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【Lost Dragonia】ドラゴンと生き残りの少年達は、前人未到の浮遊大地を目指す  作者: 桜良 壽ノ丞
3・【Fake】追い求める者の町

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Fake 11


 上司の男は頭を抱え、しばし天井を見つめていた。


 この町を復興させる際、ドナートは周囲の道の整備や牧場建設のための人手を募った。


 仕事を失くした兵器工場勤めの者に仕事を与える……その思いに紹介所が心を打たれ、求職者にあっせんし、感謝状まで贈っていたのだ。


 勿論、状況から見てヴィセの発言が虚言である考える事も出来る。


 しかし、ヴィセの透視のような能力、姉弟だった職員とスラムの孤児。それにドラゴンを連れての旅……でたらめを言っているようには思えなかった。


「あのドナート・トルネドさんが、そんな事を」


「身内を殺されず、家も焼かれず、仕事を得た者にとってはきっと善人だわ。でも、私や他の人にとっては偽善者どころか人殺しよ! 何か、何か証拠がないかしら」


 およそ7年が経ち、当時の焼け跡には牧場ができ、大きな道が通っている。元の場所に家を建て直した者だっている。証拠は出て来そうにない。


 皆が悩む中、案を出したのはヴィセだった。


「あの商人は子供に犯行を見られた。それをまだ覚えているはずだ」


「えっ、じゃあイワンの身が危ないわ、どうしよう」


「いや、あいつはイワンを覚えていなかった。そして今はラヴァニを狙っている。それを利用しよう」


 ≪何を考えている。代わりに仇を取り、食い殺してやろうか≫


 ヴィセはイワンに手招きし、最後の協力を依頼する。


「あいつを捕まえるために協力してくれ。あいつは俺達を見つけたら付いてくるはずだ」


「何するの?」


「当時の犯行を知っていると言うんだ。きっと大人は信じないと言うだろう、でも俺がイワンの伯父さんから一部始終を聞いていると知ったら、どうかな」


 ≪我も加勢する、させてくれ≫


 ドナートをおびき出し、当時の犯行を自白させようというのだ。そこでもし証拠の在り処を口から滑らせでもすれば、エマ達に伝えることが出来る。


「もちろんラヴァニも来てくれ、俺だけじゃイワンを守れない。エマさん、それに……」


「窓口担当主任のベイカー・シードだ」


「シード主任、気付かれないように会話を聞いていて欲しいんです」


「分かった、録音機を貸そう。コートのポケットに入れておけば声を拾うよ」


 二度と会いたくない相手だったが、会わなければならない理由が出来た。紹介所の中の者は、殆どがドナートに対し好意的だ。作戦が漏れないよう、この4人+1匹だけで決行となった。





