忍び寄る不安
はいどうもニノハジです〜
第4章が本格的に始まりました!
新たな冒険の予感です!
少しでもそれを感じて貰えたら嬉しいです!
ではどうぞ!
聖暦1594年
レイ達一行がフィミニアを旅立ち、1年以上が過ぎた。
道中、『柒翼』の情報収集を行いながら鍛錬を絶やさなかったレイ。
残念ながら新たな情報を得る事は出来なかったが、修行と更に1年以上という年月がレイを心身共に成長させていた。
急ぐ旅でありながらこれだけの日数が掛かっているにも関わらず、レイが余裕を持って行動出来ているのもその成長の現れだろう。
見た目も大分大人びた雰囲気を醸し出すようになり、間もなく20歳を迎えようとしている事も相まって、今では絶世の美女として成長していた。
「見えましたね」
そしてそれとは対照的に、見た目の変化が全く無いランシュとフィオ、そしてニイルが目の前を指さしてそう言う。
「あれが……」
整備されていると言ってもここ数日はひたすら街道を歩き続けただけに、感慨深そうに呟くレイ。
その視線の先、そこには鮮やかな海と多数の船、そして人々の営みが垣間見える港町が映し出されていた。
「それなら明日、久しぶりに船を出すからそれに乗ると良い。これを逃すと次は何時になるか分からんから、お前らは運が良いな!」
受付の男はそう語る。
ここは港町の船着場。
船に乗る為受付へと向かったレイ達一行を待ち受けていたのは、受付の男性からのそんな言葉だった。
「失礼。久しぶり、と言うのは?」
それに代表してニイルが口を開く。
その問いに顔を顰めながら男は答えた。
「丁度1週間位前だったか?オスウェルド大陸の近海にバケモノが出たって話でな?あそこに向かう商船や漁船が襲われて帰って来ないってんで、ここ数日は船の往来を禁止してたのさ。そんで亜人の海上警備隊が護衛をしつつ調査するってんで、明日各地の港から船を一気に出すって訳よ」
ようやく積荷を捌けるぜ、と辟易しながら男は言う。
オスウェルド大陸とは、これからレイ達が向かう目的地の事である。
そこに亜人達の国が有るのだが、そこへは船でしか辿り着く事は出来ない。
ただ現在、他の港町も含めオスウェルド大陸行きの船は全て往来を停止しているそうだ。
そして明日の便以降、いつ復旧するか分からない、というのが現在の状況らしい。
男の言う通り、丁度良いタイミングと言えた。
「何故バケモノだと分かったの?」
今度はレイが口を開く。
帰って来ないという事であれば目撃者も居ないのでは?
という疑問から出た問いだったのだが、それに対しても男は返答を用意していた。
「たまたま襲われなかった奴らが、水中に大きな影を見たってんだよ。だが翌日、その近辺を調査しても何も無かったらしい。それでこの数日、更に調査をしたらどうやら生息地を絞り込めた様でな?ようやく明日そこに向かうらしいぜ」
男の口ぶりから、どうやら人間側での調査はほとんど行われていない様だった。
確かに海上、ましてや水中では特に人間は行動を制限される。
対して亜人達は水中で暮らしている魚人族や飛行能力を持つ鳥人族など、環境の変化による制限が少ない種族が多数存在する。
足でまといとなる人間よりも彼らを起用するのが、この近辺での通例らしい。
「それに、この辺りでは有名な話だぜ?」
そんな事を考えていたレイ達に、男は更に言う。
「御伽噺のバケモノが、ここら辺には住んでいるってな」
一通り情報収集を終え、日が沈む前に見付けた宿屋で一泊する事を決めたレイ達。
現在は例の如くニイルの部屋に集まり、明日からの事に対しての作戦会議を行っていた。
「他の場所への船は通常通りらしいけれど、たった一つの国へ行けないだけで結構な影響が出ているみたいね」
情報を整理したレイがそんな感想を述べる。
それにニイルが頷き口を開いた。
「やはり世界的にも有名な貿易の国ですからね。あそこを行き来する人も物も金すらも、世界屈指と言わざるを得ない。そんな場所へ1週間、今後は下手をすればそれ以上に行けなくなるとなれば、経済的な損失は計り知れないものとなるでしょう」
レイの脳裏に浮かぶのは日中の光景。
誰も彼もが不安を口にし、そして明日の船に一縷の希望を託していた。
物流の滞りは金銭の滞りとイコールである。
金の巡りが悪化すれば必然、それはこの街、ひいてはこの国の衰退を意味する。
直前にセストリアという、進行形で衰退していった国を見たからこそ、余計に感傷的になるレイ。
「しかし今は亜人達が主導で動いている以上、私達が出来る事はありません。今は私達の目的の為、行動する他ないでしょう」
「それも、そうね……」
