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百 万 回 は 死 ん だ ザ コ  作者: yononaka
却説:逍遥周回

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81/204

081_継暦136年_秋/A06

 よお。


 最低の悪夢を見ている心地のオレ様だぜ。


 苦労して倒したゴルティアがなんで大挙して向かってきてるんだ。


「こいつは、どういう……」


 オレの困惑をよそに、はたと気がついたようにソクナ。


「ここで研究していたのは『それ』か……。

 いや、壊れた都市を再利用したのがメイバラなのか……?」

「なになに、何を納得してるのさ」

「ああ、ごめん。悪い癖が出たね。

 ……ええと、ここでの研究は短命の呪いの解消、そのためのアプローチだと思う」


 ソクナが言葉を続ける。


「そもそも、短命ってのはなんだと思う?」

「短命ってのは、そりゃあ、寿命が短いってことでしょ」

「言葉の通りだね。

じゃあ『短い』ということは比較対象がある、ってことでもあるよね?」

「馬鹿な言い方かもしれないけど、『長い』の逆なんだから、そうだね」


 杖を構え、周りを見ながらも言葉を続けるソクナ。


「そう。だから短命の呪いに対しての単純な解決策として、短いのなら長くする。つまり寿命を延ばせばいい。

 そうして始まったのが延ばすための研究だよ。

 いきなり伸ばすやり方を探るよりも、もう少し単純なやり方から研究をはじめたんだ」

「つまり?」

「命そのものを増やせばどうなるか。

 その研究結果が、」

「増やしてみた結果がゴルティア(彼ら)ってこと?」

「うん。増やすのには成功しているだろう。

 命の増殖かはさておいて、数と紐づいた動作についてはできているね。

 彼らの姿が骨だから個体差がわからないだけかもしれないけど」


 確かに装備からしてゴルティアがたくさん来たと思ったけど、そういうわけじゃない可能性もあるのか。


「さっき会話してたよね。

 その内容は?」

「ここで語っても意味はないかな」

「わかった。

 それじゃあ、次の質問だけど、オレ様たちが倒したゴルティアは本物なの?」


 距離をゆっくりと詰めてくるゴルティアの集団。

 こいつらからは先程戦ったゴルティアみたいな意思や自我のようなものを感じない。

 まるで人形だ。


 ゴルティアにも出来不出来があるのかもしれない。

 いや、それに関してはむしろどうでもよくて。


 自分の考えを整理しながらになる。

 何を考えて飲み下し、何を正確に伝えるべきか。


「こいつらは出来不出来に関わらず、オレ様たちを狙うわけだよね。

 正確に、統率されたように。

 つまりさ、こいつらを操っているのがどこかにいるんじゃないのかな」

「それは……そうか。

 焦っちゃって思い至らなかったけど、アンデッドであればそれを操る屍術士がいるのは当然だね」


 屍術が何かはわからないが、会話の流れからするとアンデッドを操る魔術のようなものだろうか。

 彼女は少し考え込んでいる。

 ここに来るまでも時折立ち止まり思考していた。

 そこからわかるのは、彼女はこの場所の地図を頭の中から調べ上げているってことだ。


「どうあれ、この包囲を抜ける必要があるか」

「うん。

 私の魔術じゃあ倒しきれない。

 一対一には飽和攻撃ができるけど、多数が相手だと飽和攻撃しきれなくて」

「逆に言えば、親玉のところまでいって親玉だけを殺すってことならできる。

 そう捉えてもいい?」


 さっき倒したゴルティアも、彼女からしてみれば自分一人で倒せた相手なのかもしれない。

 だとしたらオレが変に格好つけただけか。

 ちょっと恥ずかしい。


「それはそうだけど」

「わかった。

 道は作る」

「作るって、どうやって」

「これがあるよ」


 見せたのは崩剣。


「これで道を作ることができる。使い方も、まあ、経験がある」


 オレの言葉に「でも」とソクナが抵抗感を言葉にしようとするが、それを拒むように続けた。


「このまま戦ってもジリ貧だけど、勝ち筋はあるんだ。

 包囲を破れるのはオレ様だけ、そして単騎性能が高いのはソクナ。

 オレがなんとか道を作る、後ろから襲われないようにもする。

 親玉の首狙ってこいなんて危険な仕事だけど、頼めるかな」


「頼むも何も……わかったよ。わかった。

 必ず制御している術者は破壊する。

 だから、約束してほしい」

「できる範囲でなら」


 こちらを真っ直ぐに見つめ、ソクナが云う。


「死なないで」

