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バケモノが愛したこの世界  作者: 一一
第3章 色欲花柳編

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65/90

幕間〜英雄達の選択〜

はいどうもニノハジです〜

3章最後の幕間となります!

本筋とは少し違うので番外編とさせていただきましたが、1話に収めたので少し長めです!

お付き合いいただければ幸いです!

ではどうぞ!

「ここは……」


 薄暗い部屋の中、目を覚ます。

 寝惚けた意識で辺りを見回すと、どうやらここは牢屋の様で。

 自分はそこに備え付けられていたベッドで寝ていたのだと悟る。


 段々と意識がハッキリしていくにつれ、自分の置かれた状況に見当がつき始めた頃、声が響いて来た。

「ようやく目が覚めた様だな」


 声の主はどうやら隣の部屋に居る様で、その姿は見えない。

 しかし聞き慣れたその声は間違う筈も無く。

 そして同時に、その声で完全に覚醒した意識が現状を理解させて来る。


「その声の調子からして、君の方は無事だと思っても良いのかな、ブレイズ?」

 体を起こし、相棒たるブレイズにそう答えるマーガ。


「お前よりはな」

 そのブレイズの声音には、マーガしか気付けないであろう安堵の色が滲んでおり、どうやら自分が中々に厳しい状況に置かれていたのだと察する。


 改めて周囲を見回すと、どうやらここは地下牢の様だった。

 窓は1つも無く、ジメジメとした環境は嫌でもマーガを陰鬱な気分にさせてくる。

 しかしそんな気分に引っ張られている場合では無い。

 今は一刻も早く現状を確認する事が先決と判断し、ブレイズへと問い掛ける。

「ようやくという事は、僕は結構寝ていたのかな?」

「そうだな、ここに運ばれてからお前は10日間も眠っていた。かく言う俺もここに来てから2日は寝ていたと()()()()()が……」

「10日!?」


 その言葉に驚き、改めて自身の体を確認するマーガ。

 道理で先程から体が思う様に動かなかった訳だと、その理由に得心が行く。

 治癒魔法では筋力の衰えや空腹を癒す事は出来ない。

 意識が無かった事から、栄養も十分に摂取出来ていなかったのだろう。

 そういった意味では、確かにマーガは生死の境をさ迷っていた様だ。

 もう少し意識を取り戻すのが遅ければ、そのまま永遠に目覚める事は無かったかもしれない、そう肉体が告げてくる。


 しかしブレイズは意識が無く知らない事だったが、本来レイとの戦闘でマーガは死ぬ覚悟を決めていた。

 でなければ魔薬など使える筈も無い。

 アレを使えば最後どうなってしまうのか、マーガは十分理解していた。


 なのに生きている。

 どうして生き残っているのか、そして先程のブレイズの言葉で気になった点について訊く為にマーガは口を開いた。

「聞いている、と君は言ったけど。じゃあ君は僕達をここに運び、治療した人物を知ってるんだね?」

 薄々勘づいてはいるが、改めて確認する為ブレイズへと問い掛けるマーガ。


「それは……」

「それは〜私から〜説明するわね〜」

 その時ブレイズの言葉を遮り、新たに女性の声が近付いてくる。

 マーガの居る牢の前までやって来た女性を見て、マーガは自分の考えが正しかったと悟った。


「お初にお目にかかります、フィミニアの女王。やはり貴女達の仕業でしたか」

「仕業だなんて〜人聞きの悪い〜。ここは〜私の国なのよ〜?なら〜私が対処するのは〜当然の事だわ〜」

 確認する様に問い掛けるマーガに目の前の女性、スコルフィオは心外だと言わんばかりの態度でそう答えた。


 確かにここはフィミニアであり、スコルフィオはその君主として座している。

 だがだからと言ってこんな騒動に出張ってくるとは、マーガもあまり思っていなかったのだ。

 最悪の想定通りに進んでいる現状に歯噛みしたくなるのを臆面も出さず、平常通りを装うマーガ。


「いえ、まさか一国の主がわざわざ介入してくるとは思ってもみませんでしたので」

「あら〜わざとらしい〜。それが〜本心からの言葉だとしたら〜、自分の事を〜過小評価し過ぎでは〜?貴方達は〜私なんかより〜有名人じゃないですか〜。相手が相手なので〜私もこうして〜事態にあたってるんですよ〜。ねぇ〜?『魔王』様〜?」

