Levitation Stone 11
フューゼンがヴィセにコートを返し、ドラゴンの姿に戻る。代わりにアマンの話が始まった。
浮遊鉱石について色々話を聞く中で、時折アマンの苦労話なども語られていく。ヴィセとバロンにとって良い話もあれば、悪い話もある。2人は希望と絶望を同時に感じていた。
「浮遊鉱石は霧に反応して、一定の霧を中和してくれる……でも、中和に使った浮遊鉱石は、浮力を失ってしまう」
「ドラゴン化は治らないけど、人の姿になることは出来る……だったよね」
≪しかし、他人に血液や唾液などを極力触れさせぬように、か≫
「治らないのやだな……」
ドラゴニアの浮遊鉱石を全て使えば、大陸2つ分ほどの霧を浄化できる。しかし、ドラゴニアは地に落ちる事となり、ドラゴニアで生きる動植物も死ぬことになる。
しかも、それで全てが消える訳ではない。腐った水源や大地を蘇らせるにはあまりにも鉱石が少なすぎる。おまけにヴィセやバロンは、霧が全て晴れたとしても人には戻れない。
ドラゴン化により鈍化しているとはいえ、ヴィセとバロンの成長もいつかは終わる。そうなれば体は少しずつドラゴンの鱗で覆われ始める。
人の姿に変身出来る「人ならざる者」として生きていかなければならない。
「そうだね、君達はぼくのように覚悟してドラゴンの血を受け入れた訳じゃないんだったね。だけど、治す方法は分からないんだ」
≪エゴールはきっと、良かれと思ったんだ。すまなかったね≫
「いえ、エゴールさんに助けて頂いた事は感謝しています。バロンもそのお陰でお姉さんや伯父さんと再会出来ましたから」
ドラゴン化を治す方法は、生きている間ずっと探し続けてもいい。エゴールが試していない方法もあるだろう。それよりも今やるべき事は、浮遊石を使って霧を浄化する事だ。
「それで、かつてドラゴニアが浮上したっていう山は? もう浮遊鉱石はないんですか」
「人が掘り尽くしたからね、その山にはない、確認済みだ。ドラゴニアも霧の上を飛び続けたせいで、地表に近い部分はただの石になってしまった」
≪そのせいでドラゴニアの動きが悪くなったようだよ。この場所から動かないのはそういう事だ。当時一番霧が濃かったこの辺りに、浮遊鉱石が吸い寄せられてしまったんだと思う」
「それで、この大陸の霧が少し薄いんですね」
≪アマンの調べでは、だけどね≫
ドラゴニアの浮遊鉱石が有効だとして、ドラゴニアを捨てるのか。更にはこの大陸以外を救うとなった時、どうやって石を運ぶのか。問題は山積みだ。ヴィセは腕組みをしたまま、答えを出せずにいた。
≪我が同胞も、浮遊鉱石が何らかの力を持っていると知っていた。世界のどこかに浮遊鉱石が眠っていないかと探し回っている≫
≪ああ、オレが教えたからね。心配ない、オレが人だった事は明かしていないし、別の大陸に棲みついていると伝えた≫
≪なんと、我が同胞にも会った事があるのか! そなた、隠し事が多くはないか≫
ラヴァニがフューゼンをジロリと睨む。フューゼンは空を見上げ、聞いていないふりをした。脳内に直接響くのだから無意味なのだが、その行動はなんとも「元人族」らしい。
「ねえねえ、海は? ドラゴニアが海の上を飛んで、それで霧を浄化したんじゃないの?」
「違うよ、ドラゴニアはずっとこの場所にあった。それはフューゼンさんが確認済み」
「じゃあ何で海の霧は晴れたの?」
「海に溶け込んだようだね。海水の量はとても多いから、霧が溶け込んでも影響がなかったって言われてる」
では陸地に海水を撒けば解決するのかと言われると、そうとも言えない。塩害が発生するだけでなく、撒いた海水は結局霧と反応してその場に残ってしまう。仮にそれらをどこかに捨てて綺麗な土地を確保するとして、何十年掛かるか分からない。
