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【Lost Dragonia】ドラゴンと生き残りの少年達は、前人未到の浮遊大地を目指す  作者: 桜良 壽ノ丞
2・【Misty Ground】霧に潜む過去たち

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Misty Ground-06


 途中までは昨日と同じ道を行くため、ヴィセとバロンは特に苦もなく探索地点の最深部にたどり着いた。霧の上では雨が降りだしたのか、次第に防護服が黒く染まっていく。


「ラヴァニ、大丈夫か。いくら効かないといっても猛毒だぞ」


 ≪心配は要らぬ、我は先を急ぎたいのだ≫


 ラヴァニは降って来る毒混じりの雨を気にもせず、ヴィセ達の前を少し離れて飛んでいる。仲間に繋がる手がかりのため、自分だけでも今すぐ飛んで行きたいくらいだった。


「黒い鎧の人と会った場所より、先に牧場の方にいく? 黒い鎧の人と会ったのは左、牧場は右に曲がらないと」


「ラヴァニ、どっちに……」


 ≪右だ、先に確認させてくれぬか≫


「ラヴァニが右に行きたいって。500年ぶりに仲間の手掛かりを掴んだから、優先させてあげたい」


「分かった」


 2人と1匹は細い路地を進んでいく。時折小さな交差点はあるものの、両側には崩れた高層の廃墟が立ち並ぶ。左右を警戒する必要がないのは幸いだが、いざという時に逃げ場がない。


 ラヴァニが先頭、ヴィセが最後尾という並びを維持し、更に歩くこと1時間少々。ようやく建物が少なくなってきた。


「しかし大きな町だったんだな。モニカやユジノクよりもかなり発展してたみたいだ」


「うん、俺達やもっと前の人たちが探索してきた範囲だけで、ユジノクよりずっとずっと広いよ。大人たちが大陸でも5本の指に入る大都市だったって言ってた」


 ユジノクはモニカよりやや広く、人口も倍近い。およそ5平方キルテ(=5k㎡)の土地に8万人が暮らすと言われている。しかし霧の下で滅んだ旧ユジノクは、居住区域だけでも400平方キルテ、人口は700万人に達していた。


 工場地域なども広大で、今では製造が難しい工作器具や薬品などがまだまだ転がっている。金を得る手段が無い子供達にとって、ここは生きるために必要な鉱脈のような存在だ。


「……霧から出たら畑の作り方、作物の育て方を教えるよ。食うに困って無理する事がないように」


「畑にするには土地が痩せてるって」


「大丈夫、家畜を飼っている家もあったよな。たい肥を貰えばすぐに……」


 ≪ヴィセ、柵だ、ここが牧場だな≫


 ヴィセが懐中電灯で照らす先に、ぼんやりと杭だけが残った柵の跡が現れた。もう待ちきれないのか、ラヴァニはその先へと飛んでいく。


「お、おい! バロン、行こう」


「うん、大丈夫、だよね」


「俺もラヴァニもいる。足元に気を付けろよ」


 ヴィセとバロンが駆け足でその後を追う。視界が悪く暗いため、その先を窺い知ることはできない。けれど、ヴィセはすぐに良くない事が起きていると分かった。


 ≪グアァァァァ!≫


「ラヴァニ! どうした!」


「い、今凄い叫び声みたいなのが」


「ラヴァニの声だ、何かまずい事があった……くっ」


「ヴィセ? どうしたの?」


 ヴィセが急に立ち止まり、手を膝につく。その手が震えている事に気付いたバロンは、心配そうにヴィセの顔を覗き込んだ。


 ガスマスク越しでは顔が分からない。けれど、その様子から何か痛みや苦しみに耐えている事は分かった。


「ヴィセ?」


「……ラヴァニが、怒っている」


「えっ」


「今は……行くな、傍にいてくれ」


 ラヴァニが怒っているというのは気になったが、ヴィセの具合は悪そうだ。もしも何かあった場合、とてもバロン1人では帰れない。バロンは背中をさすってあげようと思い、ヴィセの横でしゃがんだ。


 そうやってヴィセを暫く介抱していた時、バロンはふとヴィセに違和感を覚えた。


「あっ……ヴィ、ヴィセ?」


 頭までフードで覆った防護服を着ているはずなのに、そのシルエットが明らかにヴィセではない。頭部の右側は何かが角のように突き出ており、よく見れば右手も明らかに人の手ではない形をしている。


