Quest-11
石切り場には、ヴィセの背丈ほどの石碑が建てられていた。表面は黒く変色していたが、彫られている字は読み取ることが出来る。封印とはいったい何のことか分からず、ヴィセは他に手がかりがないかを探し始めた。
≪墓ということか≫
「いや、石碑は墓そのものとは違うんだ。事件や誰かを忘れないように、その現場に建てられる事が多い」
≪では、ここで何かがあったということだな≫
「ねえヴィセ、封印ってことは、ラヴァニの封印と一緒?」
「えっ?」
バロンが懐中電灯で周囲を照らし、地面の上に痕跡がないかを確認している。ラヴァニの封印と一緒かと聞かれ、ヴィセはハッとした。ラヴァニは村で封印されており、祠に封印のキューブが隠されていた。
もしもそれと同じなら、この場所にもキューブがあり、土竜が封印されている可能性がある。
石碑は広大な石切り場の中央に建てられている。もしもただ何かを記念するだけなら、こんなど真ん中に建てる事はないだろう。邪魔になるため、石切り場を稼働させている間に建てられたとも考えづらい。
「石碑の周囲に祠がないか? もしかしたら土竜は本当にいるのかもしれない。封印のキューブはラヴァニ村が開発できるものじゃない。きっと、色んな町や村に広まっているんだ」
≪そのようなものは見当たらぬが。鉱毒があるようにも思えぬ≫
「まあ、石を掘ってるだけだからな。霧の下にこんな場所があるとは知らなかったけど」
ヴィセは石碑の裏に回り、ラヴァニは2人を守るように頭を高く上げて周囲を警戒する。懐中電灯で照らしながら、先に何かに気付いたのはバロンだった。
「ヴィセ、ここ何か彫ってあるよ」
「え? 建てられた日付? ……今は歴後2901年だから……202年前だ」
≪我が封印に入っている間に建てられたということだな≫
石碑が建てられたのは200年も前だった。その頃からこの石切り場は放棄されていたのだろう。
「鎮魂という事は、誰かが亡くなったという事になる。岩場が崩れて下敷きになったとか。でも封印という言葉は使わない。こんな広大な土地を封印?」
≪ヴィセ、書いてある文字を全て読んでくれぬか≫
「ああ。鎮魂、この地に封印されしもの、安らかに」
「誰か死んだのかな。封印されたのって、なに?」
「亡くなった人を封印するとは言わないよな。ということは」
≪我と、同じか≫
「そういう事になるよな」
「どりゅー? どりゅーが封印されてるのかな!」
土竜の伝承、石碑に封印刻まれた封印の文字。石切り場にまつわる古代の記述を裏付けるかのようだ。だが、こんな目立つ場所の出来事が風化して忘れ去られるだろうか。
≪あの男が見つけたのは、2000年以上前の記述ではなかったか≫
「まあ、その後も何度か現れているらしいから、石碑が何百年か前のものでも不思議はないんだけど」
200年前の機械駆動車などがまだ残っている事から、この場所が記憶から完全に忘れ去られたとは思えない。広い石切り場を見て回りながら、ヴィセ達は封印とは何かを捜し歩く。
暗い視界、霧が堆積した地面、探し物には最悪な状況でも、久しぶりの探索にどこか楽しそうでもあった。
「なんか、この辺りは古そうだな……石を採りつくしたのか」
「石碑があるところが新しいところってこと?」
「そんな気がする。全部枯れてるけど、採掘跡に木や草が生い茂ってたみたいだな」
地面は次第に石ではなく腐った木や草に覆われ、周囲の様子も変わってきた。石切り場に見られる垂直の壁や真四角の段差などが崩れ、枯れた木々が腐って堆積している。
≪見ろ、大きな穴が空いている≫
「本当だ。これ……何だ?」
ラヴァニが斜面に大穴を見つけ、中を覗き込む。大した奥行きはなく、崩落で埋まったようだ。
「もし土竜がいるなら、これくらいの穴になる、か」