「……それは」


 まいったな。

 できないだろう約束だ。

 けど、嘘をついてソクナがやる気が出るなら、嘘つきにでもなる。


「わかった。

 生きて、一緒にご飯を食べよう。美味しい奴をさ。あとはふかふかのベッドがある宿も探さないとね」

「絶対だよ」

「ああ。約束したよ。じゃあ、行こう」

「うん、行こう」


 ───────────────────────


 ソクナとの約束を果たせるかは正直、自信はない。

 だが、このまま手をこまねいていても二人とも死ぬだけだ。


 一度、魔剣を使ってインク切れで死んだ。

 そういう死に方もあるのかと思った。


 剣に力を入れる。

 インクが接続され、まるで手足のように、或いは元からそうした器官が備えられていたかのように、崩剣の機能を認識する。

 二叉になっている部分が放電を始めて、やがて、制御から外れたインクが雷のように弾けていく。


「いけぇーッ!!」


 振り下ろすと同時に剣から光が発せられる。

 膨大な力が一瞬にして迸り、進路上に居るゴルティアたちが消し飛んだ。

 先程相手にしたゴルティアよりも反応も、強靭さも何段かは下だ。

 それでも、脅威には変わりないし、中にはあのゴルティア並のも居る可能性はある。


 本来の使い方とは異なる運用だったのか、その力に驚いた表情を一瞬浮かべながらもソクナが走り出す。

 進むソクナの背を追うようにして、そして途中で立ち止まる。

 追いかけようとするゴルティアの群れに剣を向けた。


 インク切れしたときのように死ぬことになるかとも思ったが、死んだ経験が生きたのか(まったく妙な表現だけど)、まだ立っている。

 それどころか、これ以上無いほどに力が漲っている。


 けれど、これがどういうことかもわかる。


 オレの中の何か、大切な臓器が壊れたのだ。

 管理するべきインクが無制限に体中に溢れ出ている。

 この気力の充実はいっときのものだろう。


 だけど、都合がよかった。


 崩剣を構える。


「あとはソクナ次第、って言えるようにしないとね」


 武器を振るい、光の奔流がゴルティアたちを焼き尽くしていく。


 ───────────────────────


 何の益体もない先祖の遺言を守り続ける血族に嫌気がさした。

 彼らは口を揃えて、私こそが先祖の生まれ変わりなどともてはやした。


 先祖と同一視することで私がそうだと誤認して欲しかったのか。

 先祖が遺した研究を現実にすることで名声を得たかったのか。


 私の体はそこかしこをいじられた。

 当主である私の母親も私ほどではないにしろ(私には適性があったから、大いにいじられた)、体をいじくり回されているから、それが不思議なことではないと思っているふしもあった。


 自分の体が好きでもない他人にいじくられるのが本当に苦しかった。

 それが好きだというもののほうが珍しいのかもしれないけど。


 喉から発する声は人を不快にさせるような音色にかすれる。

 インクの循環率を高めた体はまるで体調不良の人体のように常に発熱している。

 そうした改造の結果で与えられた特徴が、私は私が嫌いになるのに十分な理由になった。


 そのどれもを、彼は否定しなかった。いや、肯定すらしてみせてくれた。

 私は、彼に惹かれつつあった。いや、照れ隠しなどせずに言うなら強く惹かれた。

 はじめて友人と呼べる相手を見つけられた、そんな気になったのだ。


 だからこそ、ここでの仕事を終わらせて、今度こそ家と決別しようと思えた。

 今まではずるずると関係を続けていた血統のあれこれに区切りをつける。


 そうして、それからは自由な身で旅をする。

 彼が、ローグラムが許してくれるなら、共に。そう願った。


 ……けれど、きっとそれは叶わない可能性が高い。

 彼は死ぬ気だった。

 そして、私もまた、血統が遺した仕事を果たさねばならない呪いのような使命に駆られていた。


 けれど、まだわからない。

 私が風より早く進み、稲妻よりも早く敵を打ち倒せば、彼の命は永らえるかもしれない。

 今までの研鑽も、つらい施術も、全てこの日のためだと思わせてほしい。


 私は急いだ。


 一番奥の部屋に入る。

 半球状の建物の中心に、玉座に座るゴルティアの姿があった。


 その玉座は膨大な儀式や付与術によって制御されたものであるのがわかる。

 制御するための端末となったゴルティアには意思を感じられない。


 ───────────────────────


「ああ、公爵閣下……。

 お待ちしておりました……」


「ゴルティア卿ですね」

「公爵閣下……。いや、その末孫なのですか?

