おっさん、耳を塞ぐ
「ふう~随分と酷い目に遭った」
耐火煉瓦を組み合わせバーベキュー用の網を乗せながら俺は愚痴る。
好奇心に駆られた村人達が満足するまで相手をしたのだ。
しかもその内容が内容である。
おっさんとはいえ、俺もいい加減恥ずかしいし……疲れた。
何で女性陣は愛の告白なんかに興味があるんだ?
まったく訳が分からない。
しかし――お陰様? で、商売は捗ったな。
何でも屋商店の定期販売は好評の内に幕を終え――あれだけ仕入れた品々も全て売り尽くし完売。
今は満員御礼、感謝パーティの準備をしている所である。
「あはは、すっごい質問攻めだったね!」
「ん。村の話題を一気に掻っ攫っていった」
「これもガリウス様の為せる人徳、といったところでしょう」
俺の愚痴を聞いた三人が鉄串に食材を刺す手を止めずに口を挟んできた。
下拵えをした肉と野菜はかなり用意をしたが……村人全員を相手にするとなると量が量だけに手間暇掛かる。
三人には申し訳ないと思うが、むしろ嬉々として取り組んでいた。
和気藹々と楽しそうな様子に俺は頭をボリボリ掻きながら問い掛ける。
「こうなる事は予想出来たろう?
何だって自らドラゴンの尻尾を踏みに行くような真似をするんだか」
「え~そんなの決ってるじゃん」
「早く村人に受け入れてほしいから」
「ガリウス様と結ばれる事を皆様に祝福して頂きたかったのです」
「そうそう、ボクだって我慢してるんだよ?
本当はおっさんと結婚するんだ~って叫びたいくらいなのに」
「同感。
ガリウスと婚姻の契約を交わす喜びを周知して回りたい」
「うふふ、同感ですわ。
恋は盲目――ですが愛は永遠。
言うなれば幸せのお裾分けでしょうか?」
今更何を言ってるんだか、と若干呆れたニュアンスで三人に返される。
物怖じしないストレートなその物言いに俺の方が気恥ずかしくなる。
こういったところはやはり男は女性に敵わないと思う。
「俺もお前達と知り合えたのは凄い幸運だったと思うよ。
冴えない俺の何がいいんだか知らないが」
「ああ!
そうやってまた自分を卑下してる!
駄目だって言ってるでしょ、おっさん」
「シアの言う通り。
自分達も世間知らずな馬鹿じゃない。
貴方を選んで――貴方に選ばれたのは望んでしている事」
「そうですよ。
ガリウス様がそんな風ではせっかく婚約して頂いたのに寂しいです。
もっと自信をもって告げて下さいな、わたくし達に」
「な、何を?」
「決まってるでしょう?」
「ん。決まってる」
「分かってらっしゃる癖に」
「ああ――うん。
その……俺がお前達を幸せにする?」
「もう! 確かにそうなんだけど!」
「そこで疑問点なのが、ガリウスらしい」
「でも――確かに仰って下さいましたね。
ありがとうございます、ガリウス様。
わたくし達も勇者だ賢者だ聖女だと持て囃されてはいますが……
恋愛に不安を抱える一人の女性である事に変わりはありません。
だからこそ想いを口に出して頂きたいのです。
まあ殿方にとってはお恥ずかしい事とは存じてますけど」
「まったくだ。
でも……それでお前達が安心するならお安い御用だぞ」
「をを、おっさんがデレた!」
「機微に疎いガリウスに付き添い五年……長かった」
「あら? わたくしなんて10年以上の付き合いですよ?
ここまでくるのに大変だったんですから」
ボクがあたしがわたくしがと楽しそうに言い合う三人を遠目に調理に掛かる。
肉を焼くだけでは味気ないし、先週仕込んだ熟成肉が丁度良い頃合いだ。
香辛料も更新した事だし、じっくり低温で炙ってローストジビエにするのも良いかもしれない。
鼻歌交じりに包丁を構えながら俺は束の間の休息を満喫するのだった。
「――だから、わたくしが一番想ってる期間が長いんです!
なのでガリウス様を一番想ってるのもわたくしですなんです!」
「ん。その主張は誤り。
残念ながら愛は長さじゃない」
「そうだよ!
愛は長さじゃなくて深さ――つまりボクの事だね♪」
「寝言は寝てから言うべき。
学術的な見解からも一番は自分であると証明」
「あらあら?
客観的な証明がないとリアは自身の気持ちを立証できませんの?」
「ほほう。
その喧嘩、確かに買った」
「ボクの意見も聞いてよね!」
――時折聞こえてくる、不毛な言い争いに耳を塞ぎながら。




