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第5話 ステータス


「なにこれ、アタシの……ステータス?」


 紙に記入された自らのステータスを見て、実に不思議そうな表情をして見せるエミリー。


 彼女がそんなリアクションになるのも無理はない。

 そもそもこの世界におけるステータスというのは、冒険者・騎士・兵士など特定の職業(ジョブ)でなければあまり関係のない事柄だからな。


 この〝魔晶玉(マジック・クォーツ)〟で確認の手順を踏まなくちゃいけないっていうシステムも『ソード・ルミナス』と同じだけど、俺も最初はちょっと困惑したもんだ。


「そう、この紙に記入された数字がキミのステータス。で、下の方に書かれてあるのがキミのスキルだね」

「なんか……よくわからないんだけど」


 エミリーはまだあまりピンときていない様子。

 すると、


「ステータスとはエミリー様の戦う力。スキルとはエミリー様の戦闘や冒険者生活を便利にしてくれる、特殊能力のことを指します」


 補足するように、受付嬢が説明してくれる。


「ステータスが高ければ高いほど、強力なモンスターとの戦闘で勝利しやすくなります。そしてモンスターを倒せば経験値が手に入ってレベルが上がり、ステータスも上昇します」

「えっと……つまり強くなりたいなら、アタシはモンスターをたくさん倒せばいいってこと?」


 コクリ、と頷く受付嬢。


「そうなります。ですが、ただ倒せばいいワケではありません」

「……?」

「モンスターを倒して経験値を得ただけでは、レベルは上がりません。その経験値を持ち帰って頂き〝魔晶玉(マジック・クォーツ)〟を介して消費し、初めてレベルが上昇するのです」

「そ、だから貯めた経験値のことを貯蓄経験値、レベルを上げる際に消費する経験値を必要経験値って呼ぶんだ」


 今度は俺が受付嬢の言葉に補足を付け足す。


 ――これは『ソード・ルミナス』でも実装されていた経験値システムだ。


『ソード・ルミナス』がオープンワールドをベースとしたファンタジーRPGであるが、他にも様々なジャンルの要素をゲーム内に取り入れている。


 特に要素として強いのがハックアンドスラッシュとローグライクだ。


 ハックアンドスラッシュ――通称ハクスラと呼ばれるジャンルは、用意された敵と繰り返し戦って自キャラを強化していくというシステムのため、こちらはわかりやすい。


 だがハクスラは繰り返し戦闘を行うというシステム上、慣れてくるとどうしても単調な作業になりがち。

 敵を倒してレベルを上げて終わり……は、やはり味気なくなってしまう。


 そこで『ソード・ルミナス』の開発は、ゲームにローグライク要素とちょっとした死にゲー要素を加えた。


 まず、広大なマップ内に用意した二百を超える攻略ダンジョンを、全て階層式にした。


 迷宮ダンジョンならば下の階層へ、塔ダンジョンならば上の階層へ、森ダンジョンならば奥の階層へ――といった具合に、プレイヤーの強さや技量に合わせてさらに前へ進むか撤退するかの選択肢を取れるという懐の深さが用意されたのだ。


 階層を進むごとにモンスターから得られる経験値は多くなっていき、ドロップするアイテムも高レアリティになっていく。


 第一階層の敵は弱く攻略もしやすいが、階を進むに敵はどんどん強くなっていく。


 加えて『ソード・ルミナス』の歯応えがある部分は、〝セーブポイントなし〟〝経験値やアイテムのロスト&回収〟という要素があること。


 全てのダンジョンにはセーブポイントが用意されていない。

 だからダンジョン内で敵に倒されれば経験値は全ロスト、さらに入手したアイテムもロストすることになる。


 これが苦労の末に階層ボスを倒して、大量の経験値や確率でしかドロップしないレアアイテムを入手した後となれば、プレイヤーの喪失感は計り知れない。


 敵を倒して経験値を入手してもその場でレベルアップをしないので、「現地でレベリングして階層を突破する」というゴリ押しができないのもよく考えられていた。


 また、回収という要素があるのもいやらしい。

 ダンジョン内で倒れると一からやり直しとなってしまうが、手に入れた経験値やアイテムが一時的に死亡地点に残るという仕組みとなっている。


 つまり一度失った経験値などを回収するチャンスが与えられるワケなのだが……そこで一度死んだということは、そこに出没するモンスターは強敵なワケで。


 要は一度自分を殺した強敵のいる場所に、もう一度赴かねばならないことを意味する。


 さらにもう一度殺されてしまうと、今度こそ経験値もアイテムもロスト。

 なので死ぬに死ねない、ハラハラとした手に汗握るプレイングをやらされることに。


 もっとも、それらはプレイヤーが自らの意志で「もっと強い敵がいる先の階層へ進もう」と思ったからこそ起こる出来事。


 そこまでのスリルを求めないエンジョイ勢ならば、適度な難易度の階層で切り上げることも可能。


 ダンジョンには適宜脱出ポイントが設けられているという点も、ストレスがなくてよかった。


 さらに一部のメインストーリーダンジョンを除いてほとんどがランダム生成マップとなるため、飽きがこない。


 これら懐の深い難易度設定こそが、『ソード・ルミナス』が傑作と謳われた理由だ。


 まあもっとも……そんなシステムだったせいで、SNSや掲示板には「貯蓄経験値一億溜まった」と自慢する奴が現れたりとか、「百層迷宮攻略RTA」「レベル1でメインストーリークリア」「栗林チャレンジ」みたいな変人プレイ動画をネットに投稿するのが流行っちゃったんだけど……。


 お陰で「『ソード・ルミナス』のガチ勢は本物の変態」なんて言われるようになっちゃったし……。


 そういう廃人プレイヤー同士を競わせるというのも、もしかしたら開発や運営の思惑通りだった可能性もあるが……。


 しかしまあ、ゲームで見たシステムをこうしてリアルで見ると、流石にちょっと変というか違和感はあるなぁ。

 とはいえ、全く同じなのは好都合。


 ――さて。


「受付嬢さん、まずは彼女の初期職業(ジョブ)を変更したいんですけど」

「かしこまりました。それでは職業(ジョブ)はなにになさいますか?」

「はい――〝魔法使い(ソーサラー)〟でお願いします」


わかる人にはすぐわかっちゃうと思いますが、ゲームシステムの元ネタはソ〇ルライクゲームです( ˘ω˘ )

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