第六章 1 『魔法と秩序』
心地良い風に優しい陽射し。耳を落ちつかせる葉擦れの音は以前より小さい。
アストルムの修練場は以前と変わらず自然に囲まれている。
先日、レナ達マリナに武闘大会についての詳細を聞かされた。 ルノイドとエミレアもレナ達の様子を眺める。
「参加するとは言ったものの、どう対策したら良いか全然検討もつかないな……」
「レナは良いでしょ!! 私なんてファースト階級の中でも実力に自信がないのに戦う相手がランダムで当日まで分からないなんて……!!」
リゼは頭を抱えて呻く。レナ程の人材がたくさんいるとは思えないが、アルテミシア並の実力者はそれなりにエントリーしてそうだ。つまり、アルテミシアに勝てと言われているようなものだ。いくら訓練になるとは言えど、頭を抱えたくもなるだろう。
「私もオルフェイアがどれ程の戦力かは全く想像つかない。故に正直胸が高鳴っているよ」
アルテミシアはほんのり頬を染めるとそんなことを言う。レナも口ぶりの割にはどこか楽しげに、そわそわしているように見える。
まったく、強者は変人ばかりだ。
「試合で命を落とす心配は無いって言ってたけれど本当なんですかね……」
「リアの心配も分かるよ。なんか特殊な結界とかいってたね。どういう原理なんだろう」
ルミナは思い耽る。今までに完全に身を守る結界など見た事がないからだ。リグモレス第一領域に生息するカルムエイラスの魔力障壁でさえ、無属性魔術で破壊されていた。
「私も正直よくわからん。アストルディアの魔法だとか。アストルディアの闘技場には基本的に使われているらしい。聞いた話だが、指定範囲内の対象と結界は紐づいており、対象者が受けたダメージが結界に蓄積するらしい。一定量蓄積すると、より多くのダメージを結界に肩代わりして貰った対象が結界の外に弾き出されるとか。要は結果内に残っていた者が勝者と言うわけだな」
「何それ、強すぎない? 本当にそんな魔法が存在するなら無敵じゃん。その結界の中に入れば死ぬことは無いんでしょ?」
ルナは怪訝な表情零す。確かに、ダメージが一定量蓄積することで対象者が外に弾き出されるのであれば、結界自体に耐久値が無いということだ。結界内に入ってしまえばどんな攻撃でも無傷で凌げるということになる。
「優れた魔法である事は間違い無いんだろうが、そんなに便利な物でも無いらしい。私も結界の異能は得意とするところだからな、一応興味本位で色々聞いたんだ。結界の効果を受ける者は魔力を介した"合意"が必要だと言うこと。つまり、敵対者に対して結界を行使するのは不可能という事になる。私自身魔法のことは詳しく分からないが、個人的には異能に比べて制約があるような印象を持った。無論、それはデメリットだけでは無い。制約が厳しければそれに見合う程に強力な魔法が行使出来るという事だ。言い換えれば"秩序"を重んじた力と言ったところだろうか」
「なるほどね、そんなにうまい話は無いか。秩序については精霊達の重んじる世界の秩序とは少し違うような気がするかな。何となくだけれど」
「そうだな。私の主観では異能は極端に表現すると、なんでもありってイメージがある。精霊とアルマを絡めれば特にそうだ。ただし、犯してはならない領域があり、そこに足を踏み入れることは許されないが、その判断は使用者に委ねられている。対して魔法はその判断を使用者に委ねるのではなく、力を行使すること自体を禁止されている、そんな感覚だろうか」
「犯してはならない領域ってアウラがこの前オレに言ってた話か?」
レナが問いかけると応えるようにアウラは風と共に姿を現す。
「そうとも言えるし違うとも言える」
「なんだよそれ……」
「アストルディアに神はおそらく存在する。記録書が全て正しいとは思わんが、"魔法"はおそらく神の恩恵によるものじゃ。先程の話にあった"力の行使を禁止する存在"、言い換えれば"力の行使を許可する存在"が神なのだろう。おそらくじゃが、その神が存在するとして影響が及ぶのはあくまでも魔法であり、異能では無い。じゃからこそ、レナの世界を書き換えるほどの異能は行使出来た」
「確かあの時、オレはアウラに見逃して貰えた。と言われた気がしたが、それは今言った神のことか?」
「そうじゃ。その神は、おそらくこの世界の秩序を守る為に存在していると考えておる。仮に、その神でさえ異能に干渉出来ないのだとしたら? わしの見解じゃが、秩序を守る為にどんな手段にでるのか分からんという話じゃ。まあ、他にも思うところはあるのじゃが、今はその話は置いておこう。これ以上話をややこしくするのは本望ではないのでな」
「なるほど……気をつけよう。オレも流石に神相手で心躍るほどイカれては無いよ……」
アルテミシア達が「え?」と真顔で言いたそうな表情をしている。いったいオレはなんだと思われているのだろうか。
しばらく話を聞いていたリアは「なんか頭がくらくらしてきた……」と目を回す。色々と推測の入り交じった会話の上、今度は神と来たものだ、頭も抱えたくなるだろう。
「ちょっと話が逸れすぎたね。何はともあれ、今日は実際の武闘大会に似た形式で模擬戦でもしてみようと思って集まって貰ったんだ」
アルテミシアは話を半ば強引に戻すと嬉しそうな表情で、
「まずは、リアとルミナ。行ってみよっか」
広大な修練場でアストルムのガーディアンによる模擬戦が始まろうとしていた。




