10000人レース ー14
〈おめでとうございます。10パーセント魔力増強オーブ、5万ポイントです〉
〈おめでとうございます。全病気耐性レベル1、3万ポイントです〉
〈おめでとうございます。全病気耐性レベル1、3万ポイントです〉
〈おめでとうございます。風弾魔法レベル1、1万ポイントです〉
〈おめでとうございます。身体強化レベル1、1万ポイントです〉
〈おめでとうございます。俊足レベル1、1000ポイントです〉
耳に届くアナウンスに祐也はわずかに眉を寄せる。
祐也は、3年前のひっそりと萎れていく花にも似た理々の弱りきった姿を忘れられない。理々を守るために知識を貪欲に学び武術の訓練をし、背筋を逆撫でるような人間の悪意も善意も経験してきた。
だから、そうか、と思った。
女神はレースと言った。
レースには、たいてい観戦して楽しむ者が存在する。
そうか、見られているのか、と。
ピンポイントで欲しいものが当たるのは、自分たちは何者かに有力な駒と認定されて後押しをされているのではないか、と。
〈おめでとうございます。魔力制御レベル1、1000ポイントです〉
〈おめでとうございます。10パーセント体力増強オーブ、1000ポイントです〉
〈おめでとうございます。10パーセント体力増強オーブ、1000ポイントです〉
〈おめでとうございます。調理道具セットおよび米100キログラムです〉
〈おめでとうございます。500ポイントです〉
「ぐふふ、身体強化に俊足! 立体機動に役立つものばかり!」
高広がハレルヤと両手を高く上げる。
「体力増強オーブだって! 明日は疲労が軽減するかも」
「うんうん。理々も彩乃も、祐也たちほど体力がないから助かるね!」
彩乃と理々がきゃっきゃっと喜ぶ。
祐也は、天使のように美しくにっこりと笑った。腹の奥底を煮え滾らせながら。女神にとっては娯楽でも、自分たちは命を賭け金にした生きるか死ぬかのレースである。だからこそ後押しであろうと贔屓であろうと利用してやる、と。
祐也にとって理々を守るためならばプライドなんて糞食らえであった。いや、理々を守ることこそが祐也にとっての譲れないプライドであったのだった。
「よし、では、分配を決めよう。僕としては怪我治癒を持っている彩乃に魔力増強オーブを渡したい。治癒魔法はパーティーにとって最重要だ。彩乃には、加えて体力増強オーブを。高広には、身体強化と俊足と全病気耐性。理々は体力増強オーブを。僕は風弾魔法と魔力制御と全病気耐性でどうだろうか?」
「異議なし」
「私と理々はさっき全病気耐性をもらったしね」
「それに500ポイント当たったから、祐也と高広に【頑丈】がとれるよ、よかった」
「祐也、お米があるから朝食は白いご飯を炊くね!」
スキップをするみたいに理々が祐也に抱きついた。無邪気に笑う理々の髪を祐也が優しく撫でる。背伸びした理々が、コソリと祐也の耳元で囁いた。
「祐也、心配事?」
祐也も理々の耳元に返す。
「理々は僕の少しの表情でも見破るんだね。でも心配しないで。明日からのことを考えていただけだから」
「そうなの?」
「信じて?」
祐也が、理々の薄い桃色の可愛い耳に甘噛みをしようとした寸前。
「カーッ! こら、そこ! イチャイチャしない! 俺、腹へったよ、カップ麺食おうよ」
「あ、寝室にはベッドがひとつしかないから、居間で皆いっしょにお布団を敷いて今夜は寝ましょうね」
レッドカードをあげた高広と彩乃が、ピピーと笛をふく審判のように邪魔をした。
ランプの光がチラチラと揺らぎ、明暗のさざ波の影を居間で眠る4人に投げかけていた。暗い部屋。4組の布団が並び、理々の枕元にはスライムが昼間に食べたクッキーの空箱に入って真ん丸になって眠っている。
のそり、と右端の影が動く。
「祐也、起きているか?」
寝息をたてる理々と彩乃を中央にして左端の影も身を起こした。
「ああ、高広」
「ハイエルフの保存魔法、ヤバイな。千年前のランプが使えるなんて」
「時間停止のかかった食糧庫と書庫はもっとヤバかった。食用か資料か、植物が枯れていない状態でワンサカあったぞ」
「魔法か……。なぁ、俺たち今スキルがドンドン増えているじゃん。ステータスを確かめたら精神耐性と超感覚と瞬間移動がレベルアップしていた。これって異常だよな?」
「おそらくレース期間だけのサービスタイムだ。女神がレースを楽しむための」
「だよなぁ、だったら明日からは死ぬ気でレベルアップあるのみだな。10日、違う、9日後、万が一の時は彩乃と理々を連れて逃げ出せるくらいの力を付けないと。女神に勝てるなんて思えないけれども、隙をついて逃亡できるくらいにはレベルアップしておかないと」
「ああ。それに1万人もいるんだ、人間も油断できない」
「人間かぁ、精神耐性がマズイよな。俺たちの中で一番の常識人の彩乃がアレだったんだから。俺なんて、みんなを守るためならば彩乃と理々と祐也以外を殺せるよ、その時がきたら、きっと」
感情のない声で高広が言う。
「僕も覚悟している。そもそも法律は人を殺せば罰を与えるもので、人を殺してはいけないと定めているのは道徳とか宗教とかだろ? その法律はないし、高校生に道徳と宗教は縁遠いし、いや授業で倫理があるかな、日常の教育も、とにかく精神耐性はそれらを軽く踏み越えてしまう、マズイなんてもんじゃない。この世界に住人がいるならば社会構造はどんなものなのかな? 人権って言葉があるのだろうか?」
「こちらには彩乃と理々という美味しい餌があるんだから人間も要注意するとして、北にボスがいたからには東西南にもボスがいる可能性が高いだろ? 明日からはボスを中心にレベルアップを計画しないか?」
「残り9日だもんな。なるべく強い敵と闘ってレベルアップするべきだな」
高広と祐也は腕を伸ばして、お互いの拳をコツンと合わせた。
「彩乃と理々を守ろう」
「理々と彩乃を守ろう」
次回から2日目です。
理々の極ウマご飯になります。
読んで下さりありがとうございました。




