10000人レース ー38 6日目
「茶碗蒸し~」
理々がニコニコと台所に立つ。その横でスライムが、昨日まではなかった手のようなものをミョ~ンと伸ばして理々を細やかにサポートしている。その器用なこと。あまりの重宝さに理々はスライムをべた褒めにしていた。
「百合根、枝豆、銀杏、小松菜、ほうれん草、三つ葉、鶏肉、お魚、カニかま、蟹、かまぼこ、ちくわ、ちくわぶ、はんぺん、椎茸、しめじ、えのき、肉団子、うどん。祐也、高広、彩乃、茶碗蒸しの具は何がいい? スライムちゃんも好きな具材を選んでね」
「僕は、百合根と鶏肉と蒲鉾と椎茸と三つ葉」
と祐也。
「俺は、肉団子とうどん、それから小松菜とえのきと椎茸とはんぺん」
と高広。
「私は、ほうれん草と蟹に銀杏、椎茸、しめじ、えのき」
と彩乃。
「ミー、ミー」
とスライムが返事をする。
「「「じゃあ、訓練室でトレーニングしてくるね」」」
「はーい。ご飯は1時間後だから、時間になったら戻って来てね」
「「「わかった」」」
理々は、朝から大量の茶碗蒸しを蒸し器で作っていた。もちろん、白米も味噌汁もおかずもパンもスープも大量に。
リフォームした時は3口だったキッチンコンロはいつの間にか9口に増えており、オーブンも専門店のような大型のものが台所に置かれていて、現在フル稼働していた。
しゅうしゅうという蒸気、ぐつぐつコトコトと鍋が揺れて、ジュージューとフライパンが音を立てる。オーブンからはフワリと食欲をくすぐるパンの香りが広がり、理々が手際よく右へ左へと動きまわっていた。
洞窟の中なので、台所の窓が生まれたての朝の光を柔らかく透かして室内を照らすことはない。いつもの、森の緑の匂いを運ぶ風が理々の肺を満たすこともない。
けれども理々はいつもと同じように朝食の支度に入り、いつも以上に忙しく働いた。
時間停止の食料庫に置いておけば、いつでも作りたてが食べれる上に、外であろうとスライムを通して食料庫から自由に取り出せるのだ。理々は、はりきって作り置き用のご飯とおかずを色々と作った。
しかもスライムがコロコロの丸餅みたいな小さな姿はそのままなのだが、中身が超有能に劇的に進化をしていて。
今までは、食べて寝て、食べて寝て、食べて寝て、ミーミー鳴いてを繰り返していたぽやぽや系の丸餅スライムだったのに、いきなり高性能なアシスタント丸餅スライムに変化をしていて、理々を全面的に補助してくれるようになっていた。
スライムはスライムで自分の魔改造に大満足しているらしく、ちゃっかり味見のポジションを獲得して自分の分はもちろん親分であるオーブにも味見と称して理々の作ったものを次々に貢いでいる。
その様子を眺めて、オーブの魔改造ってちょっと恐いよぅ、と理々は思った。加えて壁の机が、なんだか子分の丸餅スライムをゲットしたオーブを羨ましげに見て(目はないけど)いる気がして理々は、かなり不穏で恐いよぅとも思ったのだった。
「うまい! おかわり!」
今朝も高広の食欲は全開だ。
理々は、お茶碗を受け取りおひつから大盛でホカホカのご飯をよそった。
漬け物好きな高広のために理々は、沢庵を刻んだもの、細長く切り揃えたもの、薄く切ったもの、と形を変えて取り合わせて噛む食感を味わえるようにしていた。
「今日は、洞窟の奥まで行くか? それとも入ってきた場所とは違う出口を探すか?」
祐也が湯呑みからお茶をすすり、高広と彩乃と理々を見て言う。
「入ってきた場所には、僕たちを待ち構えている者たちがまだ多く残っているだろうから、出るならば別の場所からがいい。理々の精密探査ではこの洞窟は迷路みたいな造りだが出入口は複数箇所あるようだし」
「この洞窟、昨日のことも踏まえてレベルアップにも各種の耐性を生やすためにも凄く適した場所だと思うのよ。だから今日は奥へ進みましょうよ」
と彩乃が小鉢に箸を伸ばして言った。
「ん~! 小芋が美味しい!」
「賛成! あ、家を出る前にガチャをしようぜ? ガチャって1日1回だけど、真夜中でリセットされるだろ、だから今日の分を朝にしてスキルを育てようよ?」
高広の言葉に3人が頷く。それから4人は、うっとりと朝食を味わっている(机に表情はないが、4人にはそう見えた)机に視線を向けた。
「食後はデザートだよね」
と理々は告げると、さっ、とあんころ餅を机の上に置いた。子猫のような無邪気な笑顔を浮かべている。
「お口にあえば、ぜんざいとおはぎと言う日本の甘味も作ろうと思っているのですが、いかがでしょうか?」
フッ、とあんころ餅が消える。
机の引き出しが感嘆の吐息を洩らすように、舌鼓を打つようにパタパタと動いた。
「お気に召されましたか? では次はぜんざいとおはぎを作りますね」
机の四つ脚が、抑えきれない歓声のごとくガタガタと鳴る。
理々はにっこりと微笑んで、手を合わせた。
「幸運様、今日もよろしくお願いいたします」
追加として、理々は机の上にみたらし団子と小豆団子も並べた。理々の頭の上のスライムは、見せつけるように三色団子を捧げ持っている。
理々は気合いを入れて、ポチ、と押した。
読んで下さりありがとうございました。




