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第4話 気ぶりの本懐


 エミリーを育成しようと決めたその日の夜、俺は旅立ちの準備をまとめ、彼女を連れて村を出た。


 村人たちにはなにも言わずにこっそりと村を後にしたが、流石に書き置きもなにもないと怪しまれると思ったので、一応村長の家のドアに貼り紙をしておいた。


『エミリーにはロイドと一緒に冒険をしてほしいので、彼女を強くする旅に出ます。

 彼女はいずれロイドと一緒に帰ってくるので心配しないでください。

 クライより』


 ――という内容を書いて。


 エミリーと共に村を出て既に夜が明けているので、きっともうすぐ『ポルト村』は大騒ぎになるだろう。


 ま、気にしたら負けだよな。

 俺はエミリーとロイドにくっ付いてもらう方が大事なんだし。


 そんなこんなで、俺とエミリーは昇り始めた朝日に照らされつつ街道の中を歩いていく。


「……ねぇ、クライ。あんな張り紙だけしてきて大丈夫だったの?」


 朝日が昇る中、最低限の荷物だけ背負ったエミリーは不安そうに尋ねてくる。

 彼女からすれば半ば無理矢理連れ出された形となるのだから、訝しげに思うのも無理はない。


「いやー、ダメじゃないかな」

「え、えぇ……」

「でも仕方ないでしょ、俺はエミリーとロイドに一緒にいてほしいんだし」


 言葉に詰まった様子で眉をひそめ、俺のことを見てくるエミリー。

 彼女はしばし黙った後、


「……どうして?」

「え?」

「どうしてアタシのために、そこまでしてくれるの?」


 俺に向かって聞いてくる。

 そんな問いに対して、


「そりゃあ、ロイドのことが好きなキミを応援したいからだよ」


 あっけらかんと俺は答える。


「お、応援って……」

「俺は、真っ直ぐにロイドのことを想うキミが好きなんだ。理由はそれだけ」

「でもそれじゃ、クライにとってなにもいいことがないじゃない」

「あるさ。エミリーが喜ぶ顔が見られる」


 楽しみだな~、ゲームでは見られなかったロイドとエミリーが添い遂げる光景が見られるのが。


 それって実質隠しエンディングでしょ。

 じゃなければ追加DLCとか。


 でも運営もエミリーが不人気だって理解してるだろうし、ただ待ってるだけじゃ一生見られなかったと思うな。

 そう考えると、この世界に転生できてよかった。


 推しのために尽くせる世界、マジ最高。


「とにかく、俺のことはどうでもいいの。エミリーはロイドに追い付くことだけ考えればいい」

「……クライってば、変なの」

「ん? なんか言った?」

「なんでもない! それより、アタシたちはこれからどこに向かうのよ?」


 あ、そういえば言ってなかったな。

 俺たちが向かっている場所について。


「ああ、『ミロノフ』に向かう」

「『ミロノフ』って……冒険者ギルドがあるあの町?」


 ああ、と答える俺。


『ミロノフ』は『ポルト村』から少し離れた小さな町であり、田舎ながらも住人数が多く比較的発展した場所でもある。


 馬や牛車を使った方が楽ではあるが、徒歩で向かえない距離ではない。

 立地的にも都合がいいのだ。


 そして今まさにエミリーが口にした〝冒険者ギルド〟。

 俺が『ミロノフ』を目指す理由にも、大きく関係がある。


「……ロイドも、『ミロノフ』に向かったのかな?」

「いや、彼はあの町にはいないよ」

「…………なんでわかるの?」

「え? あ~……」


 なんで、と聞かれてしまうとなぁ。

 だってプレイしたからさ、『ソード・ルミナス』。


 最初の町へ向かうまでは実質チュートリアルだったから、嫌でもわかるよね。


 主人公であるロイドが最初に向かう町は、『ミロノフ』とは異なる方角にある『コーナタウン』という大きな町。

『ミロノフ』と比較してもずっと発展した都会だ。


『ソード・ルミナス』はオープンワールドゲームの要素があるから、様々な町や都市を自由に行き来できる。


 とはいえ序盤は行ける場所は限られ、特にチュートリアルが終わるまでは『コーナタウン』にしか行くことはできない。


 が、それはあくまでゲームの中だけの、それもロイドを操作していた場合の話。


 今の俺はロイドとなんの関係もなく、ましてやゲームのプレイヤーでもない。

 どこへ向かうにも自由ってワケだ。


 まあ、その分凶悪なモンスターが出没する地域にも行けてしまうだろうから、注意はしなきゃだと思うけど。


「ほ、ほら、『ミロノフ』は割と小さな町だし、ロイドならもっと大きな町へ向かいそうだな~と思って!」

「……なら、アタシたちもロイドを追いかけて、同じ町へ向かった方がいいんじゃないの?」

「いいや、ロイドと同じ町へ行っても、彼と一緒に冒険できないんじゃ意味ない。でしょ?」

「う……それは……」

「ま、とにかく俺を信じてよ」




 ▲ ▲ ▲




 ――街道や森の中を数時間ほど歩き、俺とエミリーはようやく『ミロノフ』の町に到着する。


 そして到着するや否や、俺は冒険者ギルドへと足を踏み入れた。


 宿屋と酒場も兼ねた冒険者ギルドの建物は大きく、町の中にあってもよく目立つ。

 建物の中では多くの冒険者たちがクエストボードを眺めて仕事を探したり食事をしたりして、とても活気に満ちている。


 俺はエミリーを連れ、受付嬢のいるカウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ! ご新規の方でしょうか? 本日はどんなご用件でしょう!」

「うん、まず俺と彼女を冒険者ギルドに登録したい。それと〝魔晶玉(マジック・クォーツ)〟による測定をお願いできるかな」

「かしこまりました! ではまず、こちらの用紙にお名前の記入をお願いします」


 そう言って受付嬢は記入欄のある紙を二人分用意し、俺とエミリーはそこに名前を書き込む。


 次にカウンターの奥へと案内されると、大きな水晶が置かれたテーブル席へと通される。


 俺とエミリーが椅子に座るのを確認した受付嬢は、


「では、これよりステータス(・・・・・)の測定を行います。えっと、まずはどちらの方から……」

「彼女――エミリー・ローデンからお願いします」


 俺が間髪入れずに答えると、受付嬢も「かしこまりました」とエミリーの方を見る。


「それではエミリー様、水晶に両手をかざしてください」

「は、はぁ……」


 今から行われる行為にどんな意味があるのかわかっていないらしいエミリーは、困惑しつつも両手をかざす。


 すると水晶がポウッと明るく光りだし、同時にすぐ傍に置かれていた紙に独りでに文字が書き込まれていく。


 そして記入が終わったのを見計らって受付嬢が紙を手に取り、目視で確認。

 問題なさそうなのをチェックすると、エミリーへと紙を差し出してきた。


「お待たせしました、エミリー様。こちらがあなた様の現在のステータスとなります!」



==========

名前:エミリー・ローデン

性別:女性


属性:炎

年齢:17歳

レベル:5


職業:村娘


攻撃力:20

防御力:10

魔力:30

素早さ:15

知能・技能:25


戦闘スキル

〔なし〕


日常スキル

〔親愛なる娘〕:人や動物と会話する際に親愛度アップによるバフを得る。交渉成功率+10%

==========


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