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【Lost Dragonia】ドラゴンと生き残りの少年達は、前人未到の浮遊大地を目指す  作者: 桜良 壽ノ丞
16・【Awake】世界の再始動

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Awake-09




 * * * * * * * * *





 無人だったラヴァニ村に住民が戻り、丸3日が経った。ジェニスは帰ろうとしたが、風が強く天気も悪かったため、逆にオースティン達が引き留めたのだ。


 屋根の隙間から水が滴る、囲炉裏が小さく周囲が焦げる、外に置いていた水瓶の水が凍る等々の緊急事態も落ち着き、ようやく暮らしやすい環境も整った。木板の屋根の上には少し空間をもたせ傾斜も付けたトタンを張り、大雪にも備えている。


 屋根を付けた資材置き場も完成し、バロンが作った水車やモーターもブリキの板で囲われた。


「種まきは終わったのかい? あーあー、もう! もうちょっと深く植えにゃ倒れてしまうよ」


「ほらだから言っただろ、関節埋まるまでだって。絶対俺の方がオースティンより向いてる」


「収穫できたら是非とも野菜をお届けしたいですね! 今から楽しみだ」


「気が早い坊や達だねえ。1年目は失敗する覚悟をしておきな。温室や畑は幾つか分けなさい。動物に食べられたり、虫に食われたり、上手く育たなかったりは当たり前だからね」


 透明のシートで覆われた簡易的な温室の中には、よく耕され畝が並ぶ畑が出来た。既にいくつかの野菜の種を撒いてある。


「動物除けの柵も作らねえと。いやあ、やる事がいっぱいで忙しいぜ」


 資材の運搬はラヴァニとエゴール。畑を耕したのはもちろんマニーカだ。土の状態、種まき、水やり、間引き、収穫、疫病や害虫の対策などはジェニスが教えた。


 バロンは水車の他に風車も作成した。木材だけでなくトタンやブリキを提案したのもバロンだ。おかげで室内にランプが2つ、村の入り口と家の前にも明かりが点くようになった。


 ≪土ガ呼吸デキルヨウニ、時々畝ノ間ヲ掻キ混ゼテ≫


「マニーカが土に空気を送れるように、畝の間の土を踏み固めず、時々耕してと言ってます」


 ≪丁寧ニ伝エテクレテ有難ウ。伝エルトイウ行動ハ トテモ難シイネ≫


 ヴィセは小屋の建築、雪や雨風への対策、狼や熊への対策を伝授した。鶏用の小屋と柵も作り、モニカの南にある村で鶏を6羽購入している。数か月分ではあるが、干し肉、野菜、米、小麦、それに若干の調味料もある。


「餌は当分の間、殻ごと小麦、大麦、それに豆やとうもろこしを混ぜて使って。米があればなおいいんですけど、まあ土の上にあるものなら何でも食べますよ」


「ああ、足りなくなれば町まで往復して買うことも出来る。春になれば虫をついばんでもらうさ」


 ≪これでゆでたまごにも困らぬな。良い暮らしができる≫


「良い暮らしの基準がゆでたまごじゃ心細いけどな。俺が1人で越した冬よりはいい環境だ」


 住環境が整えば、バロンのような孤児を受け入れてもいい。どこの町にも親を失い、頼るあてのない子供はいる。ここなら過酷でも住む家があり、頼れる大人がいる。


「ゆくゆくは人が増えてくれたらいい。俺達と同じ、境遇に恵まれず育った奴は男女年齢を問わずまだまだたくさんいる」


「こちとら、根っからの悪人の目利きは出来るもんでね。足抜けしたい奴の手助けをしてみるよ」


 オースティン達はもう誰かを頼ることではなく、誰かに頼られる生き方を描き始めていた。


「さて! あんたら、賑やかしいのもそろそろだよ。あたしらは夕方に発つからね」


「任せてくれと言ったのは俺達だけど……もうちょっと復興していく姿を見て欲しかった」


「帰れと言ったり残れと言ったり、どっちなんだい。でもまあ、半年前に見た無残な姿はもうない。村は生き返った。あんたたちのお陰だよ、本当に……本当に有難う。ここに住むと決めてくれて本当に……」


