Awake-03
マニーカの雰囲気が変わった。それまでの穏やかな口調から、急に焦ったような早口に変わる。
「浄化石が浮遊鉱石って事か。いや、モニカの地下にはまだ浮遊鉱石が眠っているよ」
≪ヒトハ、コノ地ノ浄化石ニ 手ヲ出シテハイナイノダナ≫
「あると突き止めたのは、俺達と、一緒に調べてくれた1人だけだよ。手は付けていない。地下水に含まれる浮遊鉱石のおかげで町が保たれているからね、余計な事を教えたくない」
≪ヨカッタ……≫
マニーカは浮遊鉱石の事を知っていた。更には、大切なものとして認識しているようだ。
「ねえ、どりゅーのマニーカは浮遊鉱石のこと知ってたの? 俺達ね、浮遊鉱石で霧を全部消したいんだよ」
「マニーカが浄化石と呼んでいるものが毒霧を吸収するんだ。恐らくモニカの地下にあるだけでは足りないけど」
≪鉱石ガ必要ト言ッテイタネ。マサカコノ世ガ毒霧デ包マレテイヨウトハ 思ワナカッタケレド、タシカニ浄化石ナラ……≫
マニーカもまた、ドラゴン達のように浮遊鉱石を巡る争いを見てきた。ヴィセ達が予想していた通り、マニーカはこの地の浮遊鉱石を守って来たのだという。
≪我らはドラゴニアのため、空から見下ろせる全てを守ろうとしていたが……ドラゴニアが浮かび上がった跡地以外を探す術がなかった。土の中はそなたが守ってくれていたか≫
≪コチラハ 地上ノ見エル範囲ノコトシカ分カラナイ。ケレド土ノ中ハ自由ニ動キマワレル。穢レガ浄化石ニ及ブ臭イガスレバ、手段ヲトワズ阻止シテキタ≫
「この毒霧については説明した通りだ。海を越えた地にいる人々の祖先の仕業で、人は毒霧を消す手段を持っていない。浮遊鉱石が必要なんだ≫
「ねえ、モニカの地下にある浮遊鉱石って使ったらだめ? 使ったら怒る?」
バロンのお願いを聞きながら、マニーカはとても悩んでいた。バロン達は私利私欲のために浮遊鉱石を求めている訳ではない。ドラゴンであるラヴァニが共に行動していることからも明らかだ。
しかし、マニーカにとっても浮遊鉱石は重要なものだ。土壌の汚染があった時、マニーカは石の力で大地を元に戻してきた。マニーカ自身が浄化できるとしても、許容量はある。自身を救うためにも欠かせないものだった。
≪……町ノ地下ノ浄化石ハ コチラニ必要ナモノナンダ。協力ハ シタイノダケレド≫
「だよなあ、この土の状態で生きていくなら、毒抜きできる浮遊鉱石は必須だよな」
≪モニカの地下水に含まれる成分の事を考えても、採掘できる量は限られるであろう。モニカの地下の浮遊鉱石に霧を吸わせ、汚染し尽くす訳にもいかぬ。どのみちそれだけで足りるものではない≫
「ちょっとだけしか使えなかったら霧消えない?」
「ああ、膨大な量が眠っている事を期待していたけど、そこまでじゃないようだな」
ヴィセ達は少し落胆していた。浮遊鉱石の量が十分でない事は予見していたが、マニーカが協力してくれることを密かに期待していた。ヴィセ達には採掘の手段がないため、マニーカが掘り出してくれたならなお良い。
「ねえ、ちょっとだけもらうのはだめ? 早く霧を消さないと、ドラゴニアが落っこちちゃうんだよ。ドラゴンも浮遊鉱石を探して頑張ってるけど、足りないんだ」
≪コノ地ノモノハ……≫
マニーカはダメと言わず、躊躇うばかりだ。僅かでもあれば、霧は消せなくともドラゴニアが落ちるまでの時間は稼げる。ヴィセはもう一押しだと思い、頼み込む。
「ドラゴニアのために、少しでも分けてもらえないだろうか。それが欠片1つ分でも構わない。それくらい差し迫った問題なんだ、だから……」
≪気持チハ、ワカル。コチラモ渡セルナラ、渡シタイ。ケレド……ソレホドノ量ハ、モウ残ッテイナイト思ウ≫
「霧のせいで普通の石になっちゃったの?」
≪封印サレテイタカラ、霧ガ出タ後ノコトハ 知ラナイケレド。カツテコノ地ヲ浄化スルタメニ、カナリノ量ヲ使ッテシマッタンダ、スマナイ≫