ただ、その手間を覚悟してでも、大気の汚染度を下げる意味は大いにある。実際、海に面した地域では高潮や津波の後で浄化が進み、人が住めるほどに回復した。
潮風に長年晒された土地も、おおよそ浄化が終わっている。
問題は、大陸内に霧が残っている限り、内陸の一部地域で試しても意味がないという事だ。
「……海沿いの土地が汚染されていない理由は分かった。海上の霧が晴れたというのも説明はつく。でも、海の成分から霧が検出されているんですか? だとしたら海の魚を食べるのは……」
「え、俺……魚食べちゃったよ? 海沿いに住んでる人、みんないっぱい食べちゃってる」
今は大丈夫だとしても、一時期の海上が非常に危険な状態にあったのは間違いない。にもかかわらず浅瀬を泳ぐ魚は絶滅を免れ、大きなクジラなどの生物は体に霧を溜め込んでいない。
「霧が出た時だけ、一時的に深く潜った……?」
≪魚に異常がないかくらい調べているのではないか≫
「ああ、調べているはず。……いや、ヴィセくん、バロンくん。いい所に気が付いた」
アマンは鞄の中から1枚の紙を取り出し、陸地と海の図を描いていく。
「いいかい、魚でも深く潜れない種はいる。それはこの際置いておくとして、クジラやカメなんかは必ず空気で呼吸をしないといけない」
「でも、海から顔を出したら霧を吸い込んでしまいますよね」
「ああ、だから海に生きる動物や虫たちは絶滅していないとおかしいんだ」
「カメ泳いでたよ? ラヴァニの背中からいるか? いるかだっけ」
「イルカで合ってる」
「イルカも見た! あのね、灰色でね、つるつるしてた!」
「え、触ったのかい?」
「ううん、見ただけ! 可愛かったよ」
「あっ……そ、そう。何だか君と話していると話がまったりしちゃうね」
哺乳類が生きているのなら、海から顔を出せたという事だ。だがイルカがドラゴンのように霧に強いという話は聞いた事がない。
「哺乳類が生き残っている事は周知の事実。イルカやクジラの調査も行われたが、他の動物と一緒だった。今の世の中じゃ、海そのものの研究まで手を出す余裕がない」
「霧が海に溶けたって説で片付いちゃった訳か」
ドラゴニアを存続させられるのであれば、海を調べたいところだ。ただ海に何か秘密があるとしても、ヴィセ達に研究のノウハウがある訳ではない。
「でも、どうやって調べるの?」
「生憎、ぼくも結果でしか語れない。仕組みを理解している訳ではないんだ」
「……ドラゴン博士に聞いてみるか。彼女なら霧の研究をしているから、何か知っているかも」
「ドラゴン博士? ああ、旅の途中で会ったという女性か」
「はい、オムスカの町で霧やドラゴンの研究をしている女性です。ラヴァニと一緒に霧毒症の患者を治した町です」
「色々詳しいようだし、もしかしたら研究の過程で何かを見つけているかもしれないね」
これからやるべき事は2つ。1つは浮遊鉱石が何処かに残っていないか探す事。2つ目は海上だけ霧が晴れた原因を探す事。
「俺達、一度ディットさんの所に相談しに行きます。ラヴァニ、頼めるか」
≪我が同胞との再会、そしてドラゴニアへの帰還。その2つを叶えてくれたというのに、我が何を拒もうか≫
「ねえ、エゴールさんにお父さん生きてるよって教えてあげないと」
≪それはオレの役目だ。今までオレは人である事を捨て、息子からも父親と呼ばれる資格がないと思っていた。だが、あいつが悩んでいるのはオレのせい。オレが話そう≫
「分かった。じゃあ……少し遠回りになるけど、オレはフューゼンさんとナンイエートの町に。ヴィセ君達はオムスカに。そうだな、2か月後にジュミナス・ブロブニクに集合」
アマンの提案に対し、バロンが嬉しそうに頷く。
「俺ね、ミナばあちゃんの所のごはん大好き! 美味しいんだもん」
「ふっ、はははっ! いいね、なんだか良い意味で体の力が抜けるよ。君のそういうところ、どうか変わらないでいて欲しいな」






