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ラ・フォイ1

 ラ・フォイは、他の都市と比べるとほの暗い印象を与える。先ず、聳え立つ霊山ヴォルカ・ノアールを象った急こう配の火山の都市紋章が、都市のモニュメントの上で客人を出迎える。その真下で、は文字で都市法の変更点が刻まれた公示盤が幾つか建てられている。


「これ、この都市の何人が読めるんだ?」


「ざっと四分の一ってところだろう。逆に言えば、それだけ読めれば組合を通して自然と広まるだろうね」


「でも、公示人はいるのでしょう?」


「まぁ、いるだろうね。ただ、こうした広場よりは都市の細い小路なんかを巡っているだろう」


「貧民や中産階級が多い所で都市法改正の喧伝をする訳ですね」


「そういう事」


 都市は漆黒のモニュメントを中心として、黒ずんだ灰色の家々が軒を連ねる。木製の看板が僅かに明るい色彩を放ち、時折窓から顔を覗かせる植木鉢が、彼らの心を如何ほど安堵させただろうか。

 旅先としては少々暗い雰囲気を持つ街並みだが、人混みの活況はこれまでの都市に決して引けを取らない。旅団が歓声を上げるほどではないが、町の至る所、特に軒先で作業をする徒弟たちの掛け声はどの町よりも活気に満ちている。質実剛健な黒ずんだ建物の雰囲気も相まって、町全体に男らしい快活さが溢れている。市場へ向かう道はやや狭く、市場の中央に置かれた鐘楼も小規模なため、馬車に乗る学生達にはそれらを見つけるのは容易ではなかった。


 その一方で、バニラはどの都市でも崇拝される巨大な教会を目前に認めたときに、他の都市では感じられない独特の感動を覚えたのである。


「真っ黒な教会だ……」


 彼がとらえたのは、都市でもひときわ背の高い二つの尖塔であった。教会の尖塔よりも背の高い建造物を建造しないのは、カペル王国では広く普及した規則であるため、都市で最も背の高い塔を見つけた時、多くの人々がそれを教会と判断する。神の御座であるその塔が、部分的にほの暗い雰囲気があるという事は考えられるが、全体を通して漆黒の外装を纏った教会と言うのは珍しい。


「先ほどルクス先生が仰っていたラ・フォイ大聖堂だ。外は建材のお陰で暗いが、中は教会らしい壮大さがある」


「ヨシュアやカペラには、明るい建造物のイメージがあるので、その点も独特ですよね。火山の岩がこの都市にとって重要な意味を持っているんでしょうか」


 バニラは率直な感想を述べた。ルクスは帽子を脱ぎ、形を整えながら答える。


「玄武岩を使ったのは、異端との融和の意味もあったかもしれない」


「どうあっても、火山(ヴォルカ・ノアール)信仰なんて、異端も異端の自然信仰だからな」


「自然信仰……」


 ここで一度、我々の視点としての、自然信仰について捉えなおさねばならないだろう。彼らの世界にある信仰体系の基礎は、「自然信仰」にある。この価値観は、読者には捉え易い価値観である。何故なら、我々は今のところ、自然信仰を基礎にした信仰体系の中で生きてきたからである。このような価値観において、自然物を神的存在として礼拝・信仰することは、決して不自然なことではない。

 しかし、彼らの価値観においては、「被造物」たる自然を信仰の対象とする事は、うまく理解が出来ない。彼らが信仰するのは神自体であり、神の創造した「自然物」を信仰することは、まことに的外れに思われるのである。では、彼らにとって、自然物とは何であるか。一言で言うならば、これは神を示す「象徴」である。神の象徴である自然物を、神へと祈りを届ける触媒として、祈りを捧げる事はあれど、被造物そのものに対して、彼らの信仰は冷淡である。これは、彼らが際限なく被造物たる自然物を利用し、開拓してきた歴史にも通ずることであろう。

 そのため、クロ―ヴィスの言う火山信仰へ対する違和感は、火山そのものを神の如く崇拝する価値観へ対する違和感であると認識するのが、最も無難な理解であるといえよう。


 さて、彼らの世界、視点へと戻そう。ルクス、クロ―ヴィスを補足する為に、モーリスは続ける。


「土着の火山信仰が根強い中で、教会が『火山を内包して信仰する舞台』として、ラ・フォイ大聖堂を設けた、と言う事だね。興味深い見解だ」


 馬車はラ・フォイ大聖堂の前で停車する。御者台から一同に到着を知らせるために、御者が顔を覗かせた。


「着きましたよ」


「ありがとう。では、行こうか」


 モーリスは慎重に馬車から降りる。続けて学生一同も馬車を降りる。

 厳めしい黒の教会は、扉を全開し、次なる参拝者である彼らを、既に礼拝堂を占拠する参拝者と同じように、おおらかに招き入れた。

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