 その言葉に内心舌打ちをするマーガ。

 お互い初対面という事もあり、自分達の事を知らないという可能性に賭けてみたのだが、やはりマーガ達の素性はバレている様だ。


(まぁこれでも一応は英雄として名を馳せてる自覚はあったからね。流石に希望的観測だと思ってたからガッカリもしてないけど……)


 しかし裏を返せば、それは余計に最悪の想定通りに事態が進んでいる事を意味している。

 マーガ達の素性がバレているという事は、今ここに捕らえられている人間が、セストリアの人間だとバレているという事。

 普通の市民ならいざ知らず、マーガ達は国の中枢を担う軍人、更にその中でも重要な席に座る者達である。

 そんな者達が問題を起こしたとなれば、当然外交問題として扱われ、最悪戦争の発端になる可能性も低くは無い。


(ただでさえ今は内部がぐちゃぐちゃで、ロクな外交も出来そうに無いっていうのに)

 今やセストリアにはかつての大国としての栄華は無く、内部では外交は疎か国の行く末すら危ぶまれている状況なのである。

 つまり反乱、革命、クーデター……

 そういった不穏の種が各地で芽吹く直前なのであった。


(僕やブレイズを御輿(みこし)に……なんて言われて、しかもその準備が着々と進んでるって話だからね)

 そんな噂が国中に拡がり、更にそれに対処出来ないでいる辺り、国の中枢はほぼ機能していないと考えるのが妥当であろう。


(僕は魔法の研究が出来れば何でも良いけど、ブレイズは頭が固いからなぁ……)

 2人ともその勧誘の話は何度かされた事が有るが、ブレイズはその度に捕らえていたそうだ。

 別に国王派という訳でも無いらしいが、ブレイズはセストリアという国に忠誠を誓っていると言っていた。

 それ故の行動なのだろう。


(お陰で国王の()()でこんな任務をやらされてる訳だけど)

 本来ならばその様な事情の中、国の主戦力を国外に出す事など有り得ない。

 しかし表立って反発していない、されど自分達ですら制御出来るか分からない不安分子を懐に抱えていたくない。

 更に言えば今回の命令で忠誠心を試そうという魂胆から今回、王からの勅命としてこの任務が与えられたのである。


 最早国の行く末すら気にもせず、自分達の地位を守る事しか考えていない王侯貴族達に、マーガは見切りをつけていた。

(こうなるまで内政を破壊していたルエル殿を褒めるべきか、それともそれにさえ気付けない自分達に飽きれれば良いのか……)


「さて〜貴方達を〜生かしていた訳、に〜、ついてなんですけど〜」

 故に、こうして政治的交渉材料として扱われる事は、マーガ個人の考え的には、対して特別な感情を抱いていなかった。

 ただ立場的、そしてブレイズの感情的に最悪だと考えていたに過ぎない。


(何とかブレイズを宥めつつ、ここから逃げ出せる様に立ち回らないと……)

 そう考えていただけに、スコルフィオの次の言葉はマーガ、そして隣で聞いていたであろうブレイズからは想像も出来ない物だった。


「貴方達が〜戦っていた彼女〜。その子が助けて欲しいって〜お願いしてきたから〜助けたまでなので〜。完全に〜治療が終わったら〜ここから出してあげるわね〜」

「え?」

「何?」


 予想外の言葉に思考が停止する2人。

 一瞬の間の後、ようやく思考が追いついたマーガが口を開く。

「ぼ、僕達がセストリアの人間と知ってて捕らえたのでは無いのですか?もしくは僕達2人に用が有るんじゃ……?」

「本当は〜そのつもりだったんですけど〜、あの子に止められちゃって〜。命は〜道具じゃ無いって〜怒られちゃいました〜」


 柔和な笑みを浮かべてそう語るスコルフィオは、傍から見れば嘘をついている様には見えない。

 しかしそれを素直に信じられる程、この状況とスコルフィオの言葉は突飛に過ぎていた。


(この国がいくら小国とはいえ、デレンティル連邦に所属している国だ。そんなところから見れば最早セストリアには価値が無いと判断したのか?それとも後々の布石の為に敢えて泳がせようと……?)