「え、いるのかな?」
ヴィセ達は大穴の付近の斜面をよじ登ったり、ラヴァニが少し地面を掘ったりと、不自然な状況を調査し始める。ほどなくして、ヴィセが高台で整列する球状の石を発見した。大きさはバロンがしゃがんだくらいで、簡単に持ち運べそうにない。
整地された平らな石の台座に置かれ、周囲も拓けている。僅かな窪みが設けられ、丸い石が転がらないように乗せられた様子は、まるで墓だ。
「これ、目的もなく綺麗に並べたと思うか?」
「わかんない、これもせきひ?」
石は表面が毒で黒く変色しているが、球体で偶然出来たとは思えない形をしている。それが6つも並んでいればさすがに怪しい。
「あ、裏に何か彫られてるぞ。やっぱり理由があって並べたんだ。2699年4月……あれ? あの石碑と同じ日付が彫られてる」
「202年前ってこと?」
「ああ、そういう事になるな」
≪それにしては、あちらとこちらでは荒廃の度合いが違い過ぎる≫
「わざわざこっちに置いた、ってことだろうな。霧が発生して全て覆われるとは考えてなかっただろうし、周囲に何もないから、それなりに整備もされていたようだ」
6つの石に何の意味があるのかを探るため、ヴィセ達は台座や石の表面を慎重に見ていく。その時、1つの石が唐突に転がり落ちてしまった。
「うわっ!?」
「動いた! 怖い!」
ヴィセもバロンも驚きのあまり、防護服が破れそうな程大きく跳び上がる。
≪すまぬ、我が押してしまったのだ≫
「お、驚いた……勝手に動いたのかと思った」
「ねえ、並べてたのに動かして大丈夫?」
「大丈夫かどうか、知ってる人がいないからなんとも……」
人にとっては重過ぎる石も、ラヴァニには軽かったようだ。前足で押しただけで転がってしまい、落下した石は半分に割れてしまった。
「石の中に何か入って……るわけないか」
「ヴィセ! 石があったとこに何かあるよ!」
「え?」
石が固定されていた窪みの中から、バロンが小さな巾着を取り出した。中を覗き込めば、そこにあるものには見覚えがあった。
「……封印」
「ラヴァニの封印と一緒だ! ぶーんって音がする、まだ使えるやつだ」
≪まさか、我のように封印されしものが≫
「土竜の伝承、石碑、封印……これ、もしかすると。ラヴァニ、全部石を外してくれないか」
≪承知した≫
ラヴァニが6つを順番に転がし、石は次々に落ちて割れていく。窪みの中にはやはりどれも巾着に入った封印があった。
「これ、解除……してみるか?」
「どりゅーが起きる?」
「もし封印されているのが土竜ならね」
「俺見たい!」
「見たいって、もし狂暴で俺達を襲うような奴だったらどうすんだよ」
土竜が写真で見たような巨大生物であれば、ヴィセ達はおろかラヴァニでさえも勝ち目がない。
「念のためにさ、ラヴァニの背に乗っててさ、すぐにでも逃げ出せるようにしておくのは?」
「そうだな、そうするか」
ヴィセとバロンがラヴァニの背によじ登ろうとする。ラヴァニはそんな2人を止め、地面に座り直す。
≪その必要はない。我が封印を施されたのは、我が了承したからだ。封印が我以外に効かぬのはそういう事≫
「勝手に無理矢理封印に入らせることは出来ない、って事か」
≪我より大きな存在を、無理矢理閉じ込められるとは思わぬ。土竜が封印を受け入れたという事になる≫
「ある程度、人の行動を理解できる……仲良くするつもりがある、という事になるな」
≪我は人々の言葉が理解できなかった。しかし、我は人の身振り手振りで彼らの願いを聞き取った。土竜もその程度の知恵はあるはずだ≫
封印を段階的に解くのであれば、突如大きな土竜が現れるような事にはならない。ヴィセはバロンとラヴァニに頷き、封印のスイッチを1つ切った。






