喰らい尽くす雷獣
はいどうもニノハジです〜
加速する戦い、楽しんでいただけてるでしょうか?
引き続き楽しんでもらえたら幸いです!
ではどうぞ!
巨大な水柱を立てて水面へ落ちるケートス。
それを眺め、次いで視線をレイに向けながらディードが愉快そうに言う。
「良いねぇ!やるじゃねぇか!まさか俺のあのスピードに付いてこれるたぁなぁ!?デケェ口叩くだけの事は有るってこった!」
「ちょっと!あまり近寄らないでくれる!?私の魔力がどんどん吸い取られていくのだけれど!?」
それに対してレイはディードを怒鳴りつける。
ただでさえ『雷装』で魔力を消費しているにも関わらず、少しでもディードに近寄れば魔力を吸い取られてしまうのだ。
いくら修行によって膨大な魔力を得たといっても限度は有る。
ただでさえ相手は『幻想神種』などと言う存在なのだ。
用心する事に越したことはない。
(でもやっぱり彼もバケモノだわ……まさか『制限解除』の動きに並ぶなんて。何より1番厄介なのは彼には上限が無い事。これ以上の動きをされたら私じゃ手に負えない。これが『柒翼』の実力という事ね)
かくいうレイも内心では驚愕と、畏敬の念を抱かざるを得なかった。
何せ自分の切り札の1つである『雷装』、その本気の速度に付いて来たのだ。
つまりその切り札が通用しないという事を示している。
吸収した魔力を消費するとはいえ、もし敵だったらと考えると寒気を覚えるレイ。
「別に少し位良いだろうが。いくら奴の身体がデカかろうと、それなりに良いのが入ったんだ。死んではねぇとしても今頃逃げ帰ってるかも……」
「それ位で引く相手なら苦労はしませんよ」
そんなレイを置いて呑気な事を言うディードに、ニイルが警告する。
先程の爆弾の雨を無傷で切り抜け2人の近くにやって来たニイルは、ディードに魔力を分け与えながら続けた。
「奴のタフさは、その巨体も相まって『幻想神種』の中でも随一。あの程度の傷では致命傷にはなり得ないでしょう」
海面を見続けたままそう語るニイルに、ディードも同調する。
「まぁ、あれ位で殺られるんなら拍子抜けも良いところだがな?寧ろもっと歯応えが無ぇとつまらねぇよ」
獰猛な笑みを湛えて言うディードに、ニイルが呆れながら告げる。
「アレを目の前にしてそう言えるのは貴方くらいですよ……私からしたらめんどくさい事この上ない存在です。何せ……」
【然り】
突然鳴り響いた声と共にケートスが浮上してくる。
その身体をよく見ると、先程負った傷がみるみるうちに修復されていく。
【我にあの程度の攻撃は効かん。それは貴様が良く知っているであろう?のう、バケモノよ】
「あの様に、無尽蔵の魔力で傷を回復させてしまうので厄介なんですよ。長期戦になればこちらが不利になるのは必定。故に狙うは高火力をぶつける短期決戦なのですが……」
忌々しげに吐き捨てるニイルにケートスが笑う。
【以前の戦の時同様、貴様には我を殺せるだけの火力を用意出来ぬものな?】
それに鼻で笑いながらニイルが答える。
「それは貴方なぞ眼中に無かったからです。私達の周りをウロチョロするだけで運良く生き延びただけの小物が、随分調子に乗るじゃありませんか」
相変わらずニイルにしては珍しい、敵意むき出しな態度に驚きつつ考察するレイ。
(ニイルはどんな相手、あのルエルにさえここまでの敵意を見せる事は無かった。それだけこのケートスが憎いという事?いえ、ケートスだけじゃなさそうだけれど)
先程のケートスの言葉を思い出す。
彼には仕える相手がいる様な発言をしていた。
もしかしたら、その相手が本当の憎むべき相手なのかもしれない。
そして、それはどうやらケートスも同じらしくニイルを嘲笑する。
【それは貴様とて同じであろう?これ程までに弱ってすら意地汚く生き長らえている貴様も、相当な小物ではあるまいか】
ここまで深い因縁を残した戦いとは、一体何なのだろうか。
そして1番の謎について考えるレイ。
(ニイルは一体、いつ戦ったの?)
