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【Lost Dragonia】ドラゴンと生き残りの少年達は、前人未到の浮遊大地を目指す  作者: 桜良 壽ノ丞
3・【Fake】追い求める者の町

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Fake 09


「これは?」


「この町の地図です。病院はここ、兵器工場はこの辺りにありました。方角で言えば北東でしょうか」


「鉱山の入り口の近く、か。確かにそれなら便利もいい」


 鉱山は危険でけが人も多い。そのためイワンが入院していた大病院は町の中心部ではなく、鉱山に近い北東側に建てられていたようだ。


 その他、ドーンの町が復興する様子や、災禍前の写真などが載った町の歴史資料の冊子などもあり、バロンにも見せていくが、やはり反応が鈍い。


「本当にバロンとイワンが同一人物なのか、決め手に欠けるな……いや、あんたを……エマさんを疑っていると言っている訳ではありません。しかし」


「仰りたい事は分かっています。私の記憶やイワンの面影だけでは分かって貰えないのも当然です。血液の型や成分で血縁を調べる方法もあります。出来ればお願いしたいのですが」


「それ、は」


 血を調べられたなら、バロンにドラゴンの血が混ざっている事を知られてしまう。


 エマだけならまだしも、公になれば都合が悪い。だが、エマとバロンが姉弟かどうか、確かめるのを駄目だとは言えない。


 他に手段がないかと考えていると、ラヴァニがそれらしい案を出した。


 ≪バロンがもしイワンであるなら、その記憶を我が覗いて確認しよう≫


「そうか、その手があった! バロン、目を閉じて」


「何するの?」


「バロンが忘れている小さい頃の記憶を、ラヴァニが確認するんだ。俺もやってもらったから大丈夫」


 エマは何のことか全く分かっていなかったが、ヴィセとバロンは目を瞑る。バロンはラヴァニに記憶を覗かせるため、ヴィセはラヴァニが拾った記憶を見るためだ。


 ≪バロン、今は食事の事を忘れてくれ、表面の記憶が邪魔だ≫


「だって、ご飯美味しかった」


 ≪今は我に過去を見せる事に集中せよ。これでそなたの事が分かるのだぞ≫


「分かった」


 バロンの昨晩と朝の食事の記憶が邪魔しなくなると、水面の波紋が消えていくように、ゆっくりと頭の中で視界が開けていく。


 目の前には女性、そしてその横にはバロンによく似た男性が立っている。


「あっ、父ちゃん……母ちゃんだ!」


 女性は母親、男性は父親らしい。どこかに向かう所なのか、父親は大きなかばんを両手に持ち、バロンは母親に抱き上げられる。


「あっ……俺の親戚のおっさんだ。俺をスラムに置いて行った」


「覚えているのか」


「うん、思い出した。間違いない、父ちゃんと母ちゃんだ」


 視界には長閑な田舎の風景が広がる。ヴィセの村のように木造の平屋がまばらに建っていて、畑や田んぼがどこまでも続く。きっとバロンの実家の光景だろう。


 そんなバロン達を見送る少女が視界に入ると、ヴィセもバロンも「あっ」と声を上げた。


「エマさんだ」


「じゃあ、本当に……俺の姉ちゃん?」


 少女はまだ背も伸びきっておらず、顔もあどけない。だがその特徴は目の前のエマと同じだ。そこまで確かめると、ヴィセがいったん目を開け、エマに頷いた。


「確かに、あなたはバロンの……いや、イワンのお姉さんだ。どうして分かったのかは言えないけど、間違いない」


「やっぱり! ああ、死んだと聞かされていたけれど、あんたと伯父さんは最後まで見つからなかった! 生きていると信じてこの町に移って……この日をどれだけ待ち望んでいたか」


 エマは涙ぐみ、制服の袖で目をこする。イワンはエマにとって唯一の家族。ヴィセは偶然でも運命でも、バロンをこの町に連れてきて良かったと微笑んだ。


「伯父さんはどうなったか分からないが、まさか、こんな出会いになるとは。良かったです。なあ、バロン……」


 ヴィセが横でまだ目を瞑っているバロンに声を掛ける。これからは仮の名ではなく、イワンと呼ぶべきか。そう考えていた時、目を開けそうになったバロンに対し、ラヴァニが待ったをかけた。


