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カルテット、4/10000。  作者: 三香


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50/82

10000人レース ー50

「ナイショの神薬なんてアヤシげな名前だが、この神薬は人間の身に余る代物だ。僕は水蒸気ちゃんに渡すことに異存はない」

 と祐也が言った。

「私も」

「俺も」

 彩乃と高広が同意する。


「ありがとう、祐也、高広、彩乃」

「ミー! ミー!」

 スライムが満足そうに鳴く。スライムのバックはドームホームの管理球である。そしてドームホームには身元不明(おそらく幸運様だと4人は思っているが確実ではない)の動く机がいる。


 霧の塊、管理球のオーブ、動く机、ホラーな展開に突入しそうな組み合わせであるが、人智を越えた過激で恐怖なトライアングルであることは間違いない。共通点は、クラゲのように理々の料理に骨抜きということだ。ぞっこんメロメロの首ったけである。


 故に理々の害となる行動をする可能性は低いと祐也は推察して、霧の塊に神薬を渡したのだった。少し心配だが、いや、かなり心配で不安だが実力差で神薬を問答無用でもって奪い取るのではなく、理々を通して神薬をねだった霧の塊を祐也は信頼することにしたのだった。


 すぅ、と霧の塊の中に神薬が溶けるように消えてゆく。霧の塊の能力に関しては理解不能な面が多かったので、相手を信頼はしても期待をすることのない祐也は神薬が消えた理由もましてや行方など追及をしなかった。


「ガチャはあと3回できるが、たまには高広と彩乃がしてみるか?」

 祐也の言葉に、高広が水に濡れた犬のようにブルブルと首を振る。過去に当たった木の棒が強烈なダメージだったらしい。

 彩乃もきっぱりと拒否をした。

「ガチャの当たりを無駄にしたくないもの。理々に引いて欲しいわ。祐也は?」


「僕も理々に清き1票だな。理々と僕たちでは、天と地ほどの格差のあるガチャ結果になるだろうから」

 祐也としても、高広の木の棒は衝撃的だったのだ。ポイントに余裕のある時のガチャならば笑い話になるだろうが、木の棒は酷すぎた。あまりレベルアップをしていない者たちにとっては、やっと貯めたポイントでするガチャなのに、木の棒が出てきたら立ち直れないかもしれない。


 しみじみと幸運様のありがたさを噛みしめる祐也だった。


「じゃあ、1000ポイント11連ガチャを3回するね」

「ミー! ミー!」

 ゴー! ゴー! とスライムがちまこい手をパタパタまわす。応援しているつもりらしい。


 そして。


 10パーセント魔力増強オーブ×5

 10パーセント回復力増強オーブ×4

 という増強系オーブが9。


 水牙魔法×4

 火牙魔法×4

 風牙魔法×4

 砂嵐魔法×4

 土罠魔法×4

 草罠魔法×4

 という魔法系が24。


 これだよ、これ。祐也は内心で、木の棒なんて論外、これだこれだと連呼して勝利の拳を高く上げながら、

「やっぱり幸運様は凄いな」

 と高揚する声音で言った。表情筋に力を入れているので顔は、落ち着きを保ち平静を装っているいつもの祐也だったが、口元は我慢できずに笑みを刷いていた。理々は可愛くて可愛くて最高に最高! と。

「今回も僕が分けていいのか?」

 

 うんうん、と高広と彩乃と理々が頷く。


「まず高広から。種族変換×1、固有スキル変換×2、魔力増強×1、回復力×1、水牙×1、火牙×1、風牙×1、砂嵐×1、土罠×1、草罠×1」


「次は彩乃。種族変換×1、固有スキル変換×1、魔力増強×2、回復力×1、水牙×1、火牙×1、風牙×1、砂嵐×1、土罠×1、草罠×1」


「理々。種族変換×1、固有スキル変換×1、魔力増強×1、回復力×1、水牙×1、火牙×1、風牙×1、砂嵐×1、土罠×1、草罠×1」


「残りは僕、でいいか?」


「「「は~い!」」」

「ミー! ミー!」

 と、高広と彩乃と理々とスライムが声をそろえて返事をする。


「それで、この後の予定だが、新しい魔法の訓練も兼ねて魔獣の討伐をして。昨夜は徹夜だったから今日は早めにドームホームを出して。休息と夕食、と考えているがどうだろう?」


「「「は~い!」」」


「理々、夕食は肉がいい!」

「ミー! ミー!」

 高広とスライムが一致団結して肉同盟を組んだ。

「私、肉ならチキン南蛮が食べたいわ。それとサラダ」

 彩乃の注文に、チキン南蛮って何? とスライムが身を乗り出す。霧の塊も、チキン南蛮とは何ぞや? と興味津々に揺れている。

「チキン南蛮とはね、日本のお料理なのよ。小麦粉と溶き卵を絡めて揚げた鳥肉を甘酢たれに漬けて、タルタルソースをかけるの。衣はザクザク、肉はジューシー、タルタルソースは濃厚なソースで固茹で卵とタマネギのシャキシャキ感が美味しいのよ」

 彩乃はお金持ちのお嬢様なので、グルメであった。

「日本にいた時から理々の作るチキン南蛮は、専門店のものよりも美味だったわ。だからスキルのある今ならばもっともっと極上のチキン南蛮が食べられるはずよ」


 ザクザク。

 ジューシー。

 シャキシャキ。

 音だけでも美味しそう!

 きっと味も! とスライムと霧の塊は理々ににじり寄った。


 スライムと霧の塊が、チキン南蛮! チキン南蛮! と理々にしがみつく。

「はい、はい。夕食はチキン南蛮ね。水蒸気ちゃんは『おいしい水』で作った卵スープもいる?」

 霧の塊が小躍りするようにユラユラ揺れる。

「スライムちゃんは唐揚げもいるかな? 唐揚げ大好きでしょう?」

 スライムがピョンピョンと兎のように跳ねる。

「俺も、唐揚げ!」

 すかさず高広が相好を崩して手を上げる。


 食いしん坊軍団に霧の塊も加わり、今晩の夕食は賑やかになるなぁ、と理々はクスクス笑った。

 

読んで下さりありがとうございました。

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