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カルテット、4/10000。  作者: 三香


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45/82

10000人レース ー45 7日目

 大型肉食蝙蝠の交換したポイントを5人で均等に分けて、ひとり80150ポイント。

 クエストの報酬により、ひとり106000ポイント。

 合計186150ポイントが、たった一晩で水原が獲得したポイントだった。


 そしてスキルは、高広との訓練や理々の昨日と今日の2回のガチャ、各種の耐性なども含めて22ものスキルが一気に増えて、レベルアップもした。


「なんだか夢を見ているようだ」

 徹夜あけの朝陽の中で、水原は信じられないと呟いた。


 もちろん、祐也、高広、彩乃、理々の4人も徹夜である。スライムは理々の頭の上でミーミーと寝息をたてて眠り、朝寝坊中であるが。


 5人は、昨日の夕方に入った洞窟を出て、洞窟のある巨石の裏側にある滝の所にいた。


 とろけるようなエメラルドグリーンの水が朝陽を浴びてキラキラと輝きながら、岩壁を流れ下って水柱となり滝壺の岩盤に激突している。ドドドドドド、という砕け散る水音。滝のしぶきと共に飛散する飛沫。まさに大自然の息吹のような滝であった。


「本当に色々とありがとう」

 水原の腰には、ウェストポーチ型の魔法袋があった。昨日、高広が自分のものになって大喜びした魔法袋である。


 高広は私物を取り出して空っぽになった魔法袋を祐也に渡し、祐也が初級の魔法薬を30本と上級の魔法薬を3本、ダリオス金貨500枚とダリオス銀貨2000枚、それに種々の魔法陣を数枚を魔法袋に入れて水原に贈ったのだ。


「世話になっている高瀬高校の南城生徒会長に、必ず女神の世界の知識を伝えるよ。小冊子とダリオス銀貨1000枚も譲り渡して、桐島高校を傘下校ではなく対等な同盟相手として見てもらえるように頑張ってみるよ」


「大丈夫ですよ。もう水原さんは一目置かれていると思います」

 祐也は口角を上げて、淡いラベンダー色の朝の空を指差した。


 空中には、個人戦5位に水原の顔があった。


「それでは」

 祐也、高広、彩乃、理々の4人が水原に別れの礼をする。深く、深く、4人は頭を下げた。


 祐也たちは水原に手を差し伸べたが、それでも水原に対して譲歩できない一線を引いていた。100年セットのこともドームホームのことも4人の所有するスキルのことも教えなかった。


 祐也も高広も彩乃も理々も、英雄でもなければ聖人でもない。

 だから水原に誘われたが、桐島高校に戻らないことを告げた。

 弱さを盾に、力のある4人にすがりつかれることを危惧したのだ。

 はっきり言って4人は、足手纏いの他の生徒をおんぶに抱っこをするつもりなどサラサラなかったのである。


 祐也は思う。もし水原が夏帆を助けたかったのならば、水原は夏帆を優先するべきだった、と。

 1000人の生徒と夏帆を同列にして平等に守ろうとしたから、夏帆は死んだのだ。

 けれども、あれほどの能力を有する水原が夏帆だけを特別視せずに平等に生徒を守ったからこそ、100人の生徒が生き残れたのである。


 水原は言っていた。

 襲撃してきた高校は、高瀬高校以外の全てだった、と。桐島高校は、高瀬高校以外の全ての学校から攻撃を受けたのである。


 まるで太った生け贄の羊のように、物資の豊かな桐島高校は目立つ場所に転移時に設置されていた。

 一番最初に襲われた時に、死者はなく負傷者が多数であったことが悪手の始まりだった。次々と激しくなる襲撃に負傷者を庇いつつ戦うことは、戦術に関して無知の高校生にはとうてい不可能であった。

 一度狂ってしまった歯車が止まらないように。

 大勢の負傷者を見捨てられない形勢不利な状況はさらに悪条件を呼び、坂道を急激に転がり落ちるように負の連鎖に陥り、結果として900人の生徒が命を喪うこととなったのである。


 誠実で責任感の強い水原には無理難題だが、全部を捨て去って夏帆の手だけを引いて両手で守っていれば──だが、それはもしもの話だ。

 

 正義の反対がもうひとつの正義であるように、水原には水原の、祐也にはできない生き方があり、祐也には祐也の理々を最上として他を切り捨てる、水原にはできなかった生き方がある。


 祐也にとって理々は唯一無二の存在だ。高広にとっては彩乃が。だから祐也は命をかけて理々を守り抜くし、高広も彩乃を命よりも大事にして守るのである。


 理々と彩乃だけが大切。

 決して離さないこと、決して奪われないこと、それが祐也と高広にとって至上の絶対であった。


 理々と彩乃は守るべきものであり、他はそれ以外のものと割りきる冷酷な祐也だが、人間の情もある。

 高瀬高校の生徒たちも。

 女神の世界の小冊子も。

 水原も。

 できることがあるのにしないのは、ただの怠惰だと言う者もいるが、日本でも困っている他人に気遣いのできる人間がどれほどいるのだろうか。ましてや、この残酷な世界で。

 助けることができたから助けた。4人にとってはただそれだけのことであるが、助けることができても助けない人間の方が遥かに多いのだ。


 つまりそれが、幸運様が4人を贔屓する理由でもあった。


 学校に向かって走り去ってゆく水原の後ろ姿を見送った4人は、再度、洞窟に戻ることにした。目当ては宝箱である。


「また魔法袋が出ないかなぁ」

 物欲満開の高広が、グーッ、と腕を伸ばす。滝の飛沫がかかり気持ちがいい。

「水原さんの前だったから、大半のスキルを封印していたじゃん。動きづらくて」

「でも、まさか蝙蝠と遭遇してしまうなんて。4万匹もいたから、祐也はスキルを全開して戦わないといけなかったし」

「蝙蝠は予想外だったよな。命の危機だったから祐也も、水原さんに隠すよりも魔法を最大限に発揮するしか方法はなかったもんな。黒色蝙蝠に大型肉食蝙蝠、他にも蝙蝠がいるのかなぁ。あの洞窟、洞窟の内部が空間拡張されていて凄く広大だし。蝙蝠はポイント的にもレベルアップ的にもウマいけど、祐也がいなかったら全滅百回コースなんだよなぁ」


 高広と彩乃は顔を見合せた。

「フラグって知っている?」

「知っているけど、え? やだよ、2万、4万と蝙蝠は増えているんだよ。次は6万? 無理、黒色蝙蝠より大型肉食蝙蝠は強かったし、さらに強い蝙蝠が6万なんて無理!」

「もともと高広がレベルアップのための魔獣を望んだんじゃないの。あれが最初のフラグだったのかもよ?」

「え? 俺のせいなの? 俺が理々を見て願ったから、俺が元凶なの?」


 その時、理々の声が響いた。


「ねぇねぇ、滝壺の上に、空から落っこちた小さな雲がくるくるしているよ」


「空から落っこちた?」

「雲?」

「くるくる?」

 祐也と高広と彩乃は滝壺へと視線を流した。

読んで下さりありがとうございました。

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