 ≪待て、ヴィセ、バロン。2人とも目を閉じて集中してくれぬか。まだ続きがある≫


「何だって?」


 ≪言われたとおりにしてくれ! バロン、ドーンにいた頃の事を何か思い出そうとしてくれ≫


 ラヴァニに告げられるまま、ヴィセとバロンは目を閉じる。


 10秒、20秒と静かな時間が過ぎていく。そして30秒が経った頃、ふいに頭の中の光景が炎に包まれた。


 ラヴァニは光景を見るだけで声までは窺い知ることが出来ない。だが、そこに起きている事を把握するには十分だった。


「なんだ? 炎? まさかイワンはドーンにいたから……ドラゴンの襲撃を見ていたのか!」


 ≪……これが、当時の『イワン』が見た光景だ。少し遡る≫


「ちょっと、ちょっと待て! 何だ? これ、何を見ているんだ」


「ねえ、これどういうこと? 俺がちっちゃい時に見たってことか?」


 ≪そうだ≫


 3人はラヴァニと意識を共有し、災禍の中のとある街角の様子を見ていた。前方で男が数人の男に何やら指示を出している。その者達は幾つもの瓶を手にしていた。


 それがふいに通りの家へと投げ込まれる。


「……火を付けた……火炎瓶! 俺が村を焼かれた時にもあれと同じものを投げ込まれた!」


「ねえ、あの人たち家を燃やしてるよ? なんで? ドラゴンから逃げなくていいの?」


 ≪ああ……奥に我の仲間達の姿が! 仲間の姿を再び見る事が出来るとは!≫


「おい家が! でも、ドラゴンは奥の方で飛んでいるだけで、こっちには来ていない……まさか!」


 遠くが赤々と燃えている。幼いバロンの視界は煙のせいでやや視界が悪い。そんな中、男達が何故か火炎瓶で燃えていない周囲の家に火を付けている。


「ドラゴンの仕業に見せかけて、放火してるのか? ちょっと待った、誰かが奥から走って来るぞ」


「父ちゃん、父ちゃんだ!」


 先ほどイヴァンの記憶の中にあった父親の顔と同じだ。その横には、やはり似たような顔で少し背の高い男が並んでいる。


「親戚の伯父さんだな」


「うん」


 その2人を見たイワンは何者かに抱きかかえられ、イワンがその者の顔を見上げる。


「あっ、母ちゃん……」


「なんてことだ、この風景を親子3人共見ていたというのか」


 3人共この時点では生きている。ドラゴンに襲われている訳でもなく、この状況なら生き延びる事は出来たはずだ。


 だが、イワンの両親は遺体となって見つかった。焼け残った身分証と背格好で断定されている。


「あっ!」


 イワンの父親はイワンの方へと手を振っている。イワンの視界が揺れているのは、母親が手を振っているからだろう。だが父親と伯父は放火を繰り返す男達に気付き、それを止めに入った。


 男達は逃げ出すかと思われたが……1人がふいに父親の背後から首を絞める。


「何を……あいつ、首を絞めて殺そうと」


「やだ、やだ! 父ちゃんが……」


「ねえ、何? 何が起こっているの? 2人とも何を見ているの!?」


 その光景を見ているのはヴィセ達だけだ。だが断片的に漏れる言葉であっても、エマは嫌な予感がしていた。


 父親の手が何かを伝えようとしている。父親と共にいた男が止めようとするが、人数で敵わず払いのけられてしまう。


 母親がイワンをその場に待たせ、父親を助けようと駆け寄っていく。だが、その母親はその腹をナイフで刺され、その場に倒れ込んだ。


 やがて父親も窒息し、母親に覆いかぶさるようにして力尽きた。


「そんな……バロンの両親はドラゴンに殺されたんじゃない」


「父ちゃんと、母ちゃんが……」


「ねえ、どういう事? 何があったの? ねえ、イワン! 教えて!」


 黒い服の男がイワンへと静かに歩み寄って来る。両側の建物が窓から炎を吹き上げ、周囲があっという間に火に包まれる。


 ゆっくりと近づくその男の手が、イワンの腕を掴もうとする……その時、ヴィセもバロンもラヴァニも、はっきりと男の顔を認識した。


「あの意地悪なおじさん……」


 ≪あの商人だな≫


「ああ、間違いない。ドナートだ」

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