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【Lost Dragonia】ドラゴンと生き残りの少年達は、前人未到の浮遊大地を目指す  作者: 桜良 壽ノ丞
16・【Awake】世界の再始動

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Awake-01



【Awake】失われた過去を求めて



 濃い霧の中に、ヴィセ達だけが佇んでいる。視界は悪く、物音1つない。静寂の中、淀んだ空気だけが流れていく。


 ヴィセが握った封印はすでに稼働を停止している。スイッチを切られてから数秒、数十秒経っても周囲に変化はない。


「どりゅーは? 起きた?」


「うーん……何か変化があったようには思えないんだけど」


 ≪我が封印から目覚めた時は、突然戻った意識に戸惑っておった。倒木で祠が崩れ、そのおかげで封印が解かれたのだと理解するまで時間を要した≫


「そういえば、ラヴァニは封印を切ったからじゃなく、俺が祠を壊したから復活したんだよな」


「じゃあ、もう1個封印切る?」


 バロンが嬉しそうに巾着の口を開け、ヴィセが制止する隙もないままスイッチを切った。


「おい! ラヴァニが目覚めるまで時間が掛かるかもって」


 ≪どうすれば目覚めるのか、今となっては知る者もおらぬのだろう? 仕方がない≫


「小さくて見つけられないのかもしれないよ!」


「うーん……じゃあ、もう少し様子を見てみるか」


 ヴィセも村の大人から封印の事を聞いていない。ドラゴンは信仰の対象に過ぎず、おとぎ話のような存在だった。ラヴァニ村は小さな村で、全員がドラゴン信仰をしていた。そんな村で生まれ育ったヴィセですら知らないのだから、封印から目覚めさせる方法など誰が知っているだろうか。


「ジェニスさんだったら知らないかな……いや、村で封印のキューブを探した時は何も知らなかったよな」


「ヴィセ、今あっちで石が落ちた」


「えっ?」


「音がした、何か来る? 化け物?」


 バロンがゆっくり後ずさりし、ヴィセの防護服にしがみ付く。ラヴァニが近くにいるというのに現れるような化け物はそういない。


 バロンの耳は何かの音を拾っている。だがヴィセの耳には何も入って来ない。ガスマスクをしているせいで、いつもより音を拾うことが出来ない。


 ≪耳をすませばよいのか? 何も聞こえぬが≫


「まさか、音の正体は土竜か? 霧の毒にやられて死んでないよな」


「ちゃんと音したんだよ? 本当に!」


「ああ、疑ってはいないよ。もしかして……体が小さ過ぎて、封印から這い出て来れないとか」


「落とした石に入ってたとか!」


 ≪むっ……割ってしまったのだが≫


 光は霧に遮られ、周囲は黒緑の粒子が漂っているだけだ。ヴィセ達の足音や衣服が擦れる音しかなく、バロンが聞いた落石もどこで発生したのかは分からなかった。


 風が強くなり、防護服が北から南へと煽られる。念のために割れた石も確認したが、不審な点は何もない。封印が置かれていた周囲を中心に30分程探索し、ヴィセは台座の跡に腰を下ろした。


「あー、肝心の土竜の痕跡がない! ここじゃない所に封印したのか?」


 ≪我も仲間の気配であれば感じ取ることが出来るのだが≫


「呼びかけてみるか……バロン、何してるんだ?」


 バロンが鼻歌まじりに鞄を漁りだす。こんな霧の中で食べ物を取り出すはずはない。


「……おい」


 バロンが手にしているのは、まだスイッチを切っていない封印4つだった。バロンは何も躊躇わずにスイッチを切っていく。


「おい! 全部切ったらあんなデカいのが目覚めて……」


「大き過ぎたらちょっと小さくすればいいんだよ!」


「えっ、あー……まあそれもそうか」


 能天気なバロンは、難しい事を考えずにあっけらかんと答えて見せた。慎重に行動しようとするあまり、ヴィセは最小限の動きしかしない癖がついていたようだ。


 ラヴァニがうっかり岩を壊したことで、封印入りの巾着も見つかった。全員が軽はずみな行動を取るのもまずいが、時には思いきった行動も必要だ。ヴィセはまあいいかと呟き、結末を見守る。