 * * * * * * * * *





「いらっしゃいませ、ああ、ドラゴンのお兄さんとバロンくんですか! 本日もお泊りですか?」


「はい、気に入ってしまって、どうしてもと」


「そうですか、是非とも!」


 ヴィセ達は昨日と同じホテルにチェックインし、また昨日と同じ部屋を取った。従業員たちは猫人族の少年の再登場に喜び、今日のメニューは凄いよと言って期待させる。


 だが、ここに泊まる理由は、バロンのためだけではない。


 ≪我はゆでたまごと肉があれば言う事はない≫


 勿論、ラヴァニのためでもない。


「すみません、昨日の商人の男は……」


「ああ、トルネド氏ですか。言い難いんですけど、明日まで宿泊の予定ですよ。本音を言えば、いつも態度が大きくて困ってるんですけどね」


「そう、ですか」


 決して良かったなどと漏らしてはいけない。ヴィセはニヤけそうな顔を隠し、部屋に向かう。後でエマと主任も来る手筈になっている。


 ≪あのシードとやらは裏切らぬか≫


「多分、ね。いずれにしてもイワンが知っているなら放ってはおけないだろう」


「ねえ、ヴィセ」


「ん?」


「……俺の事、ヴィセはバロンって呼んで。俺は姉ちゃんにとってはイワンだけど、ヴィセとは会った時からバロンだよ」


 元の名前で呼ぶべきだと考え、ヴィセはバロンではなくイワンと呼ぶようになっていた。しかしイワンはバロンと呼ばれた期間の方が長い。


 イワンと呼ばれることで、バロンとして出会った自分と線引きをされたと感じてしまうのだ。


「分かったよ、バロン」


 ヴィセが今まで通りの呼び方に戻すと、バロンはやっと笑顔になった。


 バロンは自分の過去を知り、顔を思い出せなかった両親と意識の中で再会した。その両親が死んでいる事は伯父の言葉で覚えていたが、死因までは覚えていなかった。


 伯父に捨てられたと思っていたが、伯父はバロンを追っ手から守るためスラムに隠した。


 姉がいたと分かり、無事に再会できた。そして自分の本当の名前はイワンだった。


 自身の中にあった価値観や過去が一気に崩壊し、そこにきてヴィセからの扱いまで変わってしまうと、バロンは自分を見失いそうだった。変わらないものがある事に安心したかったのだ。


「どうした、眠いか」


「……違う」


 バロンはラヴァニを呼び寄せ、ぬいぐるみのように抱きしめる。そのままヴィセの横に座り、ヴィセにもたれ掛かった。不安と言い知れぬ寂しさを自分で消化するにはまだ幼い。要するに甘えたいのだ。


 ≪我を抱えてどうするつもりだ≫


「ヴィセも、ラヴァニも、いなくならない?」


「落ち込んでんのか。まあ、確かにお前にはちょっときつかったよな」


「いなくならないって、言って」


「……俺は大丈夫、死なない」


「そうじゃなくて! 俺」


 バロンが何かを言いかけた時、部屋の扉がノックされた。用心しながら問いかけた返事はエマのものだった。


「ごめんなさい、遅くなっちゃいました。仕事を定時で終わらせて走って来ちゃった。私は一応隣の部屋を取ってるけど、商人が来るまではここにいさせて」


「はい、もしあいつが来たらクローゼットに。主任さんは」


「もうすぐ来ると思う。私は走っちゃったから」


 数分してシードも駆けつけ、後は商人を待つだけになった。全員で食事をすれば怪しまれる。ヴィセとバロンは偵察も兼ねて食堂へと降り、エマとシードは食事を部屋に運んでもらう事になった。





 * * * * * * * * *





「ったく、ほんと良く食べるよな。まあ、随分とサービスして貰ったし、いいか」


「あの魚、美味しかったあ。口の中でふわーってした! ソースだけでも美味しかった!」


「おかえり。フフッ、スラムでの生活は大変だったでしょ。その調子でもう少し太らないとね。もうすぐ10歳になるんだから」


「……ちょっと待った、もうすぐ、10歳?」


「ええ、バロンがいなくなったのは3歳と3か月くらいかな。ドラゴンの襲来からはだいたい6年半。今が2月で、4月には10歳ね」


 本当の歳が分からなかったとはいえ、この時期の1歳の差は大きい。バロンはもう1年10歳をやらなくてはならない事に不満そうだ。


「俺、11歳がいい」


「そういう訳にもいかねえよ。そうか、猫人族って、人族よりも幼少期の成長が早いんだな」


「バレクさん。これから色々あるだろうから、この一件が片付いたら休暇を取りなさい。よくイワンくんと話し合ってあげて」


「はい。イワンが生きていたなんて、今でもまだ信じられないくらい」


 皆食事が終わり、それぞれ少し気が緩んでいた。その時、ふいに扉がノックされた。ドナートだと決まった訳ではないが、念のためエマはクローゼットに、シードはトイレに隠れる。


「……誰だ」


 ヴィセが問いかけ、しばらくすると、何度か聞いた声が返って来た。


「いやあ、今日もお泊りでしたか。ドラゴンをどうしても譲っていただきたくて、交渉をしに来たのです。話だけでも聞いてくれますかな。今日は護衛を連れておりませんので警戒なさらずとも」


 ≪今日はあの男1人のようだ。気配が少ない≫


 ヴィセは演技の経験がなく、その場の思い付きで上手い事を言えるタイプでもない。ドナートは断られる可能性を考えているだろう。そこをあえて迎え入れる時、どう言えば自然に受け止められるかを悩み、返答した。


「……あんたもしつこいな。地の果てまで追われないよう、ここできちんと断ってやる。入れ」


 ヴィセは録音器のスイッチを入れ、扉を開けた。

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