少なくともここ数百年では無いとレイは考える。
それならば知っている者も居るだろうし、記録にも残っている筈だからだ。
しかしそれが一切残っていないが故に、謎は深まるばかり。
その事について、ニイルに追求したい気持ちに駆られるが、思考を中断せざるを得なくなる。
【以前ですら我を殺す事は叶わなかったのだ。いくら強がったところで、今の貴様に我を殺す事は不可能。諦めて大人しくその首を差し出すのだな】
何故ならケートスの周りの海水が、またしても変化し始めたから。
周囲の水が宙に浮き上がり、まるで防壁の様にケートスを覆う。
それだけでは無い。
今まで小さな水球のみだったのが、細い棒状や巨大な触手の様な物まで、様々な形に変化していく。
中には鳥の様な形や、鯨の様な形の大きな物まで存在した。
「ハッ!『幻想種』と違って、テメェで生命すら作れるって言いたげだな?」
【然り。『幻想種』の劣種とは違い、『幻想神種』は生命を創り出し使役する。これが神に選ばれし、我らの御業である】
ディードの挑発にも、毅然とした態度で返すケートス。
その間にも魔法は増え、気付けば先程の攻撃よりも遥かに多い数の魔法が3人を取り囲んでいた。
「見渡す限り、ね……流石にこの数は見た事無いわ」
「ビビってんのか?いくら数が多かろうがただの水だろうが。さっきと同様、一気に駆け抜けちまえば問題無ぇ」
冷や汗を流すレイに、ディードが不敵に笑う。
ニイルから分け与えられた魔力を全身に漲らせ、先程と同じく力を込める。
「ちょっ……!」
「ッラァ!」
レイの制止の声も聞かず一筋の閃光となって突き進むディードだったが……
【甘い】
その行く手を阻む様に水の壁が出現、更にそれが一瞬にして凍りつき分厚い壁となる。
「あめぇのは、どっちだぁ!」
しかし、今のディードにはその程度の障壁は紙切れの如く。
一撃で氷を砕き、ケートスへの道を作り出してしまう。
だが、足止めに費やしたその刹那の時間を作り出すのが目的だったのだろう。
ディードの周囲に散った氷の破片が次々に炸裂、瞬時に肥大しディードを氷の中に閉じ込めた。
「あれは『追想剣』の……!」
レイの脳裏に蘇るのは序列大会での記憶。
スノウことルヴィーネが所持していた『追想剣』も似た様な技を使う事が出来、レイも大変苦しめられた。
あの時は自分諸共、雷で周囲の氷を吹き飛ばす事で逃れる事が出来た。
そして今回のディードは力ずくで氷を内側から破壊、脱出に成功する。
「ウザってぇなぁ!」
【だから甘いと言っている】
しかし、その瞬間には間近に迫っていた水の触手がディードを襲う。
更に当たる瞬間に水が凍結、氷の柱となって叩きつけられた。
「クソっ!」
ギリギリで防御に成功するがその威力は凄まじく、派手に吹き飛ばされるディード。
防いだ両腕は折られ、そのまま海面へと落とされる……
【まだだ】
寸前、落下地点の海水が発光。
それはまるで先程爆発した水球の様で。
「ヤベェ!」
「マズイ!」
ディードとニイルの叫びが重なり、レイを連れて退避するニイル。
ディードはそのまま為す術無く海面に落下し……
今まで以上の爆発に飲み込まれた。
「クソ!」
「レイ!待ちなさい!」
避難した先でそれを目の当たりにしたレイが、ニイルの言葉を無視し飛び出す。
巻き上げられた海水が雨の様に降りしきる中、雷速で『空底』を用い、ケートスの魔法を避ける。
全ての魔法を回避して間近へと迫るレイだったが、何故か全身が凍りつき動けなくなってしまう。
「なんで!?」
【いくら疾かろうが、この雨は避けきれまい】
ケートスの言葉で、全身を濡らす雨が原因と気付いた時には一足遅く。
次の瞬間には周囲の雨の温度が上昇。
高温の雨がレイへと降りしきる。
「ああああああ!」
たった一滴でも火傷を負う水を、大量に浴びているのだ。
全身を襲う激しい痛みに、思わず叫んでしまうレイ。
しかしこれ程の高温に晒されているにも関わらず、レイの周囲の氷は全く溶ける様子が無い。
痛みも相まって上手く脱出出来ないでいるレイを救ったのは、爆発の中から飛び出してきた物体だった。
「ったく!世話の焼ける!」
「ディード!」
瞬時にレイの氷を砕き、抱きかかえたディードはその場を離脱。
レイの魔力を吸収しながら高速で駆け抜け、雨が降る地帯を抜ける。
「ほらよ。離れてやるから後はテメェで何とかしやがれ」
「ハア……ハア……ありがとう」
痛みと魔力を吸われた事による疲労感で、息も絶え絶えなレイ。
しかし自身に治癒魔法を施しつつ礼を述べる。
そんな2人の元にニイルが転移して来るが、その顔には呆れが浮かんでいた。
「これで分かりましたか?奴は生半可な戦い方では倒す事など不可能ですよ?」
その物言いが癪に触ったのか、ニイルに対しディードが吠える。
「うっせぇな!余裕ぶっこいてる暇があるなら手伝いやがれ!そもそもテメェが原因でこうなってんだろうが!」
「それを言われると申し訳ないですが、貴方がやけに楽観視しているようなのでね。現実を教えてあげたのですよ」
「余計なお世話だ!何も出来ねぇのならさっさと消えろ!」
尚も溜飲が下がらない様子のディードに、ため息を吐くニイル。
そして1歩前へ進み出て告げた。
「現状は理解した様ですし、私も本気でやりますよ。何せ……」
そこで言葉を区切り、漆黒に輝く眼でケートスを見据えながら。
「俺もアイツは、嫌いだからな」
本来の口調に戻って、そう宣言するのだった。
如何でしたでしょうか?
なんと遂に次回!
ニイルの隠された実力が明らかに!?
そんな回になると思いますのでお楽しみに!




