Dimension 04
「このドラゴンの名はラヴァニ。俺達はラヴァニの言葉が分かります。ラヴァニは俺かバロンが傍にいれば、人の言葉を理解できます」
「言い方が悪かったか。それが本当かどうか、我々の言葉を正確に理解してもらえるのか、それが分からない。理解できると言われても……」
「ラヴァニに、何かしてって言ったらしてくれるよ!」
バロンの言葉を聞いても、町長は納得しなかった。それはバロンの言う事を信じていないからではなかった。ドラゴンが人の言葉を理解していそうな事は、町長も薄々気付いている。
「ドラゴンの言葉を、我々は知る手段がない。どうぞ、休憩所はそちらですと言って、ドラゴンは分かってくれるのだろうか。君達が正確に理解しているかどうかも、判断できない」
「ラヴァニが何を言っているか……確かに伝える手段はないか」
「そもそも、何故君達はドラゴンの言葉を理解できるんだい。我々にその方法を教えて貰えたなら、要らぬ誤解も生まれない」
「それは……」
ヴィセ達は答えに詰まった。何故ドラゴンと話せるのか。それを教える事が出来たとしても、実践させる訳にはいかない。ドラゴンの血を飲めばいいなどと軽々しく教え、同じ境遇の者を増やす気にはなれなかった。
≪血の事は伏せた方が良い。我々の血を欲しがる者が出てくるやもしれぬ≫
エゴールの苦悩を知っているラヴァニも、出来ればドラゴンの血の事は伏せたいと考えていた。勿論、血の事を教えたとして、それが意思疎通を図れる事の証明になるかと言われると、難しいだろう。
「我々がドラゴンと会話できるなら、それがいいに越した事はない。何が良くない行動なのか、分からなければいつ過ちを犯すか分からない」
「そうなんですけど、これは皆さんが出来る事ではなくて」
ディットには打ち明けたが、この町の者にドラゴンの血への好奇心は持たせられない。ヴィセはため息をつき、バロンに指示を出した。
「バロン、封印を発動させてくれ。その後しっかりラヴァニを腕に抱いていてくれ」
「うん、分かった……」
≪何をする気だ≫
周囲の者が驚く中、バロンが発動させた封印によって、ラヴァニがみるみる小さくなっていく。
「ドラゴン化を見せる。皆さん、俺の姿を見ても怯えないで下さい。俺がドラゴンと会話できるという良い証明手段がこれしか思いつかない」
「証明手段? 怯える?」
ディットもドラゴン化については知らない。ヴィセは皆から少し離れ、目を閉じた。
意識してドラゴン化した事はない。けれどエゴールはドラゴンに変化する際、怒りを溜めていなかった。ヴィセは怒りによって引きずり出されるのは要因の1つで、変身しようと思えば出来るのではないかと考えていた。
「……段階通り越して急にドラゴンになるなよ、俺」
ヴィセはドラゴン化する際の、皮膚の下が蠢く感覚を思い出していた。自分の腕がドラゴンの鱗で覆われていく様子を想像し、腕に力を入れる。
「ヴィセ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。心配するな、怒りは込めないから巻き込まない」
皆は何が起こるのか、黙ってじっと見守っている。ヴィセが何度か深呼吸をし、右腕を抑える。一瞬その腕がビクリと動いた後、ヴィセはゆっくり顔を上げ、右腕の袖を捲って見せた。
「……ひっ!?」
「顔、顔どうしたの! その腕、まるで……」
「ドラ、ゴン?」
顔の右半分が赤黒いドラゴンの鱗で覆われ、真っ黒な眼球に金色の目が光っている。手は大きく、爪は鋭い。その腕もまた鱗で覆われていた。ある者は化け物と呟き、ある者は正体がドラゴンなのではと驚いている。
「ヴィセくん、あなた……」
「これが、ドラゴンと会話できる理由だ。俺の体は、半分はドラゴンで出来ている」
「そんな人、聞いた事がない……」
「同じ境遇の人は、俺とバロンの他に1人しか知りません。あなた達は……この力を出来れば手に入れずに生きて欲しい」
