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カルテット、4/10000。  作者: 三香


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66/82

10000人レース ー66 残り15分の死闘

 ゴーレムの両足は固定されたが、両腕は自由なままであった。祐也の能力ではゴーレムの足を停止状態に保つだけで限界値だったのだ。


「ハァッ!」

 高広が、桐島高校のスクールエンブレムを付けたゴーレムに魔法剣を振り下ろす。高広は自分たちの無印のゴーレムは無視をして、桐島高校の窮状を救うべく攻撃に参加をしていた。


 ギィン!

 繰り出される剣とゴーレムの硬い表皮がぶつかり火花が炸裂する。

 ガッ!

 ガガガッ!

 高広が渾身の力を込めてゴーレムに剣をたたきこむ。


 高速機動型の高広は、驚異的な反応速度で自在に剣を振るう。斬撃はうなりを生じて音のように速い。


 魔法剣に魔力を巡らせて。

 完璧なタイミングで。

 最高速度で。


 高広は空歩で空中を跳躍して、ゴーレムに躍りかかる。

「沈めッ! 沈めッ!」

 高広の激烈な一撃がゴーレムの堅牢な表面を喰い破り、右肩に深く斬り入った。

 ググッ、グッ!

 怪力のスキルを全開にして高広がさらに剣を突き入れる。


 水原が高広を援護射撃する。

 高広を打ちおろそうと攻撃の構えになったゴーレムの左腕に、水原の正確無比な矢が連射され銀の弧を描いた。桐島高校の生徒たちも次々に魔法を射つ。


「沈めぇぇッ!」


 ドドォーーン!!

 ゴーレムの右腕が切り離されて地面に落ちた。

 鱗粉のように砂ぼこりが舞い上がる。


 白い埃が牛乳の白く薄い膜のように桐島高校の生徒たちの制服に付着した。ワアッ! 桐島高校の生徒たちが歓喜に叫ぶ。天へ突き刺すみたいに喜びの拳を上げた。


「左腕も落とすぞッ!」

「「「おおッッッ!!!」」」


 高瀬高校もゴーレムを猛攻していた。


「接近戦はするな。ゴーレムの腕の届かない距離からアタックしろ。敵は動けない。的だ。矢を射ろ、槍を投げろ、魔法を打て」

 沈着冷静な南城の指揮のもと、高瀬高校の生徒たちが飛び回る燕のごとく素早く動きゴーレムを攻める。


 振り回される腕には凄まじい威力があるが、届かなくては檻の中の動物と同じだ。吠えるだけで被害はない。

 

 南城は、過酷な危機的状況においても常に千人という物量でもって生存率を上げてきた。数は力だ。先ほどまでの苦戦が嘘のように、動くことのできないゴーレムに対して高瀬高校の生徒たちは有利に猛打を浴びせた。


「魔力を無駄にするな。狙え。狙って魔法を使え!」

「弓部隊、斉射っ。射て! 射て! 射て! 矢の雨を降らせろ!!」

「槍がもうない。石でも岩でもとにかく投げろ! 身体強化を使用して自身が投石器となれ!」


 各パーティーのリーダーが指示を飛ばし、パーティーメンバーが秒刻みで絶え間なく強襲をする。

 ボォン、ボボォン!

 ギン、ギン、ギン、ギン!

 バゴォ! ドゴォ! ゴゴォン!

 爆音が大気を裂いて、ゴーレムの巨体のあらゆる場所で火花が散った。


 桐島高校の生徒たちも高瀬高校の生徒たちも、誰ひとりとして戦線を離脱する者はいなかった。

 全員が揺るがない決意をもって、一丸となってゴーレムに立ち向かった。


 しかしゴーレムは、不落の城塞のごとく堅固であった。


 両足を氷付けにされても、腕を斬り落とされても、少しずつ胴体を削られていっても、巨木のように堂々と立っていた。


「ンふふ、あと10分よォ。

せめてゴーレムを半壊くらいはァ壊してねェ。どんどんレベルアップができるようにィ、サービスしてあげていたのだからァ」


 女神が視線を森の外に流した。


「あらァ、うるさいと思ったらァ竜が争っているわァ。

どうしようかしらァ。

森の中だったらァ邪魔だからァ消してしまうけどォ、外だしィ、竜の喧嘩は迫力があって楽しいのよねェ。

あらァ、ブレスだわァ。

外の人間が右往左往してェ、面白いわァ」


 女神の残酷な笑い声がキャッキャッと響く。


 女神の注目がゴーレムと竜に向けられた裏で、小さな小さな針の穴のように、女神が自身に張った結界が侵食されつつあった。


 女神は気づかない。


 夢中で、ゴーレムと生徒たちの、竜と竜との、竜と外の人間たちの戦闘を楽しげに観戦している。


 女神にとって人間は、取るに足らない存在だった。他愛もなく倒れる些細な生き物であった。自分に刃向かう可能性など考えたこともなかった。


 だから理々がずっと祈り続けていても視界に入れることもなく、歯牙にもかけていなかった。


 理々は両手を組んで魅了を最大出力で放っていた。魅了に隠されて、幸運様の力が女神の結界に細い細い蛇のようにゆっくりと音もなく穴をあけて進んで行く。


 女神は自身の結界の異常事態を勘付いていない。

 幸運様を感知もしていない。


 そして、幸運様の後ろに続く、神薬を身の裡にひっそりと内包して姿を消している水蒸気ちゃんを欠片も認識していなかった。

 

読んで下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もしかして水蒸気ちゃんが新しい神になっちゃうの?!こんな享楽的な女神様で1神教だったらこの先安心して暮らせないしそれはありかも!紐解けば理々ちゃんの料理目当ての人外vs女神なんだけどもこの…
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