おっさん、迷宮に挑む㉑
「魔術!」
ブルネッロの掛け声と共に突き出された拳はダンジョンの壁を粉砕する。
「魔術っ!」
ブルネッロの掛け声と共に突き出された拳は奥にある地盤をも粉砕する。
「むぁ~術ぅ!」
ブルネッロの掛け声と共に突き出された拳は遂にダンジョンの基礎構造そのものを貫き、人ひとりが優に通れるくらいの大穴を開け粉砕する!
「え~っと、おっさん?」
「ガリウス」
「ガリウス様」
「言うな、何も。
俺もどうコメントしていいか分からん」
工事用魔導重機の様な猪突猛進。
戦場を蹂躙する戦車のごとき勢いは俺達を瞬く間に置き去りにしていく。
誰も言語学者ブルネッロの魔術(物理)を止める事は出来ない。
破壊に次ぐ破壊。
剛腕による粉砕という名の極致。
道徳の教科書の様に完全に虚無の表情で俺に何かを訴えてくる三人に対し、俺も頭痛のしてきた眉間を指で揉み解しながら答える。
ブルネッロによる迷宮探索ならぬ迷宮爆砕は順調に進んでいた。
通常これだけ無茶をやらかせば罠や迎撃者に囲まれ進退窮まるのが常だ。
しかしブルネッロの相方であるヴィヴィはその道のプロ。
並みのトラップは無効化、守護者の滞在する玄室が無い行き先を的確にサーチし誘導していく。
そんなこんなで――
「はい、到着。
お疲れ様、ブルネッロ」
「――うむ。
久々に良い運動であった」
慰労のつもりなのか汗ばみ熱を持った大胸筋を軽くノックするヴィヴィ。
ブルネッロは禿頭に浮かんだ汗を拭うと一仕事を終えたとばかりに爽やかな笑みを浮かべる。
まったくこれだからS級のやる事は規格外だ。
この二人の連携の前には難度の高いダンジョンという概念が崩壊する。
俗にA級まではパーティとしての連携が、S級からは個人の質が冒険者に問われるというが、それは本当みたいだ。
ただ――それでも迷宮に関する知識は必要なんだとヴィヴィは話す。
最初から最後までブルネッロが壁を【粉砕】出来れば良いのだろうが――やはり彼も人間である以上限界があり、あれほど全力で動けるのは一日10分がリミットなんだと話してくれた。
それを超えると肥大化し過ぎた筋肉が自分の骨格を磨り潰してしまうとかで、彼は彼なりに苦労をしているらしい。
確かにこれだけの力なら並の妖魔はおろか、階層主すら屁でもないだろう。
けど――使い時を誤れば自滅しかない身を過ぎた力でもある。
僅か10分間の超魔術(物理)。
それは危険な諸刃の剣。
だからこそ使い出があると――タイミングが重要とも言っていた。
既成概念を超える二人の流儀に俺達はただ圧倒されるだけであるが。
やはり主役にはなれないな、俺は。
活劇芝居の端で驚愕しながら解説してるくらいの役が精々だろう。
まあ、自分を卑下しても始まらない。
今は自分に出来る事をしなくては。
ブルネッロが開拓(この表現が適正だろう)した道の先――
そこはいかにもな雰囲気が漂う巨大な鉄扉の前だった。
この鉄扉の先に迷宮主【ダンジョンマスター】がいるに違いない。
先程の【迷宮探査】でも同様の推測は立てられた。
ただ不審な点と言えばこの先が見通せない事である。
この先の大広間――
そこはまるで霞が掛かった様に何も視えない。
「この先に迷宮主【ダンジョンマスター】がいるの?」
「ええ、十中八九ね。
ただ――
厄介な事にアタシの探索網を以てしても何も引っ掛からないのよ。
だから何がいるかまでは分からないわ。
皆に訊きたいのだけど、この天空ダンジョンに相応しい迷宮主ってどんな敵だと思う?」
シアの質問に答えたヴィヴィが解説後、逆に皆へ尋ねてくる。
思案する一同。
三人娘とルゥの視線が俺に集まる。
まずは俺かよ。
頭を掻きながら俺は推測を述べる。
「定番で申し訳ないんだが……
やはり――これほどの迷宮の主と言ったらドラゴンじゃないか?」
「おお~なるほど」
「ふむ、一理ある。
しかし――その意見に異を唱えたい」
「あら、じゃあリアちゃんはどんな奴を想定するのかしら?」
「死霊王、リッチ。
狡猾な死霊魔術師の最上位」
「なるほどね。
あいつも定番よね」
「わたくしなんかは逆に異界の魔を想像しました。
以前レイドを組んで討伐した目玉の暴君、バグズベアードなど」
「うむ。
どれもダンジョンマスターに相応しい仇敵なのである」
「わん!」
「じゃあ――どれが出て来てもいいように作戦を練りましょうか。
幸いまだ時間的な余裕はあるわ。
おそらくここが最後の部屋。
今日中に攻略しちゃえば、後が楽だもの」
「さんせ~い」
「だな」
こうして俺達は現在の俺達の持つ力と装備で可能な対処、策を練る。
納得いくまで話し合い、リアとフィーの支援魔術・法術を重ね掛けする。
個人に掛かる術式支援限界、六重補助を受けながら俺はふと不安を抱く。
俺達に出来る事は全部やった。
だというのに拭えないこの胸中の不安はなんだろう?
第六感ともいうべき予感。
罠が無い事を確認後、ヴィヴィが開けた大扉の中に突入した瞬間――
俺はその意味を知った。
「ビンゴ過ぎだろう!」
広間の中には――紅の威容を誇るレッドドラゴン、亡者の妄執を纏わせた死霊王リッチ――そして巨大な眼玉に特殊効果の光線を放つ触手をうねらせる目玉の暴君バクズベアードが並び立ち――俺達を待ち受けていた。




