第19話 太陽の女神
「……あれ? ここは……」
宴が終わり、アリスに連れ去られた日の夜。
僕は周りが真っ白な、なにもない世界で目を覚ました。
女神様に呼び出された時は、よくこういったところで出会う。
また女神様に呼ばれたのかと思っていると……
「よかった。無事呼ぶことができました」
「え?」
声のした方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
いや、正確には立っていない。その足は少しだけ宙に浮いている。
その人は白いふわふわした髪をしていて、岩でつくられたような服を着ている。目は閉じられいてなにを考えているかは読みづらいけど、薄く微笑んでいるその顔はとても優しそうに見える。
「あの、あなたは……」
「我が名はヘリオス。太陽の力を司る、女神の一柱です」
「女神って……ヘスティア様と同じ、あの女神ですか?」
僕が尋ねると、ヘリオスと名乗った女神様はこくりと頷く。
確かに彼女からは他の女神様と同じ、なんだか神聖なオーラを感じる。悪い人にも見えないし、嘘ではなさそうだ。
なんで急に僕の前に現れたのかは分からないけど、ひとまず僕も挨拶しないとだよね。
「初めましてヘリオス様。僕はテオドルフと申します。えっと……」
「あなたのことは存じています。ヘスティアの寵愛を受けし人の子よ」
「え?」
僕が驚いたような顔をすると、ヘリオス様は楽しげに微笑む。
「ヘリオス。この名に聞き覚えはありませんか?」
「へ? そういえばどこかで聞いたような……あ」
少し考えた僕は、最近聞いたある名称を思い出す。
「太陽石……」
「そう。ドワーフの子らを照らす巨大な魔石……あれが私なのです」
ヘリオスさんはとんでもないことを口にする。
ドワーフの国オルヴァザールには、確かに巨大な光る魔石があって、それが地下の世界を太陽のように照らしてくれている。
この人……いやこの神様がそれってどういうことなんだろう?
「私はかの神魔大戦の最中、悪神ハデスと戦い命を落としました。その際に倒れたのがこの山なのです」
ヘスティア様たち神様は、かつてハデスという悪い神様と戦い、なんとか勝利した。
しかしその戦いで多くの神や英雄がこの地で死んだらしい。ヘリオス様もその内の一柱だったんだ。
「私は死後、巨大な魔石となりました。そして山の中に眠り長い時を過ごしました。人々に忘れられた神は力を無くす……自我も失いつつあった私は、このまま消えるのだと思っていました。しかしある日ドワーフたちが私を見つけ出し、太陽として使ってくれたのです」
ヘリオス様はその日のことを嬉しそうに語る。
「ドワーフは私の光を敬い、信仰してくれました。信仰は私に力を与え、こうして再び自我を取り戻すに至りました。彼らは私を愛し、私もまた彼らを愛したのです。しかし私の強い光は、別の者まで招いてしまいました」
「岩の王……」
僕の呟きにヘリオス様は頷く。
岩の王が来たことは彼女にとっても想定外のことだったみたいだ。
「自我を取り戻したとはいえ、戦うほどの力は残っていません。私は傷つく子らを見守ることしかできませんでした」
眉を落とし、悲しそうな表情をするヘリオス様。
しかし彼女は元の優しい表情に戻ると僕をじっと見つめてくる。
「ですがそこにあなたが現れました。あなたは見事哀れなゴーレムを撃退し、みなを救ってくれました。本当にありがとうございます。あなたには感謝してもしきれません」
「そんな、僕は手を貸しただけですよ。それにドワーフの人たちと仲良くなりたかったっていう打算もありましたし」
「照れなくても良いのですよ。あなたは賞賛されるに値することを成したのですから」
ヘリオス様はそういうと僕の方に近づき、顔を覗き込んでくる。
女神様はみんなとても美しいのでついつい見とれてしまう。
「心優しく、愛しい子。あなたの険しき道に祝福がありますように。私はあなたの旅路を祈ってますよ」
ヘリオス様はそう言って僕の頬を優しくなでると、ちゅっと僕の頬にキスをする。
僕が驚いて目を丸くしていると、彼女は僕の手になにかを握らせ、最後に微笑みを浮かべる。
「ヘスティアたちにお伝えください。私は元気にやっている、と」
「あ、ヘリオス様――――」
景色が白く染まっていき、意識が霧散する。
こうして僕は、ヘリオス様から加護をいただいて元の世界に戻るのだった。




