operations-01
19・【operations】救世主たち
エメナの故郷、ラーナ島。
島に着いた一行は、エメナに会うため住民にエメナの事を尋ね回っていた。
エメナから「ドラゴンに乗って人がやって来る」と聞いていなければ、全員島から逃げ出していたのではないか。ヴィセ達はそう思える程驚かれた。
「ボイヌッケ、モスコカンダ? デカンレーベル?」
「あー……レーベル語。すみません、レーベル語は話せないんです」
「ああ、モスコだけね、ダイジョブ、皆モスコ喋れる」
島の老人が言うには、普段の会話はレーベル語なのだという。ただ、唯一島に立ち寄る商船の乗組員は、殆どがモスコ語しか喋れない。よって島民は全員モスコ語を習っていた。
「ヴィセくん! バロンくん!」
「お待たせしました、作戦の仲間が揃ったんです」
「坊や達を手伝ってくれると聞いとります。有難う、あたしはジェニス。こっちがエゴール、フューゼン、アマン」
「エメナです、皆さんようこそ。さあ、早速潜水艇を見せてあげる」
エメナは島長と共に島の入り江へと向かう。島は思った以上に小さく、1時間もあればひとまわりできそうだ。
サンゴ礁ではなく硬い岩盤で出来ている島だからこそ、地下に潜って霧をやり過ごすことが出来た。そう言って島長は入り江の倉庫の扉を開いた。
「ここですよ。エメナに話をされるまで、正直なところ存在も忘れておりました」
「使えないんですか?」
「いえいえ、昨日試験的に潜っております、大丈夫」
倉庫からは傾斜のあるコンクリートの床に線路が走っている。台車に乗せた潜水艇をそのまま海に運べるようにしているのだ。
潜水艇の幅と高さは2メルテ半、長さは4メルテ程度。思ったよりも小さい。
「操作は慣れた人がしてくれる。ヴィセくんは中からラハヴ達に指示を出して」
「中からちゃんと聞こえるかな」
「ラハブの意思は聞き取れるらしいから、大丈夫なはずよ」
潜水艇については問題なさそうだ。念のため、脱出用のポータルや、酸素ボンベ等も点検済みだという。
「……陸が安全になれば、海賊のような野蛮な連中も活躍の場を失うわ。だから島全体であなた達を応援すると決めたの」
「エメナさん、ありがとー! あとね、この島のラハブはどこ? 俺達約束したから、ちゃんとみんなの言葉を伝えるよ」
「ああ、嬉しいわ! 有難う、早速お願いできる?」
「うん!」
エメナがラハブの棲む砂浜へと皆を案内する。島民たちもぞろぞろとその後に続く。ラハヴに思いを伝える絶好のチャンスだ。
砂地の道を歩き、白い遠浅の砂浜に着いた。そこには1頭のラハヴが丸くなってひなたぼっこをしていた。
≪ほう、ずいぶんと立派なラハヴだ。港や海で見かけた個体よりもずいぶんと大きいい≫
「ああ、この大きさなら海賊が逃げ出すのも無理はない」
ヴィセやラヴァニの言葉はラハヴにも伝わる。突然聞こえてきた「理解できる」声に、ラハヴはぱっと首をもたげた。
「すごーい! 大きい!」
「ああ、こんなに立派なら心強いな」
≪人の声が……何と言っているか分かる! そっちは珍しい、見た事がある!≫
≪我はドラゴン族のラヴァニだ。そなたの仲間と共に島と空を守る≫
≪大地モ忘レナイデオクレ≫
マニーカがバロンの鞄から顔を出す。地中の竜と海の竜が顔を合わせることなどまずない。ラハヴはマニーカに興味津々だ。
≪ずいぶんと小さいけれど、これは?≫
「土竜です。空のドラゴン、海のラハヴ、そして大地の土竜。今は人の力で小さくなっていますが、人が10人20人並んだよりも大きいですよ」
≪ヨロシクタノムヨ。サテ、コチラ ハ ソロソロ土ニ潜ロウ。ノンビリト 海ノ底ヲススムヨ。ラハヴ達ニハ、強メニ 意思ヲ届ケテト 伝エテネ≫
バロンがマニーカを砂浜にそっと降ろす。封印を2段階だけ解くと、マニーカはそのまま潜って消えて行った。
「さて、ラハヴさん。島の皆さんは、いつも島を守ってくれる貴方達に感謝を伝えたいそうです」
≪感謝?≫
「ええ。さあ、俺達がいるから、皆さんが語り掛けるだけで伝わります。代表してどなたか」
