10000人レース ー35
〈通常クエスト「黒色蝙蝠を1000匹撃破しよう」が達成されました。個体名祐也、個体名高広、個体名彩乃、個体名理々、各自に100ポイントが与えられます〉
「えー! 1000匹討伐しても通常クエスト? 女神様、いじわるすぎる」
「うう……、蝙蝠を拾うの、腰がちょっと痛くなってきた」
と彩乃と理々がメソッと嘆く。
「マズイな」
「ああ、蝙蝠が減数しない」
闇の奥から何百何千の羽音が殺到してくる。
蝙蝠の数は一向に減少する気配もなく、高広と祐也は長期戦を予測して体力温存のため、最小限の無駄のない滑らかな動きで蝙蝠を落としていく。
〈通常クエスト「黒色蝙蝠を5000匹撃破しよう」が達成されました。個体名祐也、個体名高広、個体名彩乃、個体名理々、各自に500ポイントが与えられます〉
「ダメ……、腰が……」
「蝙蝠、拾うの、もう辛い……」
と彩乃と理々はメソメソこぼすが、手は止めない。高広と祐也が戦っているのだから。
「うおおぉぉッ!」
高速機動型の高広にとって、1対多数の集団密集する敵との物理による戦闘は得意とするものだった。
ましてや後方には、祐也がいる。
祐也は全方位に魔法を連続で射発して、高広の背中を守ってくれる。どんな状況となっても最善手のみを冷静に選び取る祐也が、絶対に高広の背中を傷つけさせない。高広は前だけを見て蝙蝠の群れに突っ込めばよかった。
〈シークレットクエスト「青色蝙蝠を10匹撃破しよう」が達成されました。ならびに「黒色蝙蝠を20000匹撃破しよう」が達成されました。主戦力である個体名祐也、個体名高広、両名に報酬として空間把握と魔力感知が与えられます。また同時達成ボーナスとして地球の食料品1人用100年セットが両名に10カプセルずつ与えられます。なお個体名彩乃、個体名理々、両名にも地球の食料品1人用100年セットが1カプセルずつ与えられます〉
「「終わった……」」
呼吸が熱く、喉が痛い。
身体を酷使した高広と祐也は肩で荒く息を繰り返して、沈澱した疲労に痺れたみたいになっていたが、座り込んだりはしなかった。終わったと思う瞬間が油断を生むことを知っていたからだ。
「「まだ、拾集できていない……」」
彩乃と理々は腰を擦りながら一生懸命に蝙蝠を拾い集めているが、何しろ20000匹以上である。終わりが見えなかった。
「取り引き台を呼んで蝙蝠をテーブルに乗せていこう。集めるよりもポイント交換した方が手っ取り早くて効率的だ」
祐也の提案に、うんうんと彩乃と理々が涙目で頷く。
「でも、その前に少し休もう」
彩乃と理々が、さらに大きくうんうんと頷いた。
「あっ、食料品の100年セットに鮎があるよ。焼く?」
「なら、日用品のところに長方形炉の炭コンロがあるから、これを使おう」
空腹を訴える高広のために、理々が艶やかな飴色の背の鮎に串を打つ。鮎の目の下の部分から串を打ち、胸びれの先に出した串を次に背骨の下に刺し、背骨を縫うように刺す。最後は尾の下の部分に出して踊り串を次々に完成させる。
炭コンロでは、強火の遠火で焼く。
余分な油や水気をとばし、熱がまんべんなく通り肉がしまって表面がほどほどに焦げると、こうばしい香りが漂い食欲をそそった。
「他の魚も焼く?」
「烏賊は?」
「いいね、うまそう。俺、肉も食べたい」
「はーい」
周囲を警戒しつつ、4人は手軽に焼けばいいバーベキューを昼食に堪能した。
「あら? 理々、あまり食べないのね」
「疲れて食欲があまりないの、心配しないで大丈夫だよ」
「病み上がりだし、心配よ。本当に大丈夫?」
「平気、平気。彩乃、ありがとう」
本当の理由は、外での出来事が記憶に残っていて食事が喉を通らないのだが、それは隠して理々は口には出さない。
「落ち穂拾いならぬ蝙蝠拾いで疲れちゃったの」
「そうよね、理々。凄い数だったもの。食事の後に再度チャレンジと思うとうんざりするわ」
「理々、おいで」
理々の心情を察している祐也が両手をひろげた。
てとてとと近づき、理々は胡座をかいた祐也の上にポテンと座る。
「はい、あーん。理々を大事にするのは僕の特権だからね。理々の好きな桃缶だよ」
せっせと給餌している祐也を見て、高広も彩乃の唇にピーマンを押しつけた。
「えー、ピーマン」
彩乃が口を開けたタイミングですかさず、ポイ。
むぐむぐとピーマンを食べる彩乃は、
「次はタマネギね」
と注文を言う。喜んでイソイソと彩乃に給仕する高広であった。
「じゃあ、腹も膨れたし取り引き台を呼ぶぞ」
ぽん、と現れた取り引き台に4人は死屍累々と蝙蝠を積み重ねていく。
〈査定が終わりました。青色蝙蝠10匹で5000ポイント、黒色蝙蝠20110匹で201100ポイントとなります。合計206100ポイントとなります〉
「「「「20万!?」」」」
「青色蝙蝠は1匹500ポイント、黒色蝙蝠は1匹10ポイントか。クエストもクリアできたし、頑張った甲斐があったな」
祐也の言葉に高広が応える。
「アドレナリンがドパッと出てくる感じで興奮したけど、祐也がいなかったら無理ゲーだったよ。全滅まっしぐらコースで普通ならば俺たち今日で終了だった」
「そういえば、理々が眠っていた2日間にガチャをしたの?」
祐也と彩乃の視線が高広に向けられる。
「高広がガチャをしたの? どうだった?」
「いやぁ」
2万匹の蝙蝠にも怯まなかった高広が、きょときょとと視線をさ迷わした。いつも快活に笑う高広らしくない態度である。
「えーとえーと、彩乃の好みそうなスキルが当たったよ」
「そうなのよ。私には嬉しいスキルだったわ」
彩乃が高広を援護するが、口元が笑っていた。
「そっか。ポイントもいっぱいあるし、早めのガチャをする?」
高広に関しては不穏な気配を感じた理々は深く追及をしなかった。
「ガチャなんだけど、ポイントを貯めようと思っているから、するならば1000ポイントガチャにしないか?」
祐也が、高広と彩乃と理々に言う。
「ポイントを貯めるの?」
「うん。可能ならば最高額の100万ポイントガチャをしたいんだ」
「100万ポイント!? 魅惑的なガチャだけど、100万ポイントも貯めることができるかしら」
首を傾げる彩乃に、祐也は3人に向き直った。
「まぁ、挑戦ってことで。貯まらなかったら、その時はその時点でできるガチャをすればいいかな、と考えている。どうかな?」
「そうね。私たち今のところスキルも充実しているし、いいと思うわ」
「目標はでっかく! 賛成」
「理々も賛成」
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