「じゃあモニカの地下にあるのは」
≪ソンナニ大キナ鉱脈ジャナイ。モチロン、コチラノ体ホドノ鉱脈デハ アルケレド≫
マニーカはかつてのこの地の惨状を語り始めた。当時の町から少し離れた丘に坑道が出来た時、人々は環境破壊という事象に無頓着だった。鉱山からは有毒な重金属が漏れ出し、川は赤黒く染まった。
マニーカは当然阻止に動いた。鉱山に落盤を起こし、周囲を土砂で完全に埋めた。
おかげで鉱毒の流出も治まったのだが、汚染された水が溜まった沼や、染まり切った河川まで元に戻すことはできない。
自身の浄化能力でせっせと土壌や河川を改善していたものの、とうとう許容できる分を超えてしまったという。
≪具合ガ悪クナリ、土ノナカニ潜ッテイラレナクナッタ。地表ニ顔ヲ出シタ途端……体内ニ溜メ込ンダ毒素ヲ全テ吐キ出シテシマッタ≫
「そんなに、酷かったのか」
≪我らが気付いていたなら、共に浄化に励んだというのに。任せきりですまぬことをした≫
≪イヤ、謝ルノハコチラノ方ダ≫
「ん?」
マニーカはヴィセの膝の上でしょんぼりとし、ボソリと呟く。
≪……吐キ出シタ毒素ハ、町ノ真ン中ヲ濁流トナッテ襲ッテシマッタ。黒ク染マッタ大地ハ腐リ、コチラモ瀕死トナッタ。ソレラヲ浄化スルタメ、一帯ノ浄化石ヲ オオヨソ使イ切ッテシマッタンダ≫
「町を、濁流が……おい、ラヴァニの仲間が黒く巨大な濁流を見たって言ったよな」
≪ああ、言っておった。そうか、我の仲間はその様子を見ておったのか≫
≪……スマヌ、コチラガ無理ヲセズ ユックリト浄化スレバ≫
マニーカはこの一帯にあった浮遊鉱石を、おおよそ使い切ってしまったと告げる。モニカの地下にある鉱脈は、元に戻った時のマニーカの体ほどしかない。
それだけの量を使ったとしても、周辺の霧が一時的に薄くなる程度だろう。
「マニーカは悪くないよ。浮遊鉱石で土を綺麗にしたんだよね、俺達がやりたいことと一緒だよ。浮遊鉱石を使わなかったら、マニーカも死んじゃったかもしれない」
≪……君ハ、優シイノダネ≫
マニーカはバロンの膝に這い寄り、感謝の印として頭を擦り付ける。そう言えばまだ防護服のままだったと苦笑いし、ヴィセとバロンは首から下げたガスマスクを外し、防護服を脱ぐ。
「さて、モニカの謎は解けた。そして……いよいよ浮遊鉱石のあてがなくなった。モニカの皆の生活を考えると、水に含まれる浮遊鉱石の成分は必須だ。僅かしかないなら採掘できない」
≪他所で僅かな量を集め回るという手段もあるだろう。我の仲間がドラゴニアが飛び立った地を懸命に探しておる≫
「と言っても、その場所以外にどこを探せって言うんだ」
ドラゴン博士のディットと共に導き出した答えは、大正解だったと言えよう。けれどヴィセ達の旅の目的としては不正解に近い。浮遊鉱石が見つかったとしても、ドラゴニアのため、世界の霧のために使えなければ意味がない。
「あ、ヴィセ、雪!」
「……本当だ。ラヴァニ……はだめだ、消し炭になる。バロン、紙くずを燃やして木を燃やせ。焚火にするんだ」
「うん!」
≪駄目とは何だ≫
雪がチラつきはじめ、話し合いは中断となった。ヴィセは付近の家々の焼け跡を回り、焦げていてもまだ使えそうな柱や板をかき集める。
「ヴィセ、何してるの?」
「簡単でも、雪や風を防げる場所が必要だ。ジェニスさん達が到着しても、野ざらしでは冬を越せない」
「俺も手伝う!」
バロンがラヴァニとマニーカを焚火の傍に置き、ヴィセの手伝いを申し出る。そんな2人をマニーカは不思議そうに見つめていた。
≪ラヴァニ、君達モシカシテ……知ラナイノカイ?≫
≪何のことだ≫
≪確カニ、コノ付近ニハ浄化石ハ残ッテイナイ。デモ君達ノ話ガ本当ナラ、マダ浄化石ハ沢山アルッテコトジャナイカ≫
≪……何だと?≫
ラヴァニが思わずマニーカに詰め寄る。マニーカはそんなラヴァニに対し、呑気に笑って見せた。






