだけど……。それに〝魔法使い〟なのに、どうして装備する武器が弓矢なの?」
現在、エミリーの手には簡素な短弓が握られ、背中には複数の弓矢が納められた矢筒が背負われている。
これは冒険者ギルドと併設されていた武器屋で二束三文で購入した、最も初歩的な武器。所謂使い捨ての弱武器ってヤツだ。
「だって、魔法が使えないのに杖を買ったって仕方ないでしょ?」
「それは、そうかもだけど……」
「最初だけだよ、最初だけ。エミリーは狩りの経験はあるんだから、まずは慣れた弓矢でレベリングしよう」
そう答える俺の手にも、同じように格安で購入した粗雑な出来栄えのショートソードと簡素な盾が握られる。
……もっとも、盾の方は鍋の蓋に取っ手が付けられただけの、盾と呼んでいいのかすら危うい代物ではあるが。
ま、でも最初はこれくらい適当な武器で大丈夫だろう。
――『ソード・ルミナス』の特徴の一つに、全ての職業が全ての武器・防具を装備できるというモノがある。
これにより剣士が魔法使いの杖を装備することもできるし、逆に魔法使いが剣を装備するなんてこともできてしまう。
なんのためにこのシステムがあるかと言うと、基本的にはゲームの自由度を上げるためだろうが……それより重要なのが、『ソード・ルミナス』に登場する装備品には全て〝ランダム追加効果の付与〟という厳選要素があるから。
ダンジョンでドロップする装備品や武器屋などで製造する武器防具には、三つの追加効果が完全ランダムで付与される。
これがこのゲームの面白さの一つでもあると同時に、厄介な仕様でもあった。
例えば剣に〝追加効果:この武器の攻撃力+100〟みたいな効果が付与されるなら、意味があるし有用と言える。
しかしこれが小盾に同様の効果が付与されてしまうと、途端に産廃と化す。
小盾で攻撃することなんて稀なのに、そんな小盾の攻撃力を上げてなんになるのか――と。
一方で、剣に〝追加効果:使用者の魔力+100〟みたいな効果が付くなら〝魔法使い〟みたいな職業でも有用となり、装備する意義が出てくる。
これによって職業と所持装備をどう組み合わせるかという試行錯誤が生まれ、さらに突き詰めれば厳選&マラソンという行為が必須となってくる。
実際、俺は「あまりに理想的な追加効果が揃ってしまったから」という理由で大槌・革パンツ・蛙の仮面という組み合わせで装備を固めた〝魔法使い〟をSNSで見たことがある。
革のパンツ一丁に頭だけ蛙の仮面を付けて巨大な槌を持つ〝魔法使い〟という奇怪極まりない格好だったが、確かにあの追加効果の一覧はマジで強力だったな……。
……『ソード・ルミナス』の主人公ってロイドだから、その恰好をしてたのもロイドってことになっちゃうんだけど。
主人公の職業って最初こそ〝剣士〟だけど、ゲームのシステム的に自由に変更できちゃうから。
ロイドが剣を捨てて変態みたいな格好しながら冒険してたなんて、口が裂けてもエミリーには言えないね……。
エミリーは小さくため息を吐き、
「でも……それなら別の職業を選んでもよかったんじゃないの?」
「別の職業って?」
「冒険者なら〝狩人〟って職業もあるんでしょ? 狩りの経験もあるなら、アタシは尚更そっちの方がよかったんじゃ?」
「あ~、う~んと……」
俺がエミリーの職業を〝魔法使い〟にしたのも、その上で彼女に弓矢を装備させたのも、どちらも理由がある。
まず弓矢を装備した理由。
最初期にポップするモンスターは総じて弱いため、弓矢による攻撃でも簡単に倒せる。
さらに弓矢は矢が壊れない限り回収&再利用もできるので経済的。
なので無理に接近してダメージを受けるリスクを負う必要性がなく、最初は職業に関係なく弓矢を使った方が効率的なのだ。
次に彼女を〝魔法使い〟にした理由だけど……こっちの方が大事な理由だ。
まず彼女のステータス。
初期時点で既に魔力と知能・技能の数値が高く、反面防御力や素早さが低めだった。
これは〝魔法使い〟を始めとした後方支援職に見られるステータス傾向。
おそらくだが、彼女は魔法を主体としてレベリングしていった方が伸びると思う。
だが――正直、そんなのは建前。
最も遅いのだ。
ロイドのパーティに、〝魔法使い〟の仲間が加入するタイミングが。
〝魔法使い〟が加入する前にエミリーを育て上げ、ロイドと合流させれば、彼女の居場所を先んじてパーティ内に作ることができるかもしれない。
そして本来の〝魔法使い〟仲間が加入してくるのは、ロイドが『ポルト村』から旅立ってからずっとずっと後の話。
だから、あくまで可能性の話に過ぎないけど……これが一番現実的なんじゃないかと思って、俺は彼女を〝魔法使い〟にしようとしている。
――なんて、こんなことを説明しても彼女には理解不能だろう。
そもそも自分がゲーム世界の住人って自覚もないんだから。
俺はしばし言い訳を考え、
「エミリーにはさ、〝魔法使い〟が似合うと思ったんだ」
「どうしてよ?」
「〝魔法使い〟ってカッコいいし、それに服装が可愛いじゃん? きっと可愛いエミリーにも似合うと思って」
「っ……、か、可愛いって……なに言ってるのよ、もう~!」
突然褒められ、頬を赤くするエミリー。
いや実際似合うと思うんだよな、ローブ姿のエミリー。
そんな彼女を見てみたいと思うってのは普通に本音だし。
それにしても、可愛いと言われ慣れてないから不意に可愛いと言われると照れちゃうとか……エミリー可愛すぎるだろ!
やっぱり俺の推し、最高!
エミリーこそ影の正ヒロイン!
こんな幼馴染がいるとか、ロイドお前ずるいぞチクショウ!!!
……などと心の中で吼える俺。
そうこうしている内に、俺たち二人はダンジョンへと到着した。
少しでも「先が気になる!」と思って頂けたらブックマーク登録や、↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして評価頂けると作者はめちゃくちゃ喜びます~!