下手に出しゃばり亜人達との関係に傷を付ければ、国際問題に発展しかねない。
そうなればレイ達だけの問題では無くなり、世界的にも影響を及ぼす可能性も有る。
それ程までに人間と亜人の関係は重要で、かつ根深い闇を抱えた綱渡りの様な関係性なのだ。
それも考慮しての発言だったニイルに、レイも十分理解している。
しかし心情的にはどうしてもやるせない気持ちが湧いてくるのは仕方の無い事だろう。
身内に亜人族の姉達が居るのなら尚更である。
「ただ……」
だからこそレイの顔を見てニイルは口を開く。
「向こうに着いたなら亜人達と協力する事も可能でしょう。そうして事態解決に動けば、私達の目的達成に大きく貢献出来るかもしれませんね」
今回の目的は、今のところ戦う事では無い。
『暴食』の獣人、ディード・ホグウェルは標的では無いとレイが判断したからである。
当然、話の内容によっては戦闘となる可能性も有り得る。
しかし、今回は話し合いを主な目的として行動していた。
そしてこの騒動は、一国の存亡が掛かったものとなりつつある。
ディード・ホグウェルが亜人達のトップに君臨している以上、この騒動を解決すれば面会の機会を与えられるかもしれない。
それを踏まえての発言であった。
単純に、身内に甘いだけのフォローという意味合いが多分に含まれているのだが。
「ありがとう」
それを分かっているからこそ、レイも笑ってそう答える。
フィオも堪らず吹き出してしまった。
暫し2人が笑い合い、それをニイルが半眼で見つめるという和やかな雰囲気が流れる。
しかし表情を改めたニイルが口を開いた事により、その雰囲気は終わりを告げた。
「ですが今回、問題点が一つ有ります。これは私達の問題であり、それに貴女を巻き込んでしまう形になるのは申し訳ないのですが、それを承知しておいてもらいたいのです」
「問題?」
ニイルの言葉に首を傾げるレイ。
それにええ、と肯定しながらニイルは続けた。
「以前、私達はかの国へと赴いた事が有りました。その際彼等亜人達と私達、特にランシュとフィオの間で諍いが起きましてね。関係は険悪となり、私達も彼等と関わり合いにならない様にしてきたのです」
それに思わず2人を見るレイ。
見ればフィオは辛そうな表情をしており、いつも無表情なランシュですら珍しく、耳としっぽが悲しげに垂れ下がっていた。
「それじゃあディード・ホグウェルとも……」
「いえ、その時は彼は居ませんでしたので問題はありません。それにその時の事を知る者もほとんど居なくなったでしょうから、2人が人目についても問題は無いと思うのです。しかし、もしも私達との確執を知っている存在がまだあの国に居るのなら、彼も私達の敵となる可能性が高い」
ニイルしては珍しく、その顔から感情の色が漏れ出ている。
それはレイの勘違いで無ければ怒りだろう。
ニイルは静かに、怒りを堪えている様にレイには見えた。
「そうなれば『柒翼』どころか亜人族全体との全面戦争にも発展するかもしれません。私達はそれも覚悟の上であの国へ向かいますが、貴女には迷惑を掛けるでしょう」
それに一拍おき、申し訳なさそうな表情を浮かべ謝罪の言葉を口にしようとするニイル。
しかしそれを遮ってレイが言葉を紡ぐ。
「分かったわ。なら私も、彼等と戦う事を視野に入れておくわね」
それに一瞬驚いた顔になり、戸惑いながらも問い掛けるニイル。
「良いのですか?貴女には別行動するという選択肢も有りますが……」
「家族の問題でしょう?なら私にも関係が有るのだから、除け者にされるのは癪に障るわ」
さも当然の様に家族、と。
以前ニイル達に言った、私達は家族という言葉を改めて使うレイ。
その言葉を聞いたニイルは優しく微笑み……
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
感極まったフィオと、ついでにランシュがレイへと飛び込む。
その派手な音に掻き消され、ニイルの感謝の言葉は誰にも届く事は無かったのだった。
翌日早朝、宿を出たレイ達は前日の船着場へと向かい、無事に船へと乗り込む事に成功する。
今まで溜まっていた積荷を全て運び出す様に、数隻にも渡り船団を組む様子を尻目に、レイ達を乗せた船は進み出す。
目指すはオスウェルド大陸。
またの名をデミーラ共和国、別名『亜人達の楽園』と呼ばれる地である。
如何でしたでしょうか?
舞台は新天地、亜人の国へと移って行きます。
ファンタジーの王道、亜人種。
この作品も例に漏れずそれに触れていきます!
ただ素人なのでツッコミどころがあればまぁファンタジーやしな、と暖かい目で流してもらえれば…
そんな新章ですがよろしくお願いいたします!