ヴィセが周囲に声を掛ける。皆語り掛けたいのだろう。結局は順番となり、まずは島長がラハブの前に立った。
首を伸ばしたラハヴは、その体高が6メルテはあるだろうか。マニーカの半分にも満たないにしろ、それでもラヴァニよりは随分と大きい。島長は二度ひれ伏す動作を見せた後、正座をしてラハブと向き合う。
「ラハヴ、偉大なる島の守り神。あなたにわたしの声が聞こえておりますか」
≪ああ、よく聞こえているよ。いつも気に掛けてくれて助かる≫
「ああ、ああ! 俺達の声が届いているぞ!」
「信じられない、夢のようだわ! ご先祖様のように、いつかはこうしてお話が出来ると願っていた!」
島民が一斉にひれ伏し、ラハヴに祈りを捧げる。返事を1つ聞いただけでこの調子なら、会話をすればどうなってしまうのか。
「島を守って下さって、有難うございます。いつか、いつか我々の感謝をお伝えしたいと。何か出来る事はありませんか」
≪時々魚をくれるよね。それだけで十分だ。こうしてのんびりできる場所を用意してくれた君達のうんと前の人達には、とても感謝している≫
ラハヴと島民のやりとりは1時間ほど続いた。ラハヴはヴィセ達を通じて人の言葉を理解し、島民たちは多くが直接返事を聞き取る。初めてラハヴ達が訪れた日の事、この島の昔話などを語り、ラハヴも満足したようだった。
いつしか島民たちの喋る事が分からなくなり、少し寂しく思っていたのだという。
「これからは、文字を覚えて貰って、筆談が出来ればと」
「いずれ、我々はラハヴの声を聞き取る事も出来なくなるでしょう。その時でも、この交流は失いたくないのです」
今後はラハヴの言葉を聞き取った者が、砂浜に掲げる大きなボードで文字を指す。そうやってある程度覚えることが出来れば、人が文字盤を指して言葉を視覚で伝える。
出来るかは分からないが、ラハヴも乗り気だった。
≪我も負けぬよう、文字を覚えなければな。すでにド、ラ、ゴ、ン、それにラ、ヴ、ァ、ニは分かるぞ≫
「という事は、ラハヴ様が覚えるのも不可能ではないという事ね! ああ、早速用意しなくちゃ!」
島民たちが喜び合い、騒ぎを聞きつけた他の数頭のラハヴも顔を出す。お祭り騒ぎの浜を見て、ヴィセ達は自分達の目的よりも、皆の喜びを優先する事にした。
「ありがとうヴィセくん、バロンくん! あなた達のおかげで私達はまたラハヴと共に生きていける!」
「これくらい、お礼にもなっていません。潜水艇や、浮遊鉱石の事……俺達の方こそ感謝しています」
「百年以上の悲願だったの、過大なくらいよ! さあ、ラハヴと私達を繋いでくれたドラゴンさんと客人の皆さんをおもてなしよ!」
「エメナちゃん、帰島して早々に仕切り出すとは、変わってないねえ!」
島長やエメナ達に囲まれ、いつしか浜には食べ物や酒も並んでいる。エゴールがボソリと「ああ、ジェニスにお酒を飲ませたら大変だ」と呟く。
「まあそう言うなエゴール。お前の嫁さんはお前がしっかり介抱しろ。それよりもどうするかい、オレ達が運んできたお礼の食べ物もあるが」
「全部宿に置いてきたな。じゃあヴィセくん達は引き続き通訳係を。ぼくが運んでこよう」
「オレも行こう。アマン、どうせなら風呂敷ごと全部くれてやれ。大陸では幾らでも手に入る」
フューゼンとアマンがお礼の品々を取りに戻る。チラリとエゴールを確認すると、顔を赤くして嬉しそうにジェニスの肩を抱いていた。
「……エゴールさん、良かったよな」
「おばーちゃん……じゃなかった、ジェニスさんの事大好きだもんね。嬉しそう」
≪さて、我は幾らでも食えるぞ。長い距離を飛んできたのだからな。前からビールを飲んでみたいと思っておった≫
「え、飲んで酔っ払った事があるじゃないか」
≪さあ、覚えておらぬ≫
ラヴァニは封印で2段階だけ小さくなった後、すぐに食べ物へと飛び寄って青魚を1匹丸呑みした。
「ま、不安でドキドキしていても楽しく過ごしても、どうせ明日はやってくる。それなら楽しく騒ごうぜ。行こう、バロン!」






