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クラリアスノート  作者: ゆさ
第八章 『勇者』
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第八章 4 『分岐②』


挿絵(By みてみん)



心地よい陽射しに照らさた少女の髪は、いつもより淡い。

背丈もこうして見ると、伸びている気がした。

帰る場所を守り、ただそこに立って優しく微笑むその姿は、大切な一人の女性に重なった。


「おかえり、リア、ルミナ、アルテミシア」


ああ、きっと、あの人もこんな気持ちだったのだろう。

雨の中、肌に感じた温もりは、今でも忘れない。


「ただいま。リゼ」


リアはリゼを優しく抱き寄せる。そんな様子に気づいたかのように、ルナとヨシュア達も姿を見せる。


「あんまり心配かけるなよ」


ルナはぷいっと顔を背ける。「照れ隠しだよ」っとヨシュアが補足すると、顔を真っ赤にしてヨシュアの脛をつま先で軽く蹴る。

リア達がいない短期間の間に何があったのだろうか。ルナとヨシュアの距離感に変化を感じた。喧嘩するほど仲が良いとは、このことだろうか。


「みんな、心配かけてごめん。ありがとう」


そして、時間差で管理人であるマリナ・エクトルネアは姿を見せた。

立ち振る舞いというか、そう見えるだけかもしれないが、リア達に対して心配する様子は一切ない。合理的に考えれば管理人とはそういうものだ。

今考えてみれば、ネイト・ストレシアが普通ではなかったのかもしれない


「積もる話もあるだろうが、今日はゆっくり休むと良い。落ち着いたら君達には話がある」


マリナは何か含みのある言い方をする。悪い話でなければ良いが。だが、確かに今日は今すぐにも休みたい気分だ。リア達にとってアストルムは帰る場所だから、今まで張っていた緊張が一気に解けるように。

正直、立っているものやっとだった。


今日のところはマリナの言う通り、心身ともに癒すことに専念することにした。




◇◇◇◇◇◇◇



レナは、ゼルグと共に大きな扉の前に立っていた。

そこにはアウレオ・アルヴァイスの従者であるアステリアが扉を開ける準備をしていた。

以前案内された時と同じ扉だが、ここに行き着くまでの経路は全く違った。

アステリアの案内がなければ確実に迷っていただろう。


「じゃ、開けるよ」


「今回はちゃんと鍵を持っているんだな」


「──ッ!! うっさいな!持ってるよ!!」


頬を染めて怒るアステリアは温度感の異なるゼルグを見て一瞬萎縮すると、扉に手をかざす。


──ホォワァン。

──シャリシャリシャリッ。


正面の壁は大きな円と、複雑な紋章を浮かび上がらせると、複雑に細分化された壁は、音を立て新たな道を作るように変形した。


以前に見た光景と一致する。

賢者アウレオ・アルヴァイスの拠点へ続く道は開かれた。


アステリアを先頭に二人は歩みを進める。ゼルグという大男が余裕に通れる程には道は広かった。



そして、アウレオ・アルヴァイスは待ちかねたように立っていた。


「レナよ久しぶ──」


「──殺ス」


聞いたことも無い声がアウレオの言葉を遮った。

足まで届くほどの純白の長髪を激しく揺らし、真っ赤に染まる刻印の刻まれた瞳はどうやらゼルグを捉えていた。

肌は通常見ないような、褐色と呼ぶには黒に近く、ほんの僅かに青みを帯びていた。髪も、瞳も、肌も、今の色に変色している最中のようにも見えた。

最も、レナの観察眼出なければこの一瞬でそれを見抜くことはできないだろう。

いずれにしても問題は、既にゼルグに対して少女が飛びかかっていること。

仲裁すべきと一瞬迷ったが、ゼルグの事だ。問題ないだろうと、ゼルグの様子を確かめてレナは息を飲んだ。


ゼルグはレナがこれまでに見た事の無いような表情をしていたからだ。

それは焦りにも似た表情。常に余裕を見せるゼルグが到底見せる表情とは思えなかった。


刹那、仲裁は不可能と悟った。


だが、同時に、アウレオは動く。

杖をコツンと地面に接触させると、無数の光の鎖が物理法則を無視し、少女の動きを完全に止めたのだ。


「ルイン。落ち着け。頼むから、私にこの力を使わせないでくれ」


アウレオの言葉はどこか悲壮に満ちていた。

その言葉を聞いた少女の髪は、青紫に、瞳は澄んだ青色に、肌は色白の綺麗な色へと変化する。おそらく、現状が通常の状態だったのだろう。


ルインと言う言葉を聞いて納得する。

この子が、アステリアが言っていた少女だ。


「……ごめン。敵だと思っタ」


アウレオは正気に戻ったルインを確認すると、光の鎖は消失させた。


「すまないのう。まさかゼルグ・エインドハルグを連れてくるとは思わなかった。悪く思わないで欲しい」


「……俺のことを知っているんだな。それより、そいつはなんだ? アウレオ、お前は一体何を……」


ゼルグは珍しく大人しく、慎重に言葉を選んでいるように思えた。何を"作って"と言おうとしたのだろうか、その言葉を飲み込んだ。今目の当たりしした、ルインという生命を"作って"しまったのだとしたら、到底自分の手にも負える存在ではない。


「……作った、とは言わないんじゃな。わしが思っている以上に君は善人のようじゃ」


「……ッチ、うるせぇよ」


見透かしたようなアウレオの言葉にゼルグは軽く悪態をついた。そんな悪態も、アウレオは柔らかな表情で受け止めた。

何百年も生きてなお、人の心を持った賢者にとっては、ゼルグ・エインドハルグという存在も、等しく一人の愛すべき生命であるのだろう。


「レナよ。久しぶりじゃ。会いたかった。積もる話もあるじゃろうし、こっちで話を聞こう」


こうして、一瞬ヒヤッとする場面はあったものの、スムーズにアウレオと話ができる段階へとたどり着けた。



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