「ねえ、ヴィセ、ねえ!」


「くっ……」


「ヴィセ、もしかして霧が入っちゃったの? ヴィセ、ねえってば! やだよ、霧のせいで化け物になるな!」


 霧に適応した動物が化け物となって徘徊している事を思い出し、バロンはヴィセがそうなってしまったのではと慌てる。泣いてしまえばガスマスクの中に涙が溜まってしまうが、今更泣くなと言っても遅いようだ。


 ヴィセはラヴァニの怒りに引きずられ、モニカのパブの時のように半身がドラゴン化していた。だがまだ意識はあった。バロンの声と、バロンを守らなければならないという意思がギリギリで阻んでいたのだ。


「大丈夫、大丈夫……だ」


 そう言ってヴィセはバロンをしっかりと抱きしめる。その右手はラヴァニのように鋭い鉤爪が伸び、とても固い。バロンは恐怖に怯え、一体ヴィセに何が起こっているのか混乱しつつも声を掛け続けた。


 地面に転がった懐中電灯がぼんやりとシルエットを映し出す。


 少しでも止めてしまえば、そのシルエット……声を掛けている相手がヴィセではなくなってしまう気がしていたからだ。


「ヴィセ、手が、手がラヴァニみたいになってるよ、あ、頭もツノみたいなのが……」


 バロンがそう告げた事で、ヴィセは頭を触り、そして自身の右手を確かめる。


「な……俺、俺の手が、嘘だろ、ドラゴン化して……」


 ヴィセには前回変身しかけた時の記憶がない。


「ヴィセ?」


「まずい、バロン、離れろ」


「いやだ!」


 ラヴァニの怒りに引きずられ、ドラゴンの血が外見にまで作用している。それに慌てたヴィセがバロンを慌てて引き剥がそうとする。しかしその絶望にはもう1段階上があった。


「バロン……なんてことだ」


 引き剥がしたバロンの左手もまた、手袋が破れてドラゴンのようになっていたのだ。その衝撃からか、ヴィセは幾分ラヴァニの怒りの影響が薄くなる。


 バロンはやはり、男からドラゴンの血を与えられていた。だが、今回はヴィセもバロンも意識を支配されていない。バロンにいたっては、体の変化が起きても感情に影響が出ていない。


 ただ、いずれにしても自分達がどのような状況にあるのか、ヴィセだけ把握していても仕方がない。


 変化した手、手の部分が破れ、防護服の中まで霧が入り込んでいるのになんともない体。ヴィセは、それを誤魔化す術を持っていなかった。


「バロン、もう大丈夫だ。それと、右手を。俺の左手をしっかり握っていてくれ」


「うん……ねえ、ヴィセ。その手と頭、どうしたの?」


「俺にはドラゴンの血が流れているんだ。本当は防護服なんか着なくても平気」


「えっ? ドラゴンなの!?」


 バロンがビクッと震え、僅かにヴィセの手を握る力が弱まる。


「いや、人族だ。俺は黒い鎧を着た男からドラゴンの血を飲まされた。傷口をドラゴンの血で洗われて、そのせいでドラゴンの力を体に取り入れてしまった。ラヴァニが怒った時、俺にもそれが伝わる」


「黒い鎧の男の人って、俺が会ったのと同じ?」


「ああ、そうだ。バロン、赤い飲み薬を貰ったって言ったよな。俺の手をしっかり握ったまま、ゆっくりと左手を見てごらん」


 ヴィセの言葉が何を示すのか、バロンはようやく気付いた。小刻みに震えながら、バロンは淡い光の中、自分の手を視界に入れた。


「うわあぁぁぁ!」


「バロン、落ち着け」


 今度はヴィセがバロンを落ち着かせるため、抱きしめてやる番だった。恐怖でパニックになったバロンを逃がさないよう、きつく力を入れる。


「バロン、俺と同じだ。バロンもドラゴンの血を飲んだんだよ」


「俺、俺……人じゃなくなっちゃう! どうしよう、手が……」


「大丈夫だ、どんなことがあっても」


 バロンの絶望はヴィセにもよく分かる。しかし、ヴィセは同時に自分と同じ状況にいる者に出会えてホッとしていた。


「大丈夫だから。行こう、ラヴァニの怒りも少しずつ収まってきた。気持ちを強く持てばドラゴンの血には負けない。何があったのか、ラヴァニが心配だ」

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