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【Lost Dragonia】ドラゴンと生き残りの少年達は、前人未到の浮遊大地を目指す  作者: 桜良 壽ノ丞
3・【Fake】追い求める者の町

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Fake 01

 

 3.【Fake】追い求める者の町




 霧の上空1000メルテ程の高度を保ち、白い飛行艇が空に溶けていく。


 青と白の境に目を凝らせば、その先には霧に浮かぶ島のような高原が見える。周囲を霧に囲まれたその地にあるのが交易の町「ドーン」だ。


 霧からは500~1500メルテ高い場所に位置し、他所に向かうためには飛行艇以外に移動手段がない。しかしながら各主要な町への中継点として栄え、1日に数十機もの飛行艇が発着するという。


≪ヴィセ、バロン、大丈夫か≫


「俺はだいぶ慣れた、バロンがちょっとまずいか」


「気持ち悪い……」


 飛行艇に揺られる事2時間。バロンは離陸直後に緊張と揺れで吐いてしまい、その殆どの時間ぐったりとしているか、泣いていた。


 せっかく食べたものを戻してしまい、勿体なくて泣いたのだ。


「背中に乗れ。ラヴァニは飛べるか」


≪問題ない。しかし、この光景はユジノクでも見たな≫


「歩きやすくていいよ」


 飛行場に降り立ったヴィセ達は、到着ゲートをくぐって町の中へと入った。綺麗に慣らされた土の道の両脇には大きな赤レンガの倉庫が立ち並ぶ。


 そのずっと北に人々の居住区があり、西には工場が立ち並んでいる。飛行艇からは森や畑や牧場も見えたが、町の中心部からは随分離れていた。


 飛行場に向かう者、中心部へ向かう者、それなりに人の往来がある。しかしヴィセの周囲だけは綺麗にスペースが確保されていた。


 例の如く、ラヴァニのせいだ。


「͡古貨はまだあるけど、あまりむやみに見せたくない。何枚かあのドラゴンの鱗を貰ってるから、市場があったらそれらしい店に持ち込んでみよう」


≪1、2枚は残してくれぬか。今まで仲間の欠片に未練などなかったが、少し惜しいのだ≫


「ああ、全部売る気はないよ。バロン、俺の肩に吐くなよ」


「……ごはん」


「さっきまで吐いてただろ、ちょっと落ち着いてからだ」


 機械駆動四輪のバスやハイヤーも停まっていたが、今にも吐きそうな少年を背負ったドラゴン連れの旅人を乗せてはくれなかった。2,3キルテ程の距離をゆっくり歩いて町に着く頃には、周囲がオレンジ色に染まり始めていた。





 * * * * * * * * *




「美味しいねごはん!」


「……お前よく食えるな」


 ホテルに着き、ヴィセ達は夕食をとっていた。


 四角い木製テーブルにヴィセとバロンが向かい合って座り、ラヴァニはテーブルの上でヴィセが取り分けてくれる料理を待っている。


 鶏肉の炙り焼き、トマトとキャベツのサラダ、ゆでたまご、ひき肉入りのスープ。1泊7000イエンのホテルでは、決して特別豪勢な思いは出来ないし、ホテル側も料理人も、そんな特別感を与えようとも思っていない。


 宿泊代を安くするための限られた食材、限られた材料費、特に高くもない賃金。出来るのは「まあこの程度だよな」と言わせるだけの夕食を提供する事。


 しかし、この日の客のうちドラゴンを連れた2人組は違った。


 ヴィセの村での生活は厳しく、芋だけで過ごす日もあったせいか、とても美味しそうに料理を口へと運ぶ。その横では、肉を平らげたラヴァニが3つ目のゆで卵を丸呑みしている。


≪すまぬ、日銭を稼ごうという話の後でこんなに喰らうのはどうかと思うのだが……我はこのゆでたまごとやらが気に入った≫


「好きなだけ食えよ。すみません、この鶏肉料理、もうひと皿いただけますか。とても美味しいです。あと、ビールとお茶と、ゆでたまごももう2つ」


「あ、は、はい、かしこまりました」


 穏やかに微笑む好青年に美味しいと言われたなら、給仕担当もやる気が出る。ドラゴンには多少身構えてしまうが、ゆでたまごを気に入ったその様子は、なんだか可愛くも見えてくる。