 マーガの脳内で様々な憶測が飛び交う。

 昔からブレイズが少し愚直過ぎる故に、こうした頭脳担当はマーガが担当していた。

 その為、あらゆる可能性を想定して次の行動を定めるという事が癖となって染み付いている。

 今回も例に漏れず、脳の回転数を上げていたマーガであったが、その様子を見てスコルフィオが溜息を漏らす。


「では〜貴方達に〜恩を売りたかったと〜解釈してください〜。確かに〜この状況では〜素直に信じられませんよね〜」


 まるでこちらの心情を悟った様な発言に、これ以上こちらの本心がバレない様、微笑むだけに留めるマーガ。


 そんな腹の探り合いをしている2人に、今まで沈黙を貫いていたブレイズが口を挟んできた。

「治療というのはもう暫く掛かるのか?」


 その言葉にスコルフィオは答える。

「そうね〜。貴方や〜部下の人達の治療は〜もう終わってるんだけど〜、彼がも〜少し掛かりそうなのよね〜。本当に〜危ない状況だったから〜」


 そう言いながらマーガに視線を送るスコルフィオ。

 マーガは、少し気まずそうに視線を逸らすだけで何も答えなかった。

「魔薬って〜知ってる〜?服用した者の〜生命を削りながら〜力を授けるって言う〜劇薬なんだけど〜。彼〜それを使って〜死ぬつもりだったのよ〜?」

「な!?」


 そのスコルフィオの言葉に、驚きの声と隣から鉄格子の揺れる音が聞こえる。

 どうやら隣のブレイズが鉄格子に飛び付いた様だった。


「何故あんなモノを使った!アレは使ってはならないとお前自身が説明していただろう!?」

 そしてブレイズにしては珍しい、切迫した声色でマーガへと問い掛ける。

 声の調子からして本気で怒っている様だと察したマーガは、姿が見えない事に安堵しつつ口を開く。

「ああでもしないと君をあの場から連れ出せそうに無かったからね。君は人類にとっての希望だ。あのまま2人共殺されるより、君だけでも生き残った方が良いと判断したんだ」


 その返答に、マーガですら聞いた事が無い様な怒気を孕ませながらブレイズが叫ぶ。

「それはお前だって同じ事だ!お前が居なくなれば魔法の発展がどれだけ遅れるか、魔法に疎い俺でも分かる!そんな事誰も、俺だって望んではいない!」


 鉄格子が揺れる音、そしてその掴んでいる鉄格子から軋む音がマーガの耳に届く。

 このまま放置すれば、ブレイズは己の牢、そしてマーガの牢を破り、彼に殴り掛かって来るだろう。

 そんな想像が容易に出来る程、誰の目から見てもブレイズは怒っていた。


「はいは〜い、落ち着いて〜?今こうして〜彼は〜生きてるじゃな〜い?もう彼が〜命を落とす事は無いから〜安心して〜?」

「え!?」

 それに今度はマーガが驚きの声を上げる。

 確かに目覚めてからおかしいと感じていた。

 マーガもブレイズも、魔薬を使用した者の末路は良く知っている。

 それなのに何故自分は生きているのかと……


「ど、どうやって治療したんですか!?あの薬の治療法は存在しない筈……!」

「別に〜?魂を〜騙しただけよ〜?魂に〜薬を使用した肉体は〜死んだと錯覚させて〜、その間に〜肉体から〜薬の成分が〜抜けるのを待つだけ〜。目が覚めたって事は〜、ほとんど薬の成分が〜抜けた筈だから〜、あと数日安静にしてれば〜完治するわよ〜」


「い、意味が分からない……」

 思わず絶句してしまうマーガ。

 その知識も然ることながら、魂に対する偽装、そしてそれを行う術が有るという事実に理解が及ばない。


(魂という曖昧な存在、そしてそれに干渉するなんて今の魔法ですら有り得ない事だ!それを可能とするならば『過去の遺物』か、その存在と同等の()……)


 マーガもかつて魔法研究の一端で、『過去の遺物』について調べた事が有る。

 種類は千差万別だが、物によれば魔法以上の力を備えている物が有るのだとか。


(どうやら彼女を見誤っていた様だ……その政治的手腕しか噂には流れて来なかったが、真に恐るべきは彼女の持つ力……なんだろうね)