 ジェニスが声を詰まらせる。涙を堪えて暫くじっと遠くの山の派を見つめ、跡形もない生家の跡地へと頭を下げる。


「よ、よしてくれよ! ジェニスさん」


「俺達にとっては親より偉大だ。あんたが親だったなら、どんなに違う暮らしが出来たかと何度も思った」


「ジェニスさん。あんたが誇る故郷は、俺達が守っていく。誰がいつ来ても、ここより良い村はないってくらいにな」


 村の食い扶持を減らすため、彼女がやむなく村を離れて数十年。当時、村長の一家も何らかの犠牲をと払わなければとして、末娘のジェニスが選ばれた。ジェニスは口に出さなかったものの、一時期は自身の境遇を嘆き、村の者を恨んだ。


 しかし結果として災禍を免れたのは、村長の娘だったからこそ。自分が村長の娘として、生き残りとして、村を守っていかなければという思いは強くなっていた。


「……あたしはね、あんたらを利用したんだ、利用したんだよ。むごたらしく焼け落ちた故郷は、あたしだけじゃ復興させられない。こんなババアが1人来たところで、何にも出来ん」


 オースティン達は利用したと言われても優しい表情を崩さない。ヴィセ達が用意した小屋の周囲こそ見栄えがマシになっているが、村の大半は焼け落ちた家々がそのままだ。家の裏手には村の規模に不釣り合いな程多くの墓が並んでいる。


 かつてヴィセ達を襲ったデリング村はもうない。村付近の道は崩れ、霧が地面をうっすらと多い、家々は全て放棄されていた。山を伝って周り道をし、はるか西の集落を頼ったのだろう。


「正直ね、ここまで何もないのなら無理だと言われると思ってたよ。会えるのに会わなかった、会いたいのに会えなくなった。そんなあたしの……」


 ジェニスの目から大粒の涙が零れた。泣いても声には出さず、涙の跡は凍る暇もなく静かに次の涙の通り道となる。


「ジェニスさん。俺達も正直に言おう。ヴィセさんの紹介じゃなけりゃ、娘さんの話を聞いた時点でやめてた。連れてきたのがあなたじゃなけりゃ、引き返してた」


「半分は本当に何もない土地でやり直す気でいた。もう半分は、あんたとヴィセくんのためだ」


「俺達も、ようやく悪事以外で誰かの役に立てる。ジェニスさん、あなたが故郷に馳せる思いは分かっています」


「誰かのために生きるなんて、今まで考えた事もなかったんだ」


 オースティンがジェニスと抱擁を交わし、涙もろい婆さんだと笑う。ジェニスの背はオースティンの胸程までしかない。バロンと並んだって、そう変わらないだろう。


「あたしが……こんな涙もろくて小さい婆さんだと、やっと気付いたかい」


「そうだな、存在感があり過ぎて気付かなかった」


「なにせ、ジェニスは態度がデカいからね。オレなんて未だに尻に敷かれているよ、重い重い」


「はっはっは!」


 エゴールの言葉が引き金となり、村に笑い声が響く。一時的にとはいえ、この数日は8人と2匹が暮らす集落になった。ラヴァニ村は義理堅い若者によって生き返ったのだ。


「俺も……ようやく思い出から抜け出せるんだな」


 ヴィセは考えないようにしていたが、炎に包まれた村の様子、逃げ回る村人、襲い掛かる鉈の鈍い光、それらは3年間の暮らしにいつも付き纏っていた。


 母親と共に倒れた畑、父親が息絶えた畦道、それらの忌まわしい記憶は、新しい小屋、水車、ビニールハウスなどがどんどん塗り替えていく。


 ≪ヴィセ。そなたと関わって知った。縁というものは侮れぬ。1つの縁が村の復興にまで繋がるとはな≫


「ああ。俺も胸を張って言えるよ、俺の故郷ラヴァニ村はここにある、いい村だぞってな」


「俺、時々水車と風車がちゃんと動いてるか見に来たい! ねえ、いい?」


「そうだな。次に来る時は高級ホテルを建てといてもらうか」


「高級ホテル! 俺ね、ごはんがいっぱい出るところにしたい!」


「……え? お前が働くのか?」


 ≪コチラモ 誰カガ小サクシテクレタナラ マタ訪レタイネ。土モ水モ清ラカダ。気ニ入ッタヨ≫


 ≪ラヴァニという名を生涯誇りにすると決めたが、良い村になればその名も映える≫


 ヴィセ、ジェニス、そして新しい生活を手に入れたオースティン達。


 彼らの心の中で止まっていた時計は、ラヴァニ村の小屋の前で秒針を刻み始めた。

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