 ですが、ここに来たということは約束を果たされに」


「はい、あなたを呪ったものの、その血裔です。

 あなたを解放するために参じました。

 それを望むでも、望まないでも……ごめんなさい、終わらせなければなりません」


「お待ち、しておりました。長い時間でした。

 いまも私の自我はこの一つ。破壊してください。

 どうか、私に永劫の眠りをお与えください……」


 ──単身でこちらと戦ったゴルティアとの会話を思い出している。

 この眼の前にいるゴルティアの成れの果ては、文字通り、端末に命じるためだけの機能だけだ。


 ゴルティア卿に哀悼の意を向けたいところだが、申し訳ないがそんな暇はない。

 彼の、ローグラムの命が掛かっているのだ。


「《回路解放》」


 先祖から受け継ぐ一族秘伝の、改造を受けたものだけが制御できる請願を起動する。

 全身にしびれが走る。

 髪の毛は擬態のための鈍い金色から、先祖から受け継ぐ水色へと変わる。


「██#0、██#10」


 周囲に光球が浮かび上がる。


「《██》」


 私の喉は特別な作りをしている。


 人間には発声できない音を循環させて、一つの言葉を繰り返したり、極めて高速で発生できる。

 回路解放の請願は喉へと直接的にインクを注ぎ込み、より膨大な処理を可能とする。


 それが必要になるものは、単純だ。


 先祖が作り出した繰り返し発生し続ける魔術。光球を大量に発生させ、それをさらに同時並行で制御し続ける狂気の攻撃手段。


 先祖は思考とその制御において怪物的だったのだろう。

 私の頭はそこまで沸騰もしていなければ、おかしくもない。だから、その制御などは請願で補佐する必要があった。

 そういう意味では、私も先祖が求めた完成品には遠い存在なのだろう。


 だが、それがゴルティアと私の勝敗に関わるかといえば、そうではない。


 ゴルティアが踏み込む。

 先程戦ったものよりも遥かに鋭い。

 技巧も幾つか見える。

 剣、体捌き、踏み込み、それ以外にも多くの技巧が籠められている。

 だが、関係ない。


 勝敗は決しているのだ。

 私が回路解放したそのとき、既に。


 光条は解き放たれ、飽和攻撃がゴルティアを破壊した。

 徹底的に、痕跡も残らないほどに。

 そして、幾つかの光球が彼が座っていた玉座、つまりは制御に必要な機能をも破壊する。


 私の仕事は一族が外に遺した技術の廃棄。

 それは今果たされた。


 急ぎ、ローグラムの元へと向かう。

 制御していたものは破壊した。

 恐らくは彼と戦っていたものも停止するはずだ。


 ───────────────────────


「ローグラム!」


 彼女が走ってくる。

 けれど、彼女が望んだ友は壁に背を預け、眠るように目を瞑っている。


「……ローグラムの、……嘘つき」


 体中に突き立った剣が、それでもこの道を通さないと奮起した気概が見て取れた。


 亡骸から香りが漂っていた。

 インクの香りが。

 だが、それは人間が死したときに発するものとは明らかに違った。


 彼女はその生い立ちから数多の魔術、請願、儀式、付与、他にも多くのものを見て、感じて、触れてきた。

 だからこそわかる。


「儀式術……?

 いや、それだけじゃない」


 彼女が最も深く触れてきたもの。

 或いは、彼女の血統が最も深く研究したもの。

 それこそが、香っていた。


「この匂いは、忌道の……。

 でも、君がどうして」


 足音が響く。


「なるほど、この状況は少し厄介ですね」

「誰……」


 彼女は杖を取る。インクが迸り、魔術の発露を感じさせた。

 それでも現れた人物は冷静に言葉を投げかける。


「私はヘイズ、ライネンタート様のもとで職務に就かせていただいております。

 お初にお目にかかります、『破獄』のソクナ様。

 それとも、こうお呼びするべきでしょうか。

 ザールイネス公爵閣下」

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― 新着の感想 ―
ご先祖様はおっぱいがおっきかったのに、小さくなったんですね……w
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