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【Lost Dragonia】ドラゴンと生き残りの少年達は、前人未到の浮遊大地を目指す  作者: 桜良 壽ノ丞
16・【Awake】世界の再始動

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Awake-06


* * * * * * * * *




「あーっ! おばーちゃーん!」


 2日後の昼、ようやくジェニス達がラヴァニ村に到着した。


 やはり高齢のジェニスには厳しい旅だった。結局は最後2日間だけ、エゴールが負ぶっての帰郷となってしまった。流石に気合だけでどうにかなる道のりではなかったのだ。


 気温は氷点下、風も冷たく、晴天でも地面は暖かくならない。エゴールはともかく、オースティン達は図らずも希少生物の密猟、密輸で培った体力が役に立っていた。


 そんな一行は予想外の出迎えに驚きつつ、不安の幾つかが解消された安堵感で村の入り口に座り込んだ。


「やあ、ヴィセさん!」


「家が、真新しい家があるぞ! 助かった……」


「あらまあ! あんたら、来ておったんね」


「長旅、お疲れ様でした。間に合わせですけど、なんとか1棟だけ」


「俺達で作ったんだよ!」


 床材が足りなくなり、ラヴァニが更にもう1往復して、今朝なんとか完成したばかり。真新しくも粗末な小屋は、壁も屋根もただ木板を打ち付けただけの箱にすぎず、当然断熱材など使用していない。


 地面と床の隙間も、10センチメルテ角の木材1本分。地面から来る冷気を和らげるには心許ない。それでも、新たな住人たちが安堵するには十分だった。


「有難う、ヴィセくん、バロンくん。オレがいたら何とかなるかなと思っていたけど、流石にこんな家を建てられたとは思えない。助かったよ」


「俺の故郷ですからね、エゴールさんに何でもお願いするわけには」


「あのね、ラヴァニとマニーカも頑張ったんだよ!」


「マニーカ?」


「どりゅーのマニーカだよ」


 バロンが小屋の中に駆け込んで、マニーカを抱えて戻ってくる。封印で小さくなったマニーカは、せいぜい成猫程度の大きさだ。バロンはマニーカを有無を言わせず抱き上げ、まるでペットのようになでまわす。


「これ……え、トカゲ?」


 ≪……オヤ、君達ノ言葉デハナイノニ理解デキル。ソシテ、人ガトカゲト呼ブモノニ 心当アタリガアル≫


「マニーカがね、トカゲって言われるの嫌って」


「あ、ああ……すまない。ひょっとして、そのえっと……マニーカもラヴァニさんと一緒なのか?」


「ラヴァニはドラゴンで、マニーカはどりゅーだよ」


「土竜というのは、空を統べるドラゴンと違って土の中に生きる存在です。ラヴァニのように、今は封印で小さい姿に変わっています」


 バロンが「そう!」と元気に頷いた後、ヴィセは簡単にマニーカについて説明をした。モニカの地の伝承にも載っている事、土壌の浄化を担っている事、マニーカのおかげで今のモニカがある事なども強調する。


「土の竜、という意味で土竜か、なるほど……」


「マニーカもいっぱい手伝ってくれた! 家の柱の下とか強くしてくれたんだよ! 畑もね、ふっかふかになってる!」


「強く……? あ、いえ。マニーカさん、有難うございます」


 ≪コンナ些細ナコトデ感謝サレルナンテネ。ソロソロ暖カイ所ニ戻ラナイカイ≫


 マニーカは照れ隠しなのか、皆を小屋に案内しようと話題を変える。食料やテント、寝袋は持ってきたというが、もちろん屋内の方がいい。


 屋根を張り終えたばかりの小屋の中では、ラヴァニが囲炉裏の真ん前を陣取って眠っていた。重い資材、腐食防止の塗料を運び、2日で5往復もしたラヴァニは流石に疲れたのだろう。