 程なくして地面が揺れ始めた。揺れは次第に座っている事すら困難なほど激しくなる。岩場は軋み、ヘドロとなった草木が滑り落ちていく。


「なんか揺れてる!」


「地震だ、危ないぞ!」


 広範囲に渡って揺れている訳ではないにしろ、離れた場所に位置するモニカも、若干は揺れているかもしれない。そう思える激しさだ。


「お、おい……揺れ過ぎじゃないか?」


 ≪我の背に乗れ、足場が崩落しそうだ≫


「バロン、ラヴァニの背に乗るぞ!」


 2人は慌ててラヴァニの背に乗り、ラヴァニが数十メルテ程飛び上がった。程なくして周囲は土煙に包まれてしまう。何かが蠢いている影はあるものの、ハッキリとは見えない。


「バロン! 全体が見えたら封印を2、3個発動させてくれ! 多分大きすぎる!」


「何も見えなーい!」


 ≪この間に土に潜られたなら大変だ。この霧に覆われた世界を是とせぬなら、所かまわず暴れ回るぞ≫


「それはまずい!」


 今更ながら慌てだし、ヴィセはなんとか土竜を目視しようと試みる。封印に入ったのなら人と簡単な意思疎通は図れたということ。土竜の視界に入ることが出来たなら、何らかの反応は得られるはずだ。


 しかし影は大き過ぎて、顔がどこにあるのか分からない。


「とにかく話しかけてみよう! 俺は大声を出す、ラヴァニは念じて呼びかけてくれ!」


 ヴィセが叫び、ラヴァニは心の中で呼びかける。土竜が暴れ回っても被害がないよう、バロンは封印を2つ発動させた。


 ≪この様子であれば、土に潜られたとしても必ず痕跡が残る。封印の発動は賢明だ≫


 地響きはやや小さくなった。霧毒を含む土埃は少しだけ収まり、しばらくすれば地響きは完全に止んだ。


「土の中に潜っちゃったか? どのみち舞い上がったものが収まるまで下りれないぞ」


「どりゅー! いるー!」


 バロンが大声で叫ぶ。ガスマスク越しでは響かない。全員で心に呼びかけ、土竜との意思疎通を図る。ドラゴンと同程度の能力があれば、数キルテ離れていても問題ないはずだ。あとは通用するかどうかに懸かっている。


 ≪土埃が収まりそうだ≫


 視界は霧のせいで相変わらず悪いものの、土竜らしきものが立てた土埃や霧の攪乱は落ち着いた。ラヴァニが用心深く地上に降り立ち、再度心での会話を試みる。


「……どうだ?」


 ≪呼びかけておる、しばし待て≫


「ヴィセ、何かいるよ」


「えっ?」


 バロンが霧の奥を指差す。姿は見えないものの、バロンの耳は何かが這い寄る音を拾っていた。


 ≪コレ、ハ、オドロイタ! 空ノ民カ!≫


 ≪……そなた、土竜か≫


 ≪ヒトハ、ソウ呼ブ。言葉 ヲ カワセルトハ。知ラナカッタ!≫


「わ、言葉が分かる!」


 声がヴィセ達の頭の中に響いている。人の声であれば腹の底に響きそうなくらい低いものの、声の調子は軽い。土竜は自ら土竜である事を認め、ヴィセ達を視認できる所まで近づく。


 ≪ヘエ、コレモマタ オドロイタ! ヒトト一緒トハネ! コチラモ 言葉ガ分カル!≫


「俺達の言葉が分かるのか!」


 ≪アア、理解デキル≫


「良かった……俺達はこの周囲に立ち込める霧を消すため、旅をしている者です!」


 土竜には攻撃の意思がないと分かり、ヴィセが土竜の前に歩み寄った。封印を3段階施されていても、その姿はラヴァニより大きい。


 ≪キリ……霧トハ? 目覚メタと思ッタラ、視界ハ悪イ、空気ハキタナイ、大地ハクサッテイル……≫


 土竜の全身は黒く、岩のような鱗で覆われている。赤い目が光り、短くも太い手足にはドラゴンのような鋭く長い爪が見えている。見た目は大蛇と呼ぶよりもトカゲに近かった。


「全てお伝えします。どこか落ち着いて話せる場所に来ていただけませんか≫


 ≪アア、イイトモ。封印カラ目覚メタ後、キュウニ元ノ姿ニ戻レタト 思ッタラ、再ビ小サクナッタ。ヒトガソバニイルノダト ソレデ気付イタ。コチラモ 状況ヲ 知リタイ≫


 土竜はヴィセの提案に承諾した。バロンがヴィセに代わって封印の話をし、一番小さなサイズになってもらえないかと告げる。ラヴァニに霧の上まで運んでもらった方が楽だ。


「じゃあラヴァニ、頼んだ。でも……万が一の事があるからな、別の場所がいい」


 ≪それならば、うってつけの場所があるだろう≫

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