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バケモノが愛したこの世界  作者: 一一
第3章 色欲花柳編

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63/90

少女の選択

はいどうもニノハジです〜

第3章で1番書きたかった事がようやく書けました!

少し短いですが、楽しんでいただければ幸いです!

ではどうぞ!

 話が有る。

 そう語ったレイの表情は、部屋を出ていった時とは真逆のもので。

 憑き物が落ちように晴れやかに、そしてその瞳には確固たる決意が宿っていた。


「なんでしょうか?」

 その視線を真っ向から受け止め、ニイルはそう返す。

(思えばこの子は出逢った時から、自分で決めた意思だけは曲げずにいたな……)


 どんな相手だろうと復讐を果たす、その為に必要な事ならどんなに辛かろうと走り続ける。

 とにかく真っ直ぐで、ひたすらに愚直な負けず嫌いだった事を思い出すニイル。

 そんな眩しくも幼いレイだからこそ、かつて自身が抱き続けられなかった光を垣間見て、慈しみ、そして憧れたのだろう。


「やっぱり考えたのだけれど、貴方の思想には賛同出来ない」

 だからこそ、レイがこの選択をするという事は何となく想像出来ていたニイル。


「でしょうね。では……」

(この関係も解消か)

 その選択肢が過ぎったニイルだったが、しかしレイの言葉はその想像とは真逆の物だった。

「だからそんなモノを無視して、私は私の意思を貫く事にするわ」


「……はい?」

 予想外の言葉に素っ頓狂な声を漏らすニイル。


(今の流れは完全に決別の流れだったのでは……?)

 そう思っていただけに、レイの言葉の真意が理解出来ない。

 そんなニイルに応えるかの様にレイが語り出した。

「フィオから少し聞いたの。貴方の事。貴方は昔起きた出来事の所為で、他人を拒絶する様になってしまったって」


 その言葉にニイルはフィオを見る。

 それにフィオは拗ねた様な表情でそっぽを向いた。

 どうやらまだニイルに対しお怒りらしい。

 そんな2人を置いてレイは続ける。

「でも私はもう皆の事を家族だと思ってる。家族なら一緒に居たいと思う事も、不思議では無いでしょう?」

 言いつつフィオとランシュに視線を送るレイ。

 2人は大仰に頷き肯定を示した。


 それに、とレイは尚も続ける。

「他人の思想に、他人がとやかく言う権利は無い。だから貴方の考えを変えようと思わないわ。そして貴方も、私の考えを変えられない」


 だから、と一拍置くレイ。

 それはまるで自身の決断を再確認するかの様で。

 そうしてレイは、選んだ未来を伝える為に言葉を紡いだ。

「私は私の意思で貴方達と一緒に居ることを選ぶ。そして選んだ未来を後悔しない為に、私は何も諦めたりしない!」

 そう言い放ち、今度はスコルフィオへと向き直るレイ。


「だから改めて言わせてもらうわ。セストリアの人間(かれら)を、人間を、道具扱いするのは許さない。彼等を政治の道具にするのを許さない。彼等の解放、それが私の要求よ」

 と、そうハッキリと告げるのだった。


 その言葉に、その迫力に言葉に詰まる一同。

 しかしよく見ればフィオは満面の笑みをうかべ、ランシュは無表情のまま、しかし尻尾を盛大に振り回し、スコルフィオは苦笑を浮かべる等、様々な態度を見せていた。

 そしてニイルは、まるで眩しいものを見るかのように目を細め、レイを見つめる。


「それが、貴女の選択だと?」

 そうして、堪え切れずといった様子で目を閉じ、レイへと語り掛けるニイル。


「そうよ」

 それにニイルへと向き直り即答するレイ。

 その言葉に、決して覆せないであろう覚悟を感じるニイル。

 内心で溜息を吐きながら、改めて確認する様にレイへと問い掛けた。


「貴女は、利用されてると知りながらも私に付いてくると?」

「私も力が欲しいのだからお互い様よね」

 レイは笑ってそう答える。


「貴女は、力が足りないと知りながらも全ての人を助けると?」

「全てじゃないわ、私が助けたいと思った人だけ」

 ニイルの脳裏にかつての記憶(ねがい)が蘇る。


「その結果、後悔する事になったとしても?」

「それすら退けられる力を付けるだけよ」

 レイの願い、それはニイルが叶えようとして。


「スコルフィオ殿がその要望を却下されたら?」

「その時は戦うだけだわ」

 叶えられずに儚く散った希望(ねがい)と全く同じモノで。


「勝てない相手と知っていながら?」

 だからこそ、同じ後悔(くつう)を負わせない様にと願ったのに……


「なら、その時は助けてちょうだい?家族なら助けてくれるでしょ?」

 その言葉に目を見開きレイを見るニイル。


 それはかつて、1人の少女(あね)が放った言葉と同じもので。

『家族を助けるのは当然でしょ?』

 そんな言葉(きおく)が、無くしたはずの想い(ねがい)を呼び起こす様に響き渡る。


「だからもう、1人で戦わなくても良いの。貴方は1人じゃ無いわ」

 あの時の姉と全く同じ表情を浮かべたレイを目にし、ニイルは天を仰いだ。

 そうでもしないと、溢れそうになる感情が零れてしまいそうだったから。


 レイの願いはあまりにも無知で、だからこそ強欲で傲慢で幼稚なモノだ。

 それを一笑に付す事は簡単だった。

 しかしニイルにはそれが出来なかった。

 そんな事をすれば、今まで背負ってきた人々の願いも、否定する事の様に思えてしまったから。


 そしてこの程度の事で救われたと感じる程、自分は弱い存在だったのだとニイルは気付かされた。

(その弱さを克服する為に今まで生きてきたつもりだったが、結局出来ていなかった訳か)

 そんな考えが過ぎり、思わず苦笑を浮かべる。


(ならば今度こそ、この子の想いを守り切れれば、俺は俺を(ゆる)せるのかもしれないな)

 そしてかつて自身が成し得なかった願いの成就、それをレイに託す事で自身も救われるかもしれない。

 そんな考えが脳裏を過ぎる。


(あまりにも自分勝手で自分本位の考えだが、今のレイにはピッタリだろう)

 先程のレイの言葉を借りるなら、家族の願いを叶えるのもその範疇に入っている筈と勝手に解釈する。


 ならば、とニイルも覚悟を決める。

 かつての願い、そして今のレイの願いを叶える為に、ニイルが成すべき事を思い浮かべる。


「あぁ……分かっているさ……」

「?」


 小声で囁いたその言葉は誰にも届かず空へと消える。


 そうしてこの日、1人の少女がとあるバケモノの心を救ったのだった。

如何でしたでしょうか?

レイの心の成長を描いた話となりました!

これを書く為にこの章を書いたと言っても過言では無いので、感慨深いものがあります。

そしてそろそろ3章も終わりとなります!

最後までお楽しみください!

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