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カルテット、4/10000。  作者: 三香


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72/82

10000人レース ー72 ちっちゃい激カワの手乗りパンダは齢数千年のおじいちゃま

死の表現があります。

ご注意下さい。

 祐也、高広、彩乃は急いでいた。

 ゴーレムの討伐が終わり、水原たちと別れを告げて空に上がったが。滝壺にひとりで残った理々が敗者の生徒たちに襲われていないか、心配だったのだ。


 その心配は杞憂として終わらなかった。


 理々は滝壺の淵で倒れていたのだ。

 理々の傍らでスライムちゃんが「ミー! ミー!」と心配そうに鳴いている。


「「「理々っ!」」」


 駆け寄って、祐也が理々を抱き上げる。

「理々! 大丈夫か!? 誰かに襲われたのか!?」

 うっすらと目を開けた理々は、祐也の姿を見てポロポロと涙をこぼした。

「……祐也、よかった、無事だったのね」


「ううん、理々は誰かに襲撃されていないよ」

 理々の涙がとまらない。瞳の中に海があるみたいに次々とあふれる。

「理々は酷い子なの。たくさん人が死んだのに、それなのに、祐也の無事な姿が嬉しいの」


「理々……っ!」

 祐也が、ぎゅっと理々を抱きしめる。


「祐也、祐也、祐也」

 理々が祐也の名前を繰り返す。

「祐也、ごめんね。理々を許してね。理々は、理々は、もうダメみたいなの。祐也と高広と彩乃を助けたかったの、だから幸運様と秘密の契約をしたの。でも、理々の身体はもうダメみたいなの……」


 突然の理々の告白に祐也の表情が強ばる。

「理々……?」


「初日に幸運様が固有スキルになった時、幸運様の声が聴こえるようになって、理々は、言えば反対されると思ったから黙って幸運様と契約を…………」


 理々の手が祐也の頬を撫でる。

 その手が雪のように白く、冷たい。祐也は目を見開いて息を呑んだ。心臓が暴れるみたいに波打つ。


「祐也、許して……。残酷な言葉を遺す理々をどうか許して……」


 理々の瞳が祐也だけを映す。

 けれども、視界が霞む。祐也の姿が滲む。潤む視界が暗く、遠い。


 全身が痛い。何かが千切れるみたいに、ぶちぶちと身体の中で音がする。


 紡いではいけない、残る祐也にとって苛酷すぎる言の葉だと理々はわかっていたけれども。

 けれども。

 人間の天敵は人間と考える理々に、辛い時に心に思い浮かべる人がいることのできる幸福を教えてくれたのは祐也だったから。


「お母さんが一番好き」と言った幼い理々の言葉が、仕事を優先して家庭を顧みない夫に頼れずに、ひとりで育児をしていた母親を追いつめてしまったことを理々は身にしみて知っていたけれども。

 けれども。

 寂しい時に歌を歌って自分を慰めていた理々をひとり占めして、帰る家があって夕御飯を一緒に食べれる幸福を教えてくれたのは祐也だったから。


 理々に、真っ暗な夜であっても空に光がひとつでもあれば、それは闇夜ではなく星空になると祐也が教えてくれたのだ。


 だから。

 

 理々は嗚咽でもつれる舌を震わせて、消える雪の結晶のような幽けき声を絞り出した。


「祐也、大好き」


 鮮血が、むしられた花のように散った。

 ごぽりと口の中に温かいものが迸り、理々の細い喉の奥から溢れ出た血が赤いガラスの破片みたいに唇から広がった。


 流れ落ちる血が、みるみる祐也の手を真っ赤に染める。


「理々っ!!」

 祐也が理々にすがりつく。

 すぐさま彩乃が魔法を使うが治癒の効果がない。彩乃の治癒魔法では処置ができないほど、理々は死の間際にいた。


 理々の体温が、血に塗れた祐也の手から砂が落ちるように消えていく。


「あぁ! ああああああああああっ! い、いやだっ! いやだ、理々っ!」


 ドゴンッ!! 絶叫を上げる祐也がぶっ飛んだ。


「邪魔ッ!」


 仁王立ちするセレオネちゃんが、そこにいた。

 セレオネちゃんの隣には、10センチのセレオネちゃんよりもやや小さい激カワのパンダがいる。

「おお! ナイスタイミングじゃ、死にたてじゃぞ。ほやほやじゃ。いくら完全版エリクサーとて死後10分以内でないと完璧な蘇生は無理じゃからの」


 せかせかとパンダはポケットから自分よりも大きいガラス瓶を出す。このちっちゃいパンダのふかふかの白いポッコリ腹部には、ちっこいミニポケットがついていた。


 それをセレオネちゃんがひったくり、理々の上を飛びまわって全身にエリクサーをかける。


 髪の毛が逆立つみたいな恐怖に骨の髄まで侵されて、血の気を失った祐也と彩乃と高広が緊張に息を詰めて見守るなか、理々の指先がわずかに動く。


 ひぅっ、と理々が呼吸をした。

 溺れた者が水面にあがった時のように息を吸い、吐く。

 

「もう一本」

 セレオネちゃんが、ゆっくりゆっくりと時間をかけて理々にエリクサーを飲ませる。

「私の美味しいご飯の元、死ぬなんて許さない」

 とセレオネちゃんは腹の底からメチャクチャに激怒していたが、手つきは慎重であった。


「もう一本」

「ほっほっ。普通は一本で蘇生するのじゃが? よほど身体を酷使してしまったのかのう?」

「もう一本」

「ほう? いや足りぬぞ。それ、もっと使え。わしの旨い飯のために」


 結局、理々の蘇生には完全版エリクサーが十本も必要であった。ちなみに完全版エリクサーの値段は最低価格でダリオス金貨一億である。


 ようやく顔に血色が戻ってきた理々に、ちっちゃいパンダが腕を組んで言った。態度はエラソーだが、とっても可愛い。ちっこくて、ふかふかで、もふもふである。しかも大人パンダではなく、赤ちゃんパンダのフォルムをしているので、コロロンと丸みがあって超絶キュートであった。

「さて、小娘。人間の分際で無謀にも神の依代になっていたのかの?」

 と、口調は厳しかったが。

読んで下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぎゃーって叫んだわ 前回の引きが良い塩梅のトラップ()でした。うまいなぁw ひと安心だが、ジョウチョがジェットコースターでヤバタニエンw
[一言] 女神にざまぁするまではダメ!
[一言] び、びっくり肝冷えた…… 驚かさんといて、理々ちゃん。 そりゃ、考えれば無理があったよ。 スキル持ったって、邪女神に謀仕掛けるなんてただの人間にゃ不可能。代償なしで済む訳が無い。 ……ホン…
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