第15話 今のふたり
「お二人の間にはそんなことが……私、感動しました……!」
レイラの話を聞いたアイシャさんは目を潤ませながら言う。
思えば僕もレイラ視点で話を聞いたことがなかったので、初めて聞いた話もあった。
話の中でも事件の後、母上とレイラが話した内容は気になったけど……そこの部分はあまり詳しくは話してくれなかった。いったいどんなことを話したんだろう?
気になって尋ねてみたけど「それは秘密です」とはぐらかされてしまった。気になるけど、あまり踏み込みすぎるのはよくないよね。
「私はイザベラ様からテオドルフ様のことを任されました。一生お側に仕えるつもりではありますが、重荷になるつもりはございません。ですのでテオドルフ様がどなたと結ばれようと邪魔をするつもりはございません」
レイラの言葉にアイシャさんは「なるほど……」と呟く。
そうだ。元はと言えばアイシャさんが僕とアリスの結婚に異議はないのかを尋ねたことから昔話を話す流れになったんだ。思ったより話が長くなってしまったのですっかり忘れていた。
「でもレイラさんもテオくんのことを愛しているんですよね? テオくんもレイラさんのことを大切に思っているように見えますし、レイラさんも結婚しちゃえばいいんじゃないですか?」
「そんな簡単なことではないのですアイシャ。テオドルフ様が私に向けてくださる思いは家族愛に近いでしょう。私と結婚など考えたこともないでしょう」
レイラの口から出た言葉に僕は「え?」と反応する。
「いや、そんなことないよ。レイラはいつか僕と結婚してくれるのかなって思ってたけど」
僕がそう言うと、レイラの体がビクッと反応し、動きが止まる。
そしてゆっくりと顔がこちらを向き「それは……真でしょうか?」と尋ねてくる。
「え、うん。あんな風にスキンシップをされてたら僕も意識しちゃうし、いつかそうなるのかなって思ってたよ」
レイラは自信があるように見えて、変なところで自己評価が低い。
こんなに美人な人がずっと近くにいて、しかも好意を向けられていたら好きになって当然なのに。でも彼女にその気がないなら、僕の方から無理やりいくわけにもいかない。
「でもレイラが結婚をするつもりないなら、無理にしなくてもだいじょ……」
「いえしましょう」
目にも止まらぬ速さで接近してきたレイラが、僕の両肩をがっちりとつかむ。
肩をつかむ手の力が万力のように強くて体がぴくりとも動かない。それになんだかレイラの僕を見る目が怖い。まるで肉食獣に睨まれた獲物のような気持ちになる。
それになんだか視線にじっとりとしたものを感じる。部屋の湿度、上がった?
「不覚でした。まさかそのように考えてくださっていたとは。しかしそう思ってくださっていたのでしたらもう遠慮をする必要はありませんね」
「え、今まで遠慮してた?」
あんなにスキンシップ激しいのに遠慮してたとは驚きだ。
じゃあ遠慮がなくなったらどうなるんだろう。考えただけで怖くなってくる。
「安心して下さい。結婚しても家事の手は抜きませんので。育児も全てお任せ下さい。あ、子どもは何人にいたしましょうか? 最低10人は作ろうと思っているのですが……少ないですかね?」
「ちょ、気が早いって!」
レイラの声色はガチトーンだ。冗談を言っているようには聞こえない。
身の危険を感じた僕は助けを求めるためにアイシャさんに視線を送るが、彼女は僕たちの様子を顔を赤くしながら興味深そうに観察していた。
だめだ。助けてくれそうにない。
諦めていると、レイラが僕のことをひょいとお姫様抱っこする。
「今までテオドルフ様のお気持ちに気づけず、申し訳ございません。今まで気がつけなかった分、これからはたくさん私の『愛』をお伝えさせていただきますね……♡」
レイラはそう言うと寝室の方に足を向ける。
僕はこれからどうなってしまうんだろう……。
「アイシャ、私とテオドルフ様はこれから少しやることがありますので、今日はもう帰っていただいて大丈夫です。また明日の朝……いえ、長引くかもしれませんので昼に来て下さい」
「ひゃい! 分かりました! えと、その、ごゆっくりお楽しみください!」
アイシャさんは恥ずかしそうにそう言うと家から出ていく。
これでこの家には僕たち二人っきり。完全に退路は断たれてしまった。僕はせめてもの抵抗でレイラに上目遣いで頼み込む。
「えっと、お、おてやわらかに」
「申し訳ありませんが、今日だけはお聞きできません……♡」
そう断言し、レイラは部屋に入り、扉を閉める。
結局、次の日の夕方まで僕が解放されることはなかった。
……す、凄かった。