体がドラゴン化する、そのせいでドラゴンと会話が出来るようになった。ヴィセがそう伝えたならその場の者達は信じざるを得なかった。何故そんな体なのか、ヴィセはそこまでは打ち明けなかった。
「そんな、化け物のような体で、君は大丈夫なのか」
「ええ、心配ありません。ただし怒りを感じてしまうと、ドラゴン達にも伝わってしまいます。ドラゴンが今まで群れで町や村を襲っていたのはそのせいです」
「ドラゴンはね、世界を汚すことに怒ったんだよ。だから襲ったんだよ。人を食べたいとか殺したいとか、そんな事は考えてない」
「怒りが、仲間に伝わる……なるほどね」
ドラゴンの生態については殆どが知られていない。ディットも掴んでいるのはほんの僅かだ。
「つまりドラゴンが何処からともなく集まって来るのは、遠く離れた所にいる仲間にも無線みたいに連絡できるから。そうよね」
「ええ、そうです。その距離はまちまちですが、かなり遠くまで可能だと」
「ヴィセくん達か、ラヴァニさんが他のドラゴンに伝えてくれるという事ね」
「はい」
ドラゴンは本当に襲わないのか。町長はまだ完全に信じてはいないだろう。けれど霧毒症を治してもらった者達は、もう既にドラゴンを崇拝するような気持ちでいる。
「俺やバロンがいなければ、ドラゴンは人の言葉を理解できません。でも、ドラゴンを攻撃せず、環境に優しい行動を取れば敵対はしません」
「それと、あとね、浮遊大地ドラゴニアを、そっとしてあげて欲しい! ドラゴンは浮遊鉱石を守ろうとしてるんだよ」
「あの伝説の……浮遊大地、か。浮遊鉱石は魅力的だが、そのためにドラゴンを敵に回せば、今度こそ世界は終わってしまう。手は出さないさ」
≪バロン、感謝しよう≫
ドラゴンが何を嫌がっているのか。それを人側に把握させるのは重要だ。バロンはドラゴニアについても訴えた。ドラゴンは特にドラゴニアを守りたいと考えているからだ。
「銃を向けた事、お詫びしたい。正直なところ、ドラゴンに襲われないために協力するというのが本音だ。どれだけの町民が付いて来てくれるかは分からない」
≪我が同胞には伝えておこう。広い土地に、少し飲み水があれば有難い≫
ドラゴンを受け入れる町の存在は、間もなく知れ渡るだろう。ヴィセ達はこの町が周囲の町や村に疎まれ、攻撃を受けないうちに他の町を説得しなければならない。
「明日、もう1度この広場で治療を行います。今日来ていない人への案内を」
「ああ、有難う。その……治療代はどうすれば」
「無理にとは言いませんが、今日泊まるホテルの1泊の宿代8500イエンをお願いしています」
「それだけでいいのか? 効きもしない祈祷師が1人10万イエンを要求して来た事もあったと聞いたが」
予想外の安さだったからか、皆がかえって動揺している。
「もうちょっと……高い方が良かったか」
お礼を言われながら、ヴィセは困ったように笑う。ドラゴンに怯え、不信感を募らせていた事が嘘のように和やかな時間が過ぎていく。
「有難う。あたし1人では失意のまま研究をやめていたかもしれない」
「とんでもない! 俺たちこそ、ディットさんには感謝しています。仲間になって協力してくれる人がいないと、どうにもならないから」
「あたしもヴィセくんも、結局のところ1人では何も出来なかったのね。周りの人の存在って、改めて大きいと分かった。あたしは今まで、周りは敵ばかりと思ってた。もう少し……町の人と仲良くしようと努力しなくちゃ」
ディットが手を差し出し、ヴィセと握手を交わす。バロンはディットとハグをし、ラヴァニはディットの手に優しく息を吹きかけた。
「あなた達は、きっといろんな人達と仲良くできる才能があるわ」
「有難うございます。でも……才能とは思いたくない」
「あら、向いていると思うけど」
「頑張ってるんですよ、バロンも、ラヴァニも。才能よりも頑張っている事の方が、誇らしく思えませんか」
ディットは成程と言って微笑む。
「気に入ったわ。その考え方は素敵ね」