「ラヴァニもモニカから材料を休みなく運んでくれたんです。起きたら労ってやって下さい」


「やっぱり、この辺りの木じゃないんだね。切り倒してここまで加工したとは思えなかったが、あんたら、何でここまでしてくれるんだい」


「俺の故郷を……復活させてくれるのなら、出来る事はしたかったんです。ラヴァニもバロンも、俺の我が侭に付き合ってくれました」


 ヴィセは滅多に自分の思いを優先させない。ラヴァニとバロンはようやく力になれると喜んだくらいだ。


 床にはニスまで塗られ、滑らかな表面は温かみすら感じる。昨晩、ヴィセとバロンが夜通しやすりがけしたおかげだった。


「間に合わせなので、春が来たら床や壁の補強をした方がいいです。時間がなくて、他にはまだ何も」


「あたしらは野宿も覚悟で来たんだよ、ここまでしてくれてどんなに嬉しいか。あんたの故郷、後はあたしらに任せなさい」


 ジェニスはかつて村長の娘だった。親兄弟が守れなかった村を、今度こそ自分が守る。それがジェニスなりのけじめだった。オースティン達も、ジェニスの覚悟は分かっている。


「ジェニスさん、あなたは休んでいて下さい。明日から教えてもらわないといけない事が山ほどある。俺達にはのんびり過ごす時間なんてない。ヴィセさん、この村での生き方を教えてくれないか」


「え、休まなくて大丈夫ですか?」


「ああ。俺達の親より年上のジェニスさんが、ここまで体張ってお膳立てしてくれたんだからな」


「前にもオースティンが言ったと思うけど、俺達はようやくまっとうに生きるチャンスを掴んだ。もうこれしかないんだ」


「そりゃあ酒があって、飯屋があって、娯楽のある生活が恋しいけどな。俺達はそれよりも誇れる生き方を選んだ」


 全員が農作業未経験で、木を切り倒した事もない。大工仕事も勝手が分からず、料理もろくに出来ない。この村で出来る事と言えば、密猟で培った腕前で狩りを行うだけだ。


 だが、4人の男達はそれでもここで生きていく覚悟でやってきた。ジェニスに連れられて見学に来たお客様ではない。もうラヴァニ村の住人なのだ。


 これから待っているのは、見知らぬ廃村での更なる過酷な生活だ。住む場所の整備、食料の確保、畑の整備、薪の確保。どれか1つでも欠けたなら死に直結してしまう。全員必死だった。


「分かったよ。じゃあ俺も厳しく指導していく。バロン、薪を土間に運んでくれ。俺は村の中を案内してから種まきを教える。まだ残しておいた種があるかも」


「はーい。囲炉裏にちっちゃな木入れてもいい?」


「ああ、火が消えないように頼んだぞ」


「種ならあたしが持ってきたよ。ダイコン、ホウレンソウ、村に残ってなければ保温用のビニールと黒マルチもある」


「完璧です、良かった、何とかなりそうだ」


 ヴィセはジェニスから一式を受け取って目の前の畑に置いた後、4人を連れて村内を案内した。オースティン達が移住してくれた事で、ヴィセが1人で過ごした3年間はどんどん思い出になっていく。


「あれは……墓?」


「半分は隣村の焼き討ちに遭って死んだ人のものだよ。俺の両親の墓はあれ、村長の墓はあっちだ」


「ヴィセさん、あんたが1人で全員を埋葬したのか」


「……ああ」


「あまりにも惨い……」


 オースティン達は、道中でこの村に起きた出来事や、隣村への復讐を全て聞かされていた。ヴィセが目の前で母親を刺殺された事も、エゴールに救われた事も、3年間たった1人で暮らしていた事も知っている。


「こんな……大切な村を俺達にくれて大丈夫なのか」


「俺は結局村を守れなかった。皆さんが代わりに守ってくれるなら嬉しい」


「そっか。あんた、強いな。ヴィセさん、ジェニスさん、2人を見ていればこの村がどんな村だったのか、よく分かるよ」


 オースティンがボソリと呟く。その隣で背の高い銀髪の男がニッと笑う。


「俺達も、いつかあんたの誇りの一部になる。だから村人としてやるべき事を全部教えて欲しい」


「大きな目的があるのは分かってる、だけど俺達は1日でも早くジェニスさんをゆっくりさせてやりたいんだ。数日で良い、力を貸してくれ」


「うん、分かったよ。じゃあ水汲みが終わったら畑に。マニーカが耕してくれてる」


 ヴィセは町で買った木製のバケツを片手に歩き出す。その時、ふとオースティンが口を開いた。


「そういえば、あのマニーカっていう土竜……」


「マニーカが、何か?」


「いや、気のせいかもしれないんだけど、運び屋をしていた時に、似た生き物を見たような気がして」


「何だって?」


「ああいや、見た目が似ていると思っただけなんだ。それに土じゃなくて水槽の中で泳いでいたから、全然違う生き物だよ」

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