10000人レース ー25
「「おかえりなさい、祐也、高広」」
川から戻って来た祐也と高広を、理々と彩乃が出迎える。
「「ただいま。環境適応を使っても身体に異常はなかった。鑑定をかけたが問題はない。だから昼からは理々と彩乃も川へ行こう」」
この世界への適応は突然で否も応もなかったが、環境適応の使用には大切な理々と彩乃を守るために慎重を期した祐也と高広であった。
「はーい、わかった。お風呂の用意をしてあるから、身体を温めて」
「その後にご飯にしましょう。見て、待っている間に通常クエストを幾つか見つけたのよ」
彩乃が鉄剣を持ちあげて高広に渡した。
「通常クエストって採取系が多いじゃない。だから、とりあえず色んなものを手当たり次第に取ったり拾ったりしていたの。この鉄剣もクエスト達成の報酬だし、ポイントもそれなりに貰ったわ」
「頑張ったね、でも、森は人でいっぱいなんだから危ないことをしてはダメだよ」
「家の周囲で探したから大丈夫よ。理々の精密探査で人の動きもだいたい把握できていたし。遠かったから正確ではないけど、みんな兎とかの小動物が多い森の中央かボスのところかに集中していて、森から外れている家の方には誰も来なかったわ」
祐也は持っていた鳥籠を理々に渡す。
「綺麗……」
鳥籠の中には、10センチほどの生き物が羽根をパタパタさせていた。上半身は端整な人間、下半身は魚、背中には半透明の羽根があり、背びれが尾っぽよりも長く天女の羽衣のようにヒラヒラしている。
「レア中のレアの生き物の妖魚セレオネだ。人魚と妖精をプラスしたような麗しい姿で、生命力が極めて強い生き物だよ。あらゆる耐性持ちで水中や空中はおろか火の中だって平気、知能が高く魔法に長けていて長命。数が少なく幻と言われている」
環境適応により急速に色々なスキルが生えてきた祐也と高広は、雷耐性も生えるかも、と川の中で電撃を発動させたのだ。無作為に放った電撃は川底の岩陰にいたセレオネに直撃をして、プカリ、と浮かんだところを鳥籠に入れたのである。
「100年セットの日用品は便利だね。鳥籠まであるんだから」
セレオネはどうやら好奇心が旺盛なようで、興味深そうに理々たちを見ている。異世界人が珍しいらしい。竜にも負けない能力のあるセレオネは、鳥籠からの脱出は紙を破る程度のものなので、捕らえられた現状を楽しんでいた。
「セレオネちゃん、捕まえちゃってごめんね」
理々が鳥籠の扉を開ける。理々に見せたかっただけなので祐也も止めない。
「セレオネちゃん、お詫びにデザートはいかがですか? 理々が作ったものなの。よかったら食べてみて」
祐也と高広を待っている間、彩乃は通常クエストを探して、理々は100年セットの食料品の食材でご飯やデザートを作りまくっていた。何しろ大食いの高広とスライムとオーブと机がいるのだ。どれだけ作っても余ることない。
探求心が強いセレオネは、理々のデザートに関心を持ったようでイソイソと飛びついた。耐性持ちのセレオネは猛毒を食べてもピンピンしている。だから珍しい異世界料理と躊躇うことなく食べたのだった。
「っ!!!!!」
無言で身を震わすセレオネ。
結果としてスライムに続きセレオネまで、押しかけ従魔となってしまった。
「えぇ……、スライムちゃんもセレオネちゃんも強引すぎ……。理々は了承していないのに、ステータスに従魔って表示が……」
理々はちょっぴり半泣きになったが、セレオネは理々を超美味しいご飯の元、と認識していて離れる気はすでに欠片もない。はっきり言って理々たちと実力が天と地ほど違うセレオネは、善きに計らえ状態で押しかけなのにエラソーである。
「理々に見せたら放流するつもりだったのに」
と祐也は後悔したが、綺麗なものが大好きな彩乃は大喜びをし、彩乃至上主義の高広も賛成をして、理々も従魔にもうなっちゃっているしと受け入れたので、セレオネは理々の従魔として堂々と居座ることとなったのだった。
そして、嬉し楽しの御昼ご飯タイム。
「100年セットの食材でたくさん作ったから。ご飯と野菜炒めと唐揚げ二種類と卵焼きはだし巻きとネギとチーズとほうれん草の4種類よ。召し上がれ」
スライムもそうだったがセレオネも、小さな体のどこに入るのか不思議なほど食べる食べる。
「セレオネちゃん、卵焼きばかりを食べるのね。卵が好きなの? 卵スープも作ろうか?」
理々の言葉にセレオネはパタパタ飛んで近づいてきて、理々の額に人形のような手で触れた。
「え? ええ!? 固有スキルが増えた、おいしい水、って。え、セレオネちゃんがくれたの?」
「おいしい水?」
尋ねる彩乃に、理々は魔法で水を出してコップに入れ、3人に渡した。
「おいしい水が出せるスキルみたい。飲んでみて」
「うまっ!!」
「おいしいっ!!」
「これは極上の水だな。こういう水を天上の甘露というのかも」
理々は台所へ入ると10分くらいで卵スープを作って戻ってきた。
「はい、セレオネちゃん。おいしい水は理々が卵スープって言ったからくれたのでしょう?」
大満足の顔でセレオネが頷く。
「はい、みんなも。味見したけど、理々のスキルとおいしい水は神コラボだったよ」
理々がスープカップをそれぞれに配る。
一口飲んで、高広の口から喘ぐような声が洩れた。
「神コラボだ……ッ!」
彩乃がうっとりと吐息をもらす。
「感動だわ……っ!」
祐也が眼を閉じて感に耐えない様子で賞賛する。
「凄いっ……!」
スライムとオーブと机は輪になって、抑えきれない感激のままに奇妙なダンスをくるくる踊っている。
「「「「セレオネちゃん、ありがとう!」」」」
4人から賞賛されてセレオネは、太陽に照らされた向日葵のように誇らしげに微笑んだ。
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