 知らず内に冷や汗を流している事に気付くマーガ。

 どうやらこの国の、スコルフィオの隠す真の姿の一端を垣間見てしまった事に対して、恐怖を覚えていた様だ。

(この話の後でも、無事に返してもらえるとは思えないんだけどね)

 そんな疑念が胸中を埋め尽くす。


「そうか……よく分からないが、マーガを助けてくれて感謝する」

 しかし、そんなマーガを置いてブレイズはスコルフィオに頭を下げる。

 そんなブレイズを見て、スコルフィオは目を丸くした。


「き、君は恐ろしくないのかい?僕達でさえ知り得ない力を持ったこの人の事が……」

 マーガも困惑しながらそう問い掛けるが、ブレイズは先程の怒りも収まった様子で答える。

「いや、彼女が良き人物なのはこの国を見て分かっていた。それにそんな力を持っていながら、俺達にロクな拘束をしていなかった時点で確信に変わったよ」


 そう言われマーガも気付く。

 牢屋に閉じ込めているだけで手足の拘束もせず、魔法妨害用の結界すら張られていないという事実に。

 そういった諸々の事情を加味し、ブレイズは大人しく捕らえられ、マーガの治療に対しても疑わなかったのだろう。


「最後に訊かせてくれ。俺達と戦ったあの少女は今何処に?」

 その問いに少し笑みを零しながらスコルフィオは答えた。

「彼女達なら〜先程〜この国を旅立ちましたよ〜。目的地は〜別大陸ですから〜、貴方達が〜この国を出る頃には〜もう出会えないでしょうね〜」

「そうか……礼を言いたかったのだが、残念だ」


 その言葉に先程以上に目を丸くし、ついでに堪えきれずといった様子で笑い出すスコルフィオ。

 不思議そうに見つめるブレイズとマーガだったが、ひとしきり笑い終えた後、彼女はこう言った。

「まるで〜あの子と〜似た様な事を〜言いますね〜?気に入りました〜。今後〜もしあの子に〜協力してくれるなら〜、貴方達にも〜力を貸しますよ〜?そう〜()()()()()に、ね〜?」

「……ッ!」


 その言葉に息を呑むマーガ。

 どうやらセストリアが革命を起こそうとしている事、そして2人が次代の王として祭り上げられているという事も、スコルフィオは全て知っている様だった。

(底が知れないね……)


 そんな恐ろしい存在であるスコルフィオに恐怖と、そして少なくない興味が湧いたのを自覚するマーガなのであった。



 数日後、マーガが完治したタイミングで約束通り、全員が無事釈放された。

 今は部下を連れ、セストリアへと戻る道中である。


「さて、これからどうしよっか?任務も失敗したし、僕達もタダじゃ済まないと思うんだけど?」

 言葉の内容とは裏腹に、呑気そうな態度でそう問い掛けるマーガ。

 それを聞いていた部下達は青ざめていたが、隣を歩く問われたブレイズは、相変わらずの無表情で答える。

「ふむ、前から言う様に俺はあの国の人々が好きなだけで、貴族達に忠誠はそれ程抱いていない。あの国に住まう民達、そしてお前が不自由無く過ごせるのであれば、誰が王だろうと構わない」


 相変わらずだな、と笑うマーガ。

 それに今度はブレイズがマーガへと問う。

「お前こそどうなんだ?あの国でやりたい事は有るのか?」


 それに暫し考え込むマーガ。

 今までは魔法の研究さえ出来ればそれで良いと考えていた。

 しかし今回出会ったスコルフィオや、何より自分達と戦ったレイに、興味が湧いていないと言えば嘘になる。

 彼女達を深く知るのに、今の自分達を取り巻く状況が足を引っ張っている事実に、少し歯痒いと感じる自分も居た。


 故に……

「まぁ、今は彼女達に少しでも追い付きたいかな?」

 そう言って拳を突き出すマーガ。


「それは同感だ」

 それに笑いながら自分の拳をぶつけ、ブレイズはそう答えるのであった。

如何でしたでしょうか?

これにて本当に3章は終了となります!

次回からは新章へと突入致しますので、是非今後とも応援していただければ嬉しいです!

では今後ともよろしくお願い致します!

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