 料理人たちもまさかの別料金追加オーダーを受け、自分の腕を認められたようで張り切っている。


 だが、ここには更にもう1人、とても大げさな者がいる。


 何を食べてもご馳走、いや、食事が出来るだけで幸せ。この食事のために胃を空にしたのではないかと思われる程の食欲。


「ヴィセ、これ甘くて柔らかくて美味しいね! 俺これ大好き!」


「玄米飯って言うんだってさ。気に入ったか」


「うん! 俺ね、毎日食べたい! 俺すっごく幸せ! トマトも初めて食べた、鶏肉も好き!」


 バロンは炊いた玄米がよほど気に入ったのか、ヴィセの分まで分けて貰い、子供とは思えない程頬張っている。スプーンやナイフの使い方は滅茶苦茶でも、その幸せそうな姿は微笑ましい。料理への感動からか、時々泣きそうにもなっている。


「宜しければ、お替りなさいますか? サービスです」


「ほんと!? 俺ね、いっぱい食う! いっぱい欲しい、だって美味しいもん」


「また残すのが勿体ないって泣くんじゃないぞ」


「うん! 幸せだね、俺美味しいもの大好き!」


 給仕の女性がバロンのためにお替りのご飯を持って来てくれると、バロンは満面の笑みで受け取る。


≪ヴィセ、ゆでたまごは旅に持って行けぬのか。野鳥のたまごを見つけたなら作れるか≫


「出来なくはないけど、お湯を沸かすのは大変そうだ。それよりラヴァニ、食い過ぎだ。体が重くて飛べないとか言うなよ」


≪心配は要らぬ。今はこのように小さな体に落ち着いているが、以前は人を10……牛を3頭平らげた事もある≫


「……何て言おうとしたか聞き返すのはやめとく」


 2人と1匹はそれぞれ満足するまで食べ、1時間ほどしてようやく落ち着いた。食べ終えたばかりだというのに、バロンはもう明日の朝の食事を楽しみにしている。


「バロン、一応言っておくが、毎日こんな贅沢が出来る訳じゃないからな。情報次第では歩き通すことだってある」


「うん!」


 ヴィセとバロンがそろそろ部屋に戻ろうと立ち上がる。ふとそこに1人の男がやってきた。


「ほう、これは驚いた。ドラゴンの子供を手懐けているのですか」


「……何か」


 男はヴィセよりも背が低く、やや太り気味。口髭にも白い毛が混じっており、バロンから見ればおじいさんとも思える風貌だ。えんじ色の長袖に草色のズボンを穿いたその男は、ゆっくりとお辞儀をしてから自己紹介を始める。


「わたしはドナート。プエレコプから来た商人です」


「はあ……それで、何か」


 ヴィセは何故自己紹介をされたのか分からず、バロンに至っては全く聞いていない。


≪こやつ、何の用だ≫


(追加で飯を頼んでいたから金を持っていると思われたか)


 ヴィセはラヴァニと声を出さず会話できる事を隠し、男の出方を待った。


「いやあ、人に慣れたドラゴンとは珍しいと思いましてね。しかしやはりドラゴンを連れているとなると、周囲の者が怯えたり、敵意を向けたりするのではないですかな」


「不快な思いをさせたのなら謝る。危害を加えるつもりも、脅すつもりもない。失礼した、バロン、部屋に戻ろう」


「俺も明日ゆでたまご食べていい?」


「出て来たらな」


 ドナートと名乗るその商人は、ドラゴンを連れてこんな所に来るなと言いたいのだろうか。ヴィセは苦情なのか厭味なのか分からない発言を聞き続けなくていいよう、早めに謝って部屋に戻ろうとする。


「ああ、待って下さい! 実はですね、お話があるのですよ」


「……出来れば手短にお願いしたい」


「そんなに警戒なさらないで。いや、実はわたし、珍しい動物の取引を商売にしているんです。希少種の猫やトカゲ、海の魚まで取り扱っているんです」


「あいにく、俺達はそんなものを買う程余裕がない。他を当たってくれ」


 ヴィセは随分と重くなったラヴァニを肩に乗せ、男に軽く会釈をする。男はそんなヴィセを引き留めるように少し声のボリュームを上げた。


「是非、そのドラゴンを譲っていただきたい! お金なら望むだけ出しましょう」


「……はい?」

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