おっさん、追及される
「おはようございます!
何でも屋ノーザン商店、ただいまより開店です♪」
心身共にリフレッシュした翌朝。
リアの転移魔術で開拓村に戻った俺達は露店を組み立て都市で買い置きしていた品々を並べていく。
慌ただしくも充実した今日の喜びを連想させる時間。
様子見の村人を見掛けたシアの元気で愛想の良い声が開拓村に響き渡る。
それはさながら朝の到来を知らせる時告げ鳥の様な快活さだ。
明るいシアの声に惹かれ、安息日だというのにぞろぞろ村人が姿を見せ始める。
その中には小遣いを握り締めた笑顔の子供達もいた。
きっと一生懸命お手伝いをして稼いだのだろう。
小さいけど大事な顧客の為に今回はお菓子や子供受けしそうな小物も用意した。
期待に添えるといいのだが……ふむ、少しおまけしてやるか。
知らぬ顔も見受けられるのでこの一週間の間に新しく入村した者かもしれない。
驚いたように、物珍しそうにこっちへ向かって来ている。
休みの朝からいったい何事かと思ったのだろう。
新しい顧客の確保は重要だ。
ニッチな需要にも応じるウチのラインナップを気に言って貰えるといいのだが。
若干朝靄が濃いが、幸い天候に恵まれ射し込む日の光の訪れと共に消えていく。
気の早いシアの呼び声に対する反応は上々だ。
露店に並べられている品々を興味深く見渡している。
「おはよう、ガリウス」
「おはよう、ターナ婆さん」
「随分香りが良いけど、これは何だい?」
「ああ、これは新しく仕入れた柔軟剤ってやつですね」
「柔軟剤?」
「洗濯した後、こいつで軽く仕上げの漬け洗いをするんですよ。
服がふんわりするだけでなく長持ちするし香りもいい。
皺も付きにくくなるから洗う手間が省ける」
「ああ、そいつはいいさね。
じゃあ試しに一つ貰おうかい」
「毎度!」
「おはようシアちゃん」
「おはようございます、バロウズおばさん」
「最近肌荒れが酷くって……
何か新しい化粧品あるかしら?」
「それでしたらこの乳液はいかがでしょう?」
「乳液?」
「化粧の下地にもなるもので肌の潤いを保ってくれる保湿クリームです」
「まあ、それは良さそうね。
こないだ頂いた化粧水と併せて1本ずつ頂こうかしら」
「ありがとうございます♪」
「おはよーリアねーちゃん」
「おはよーなの」
「ん。おはよう、ルーイにエリス」
「なにかおいしいものある?」
「ある?」
「勿論ある。
クッキーは知ってる?」
「うん。こないだおっさんにもらった」
「おいしかった!」
「じゃあ今日はその仲間、ビスケットを紹介。
チョコとハニー、二つの味を用意した」
「うわ! ぜったいたべる!」
「おいしそう!」
「慌てない。
まだ数は沢山ある。
貴方達のお友達にも知らせてきて?」
「まかせて。いくぞ、エリス!」
「あ、まってよ~ルーイ」
「うおっほん」
「あら?
おはようございます、ジャクソン様」
「ああ、おはようフィー。
それで……こないだ頼んでいたものは購入できたかね?」
「はい、勿論ですわ。
ささ、こちらに」
「おお! 素晴らしい。
これが噂の……」
「ええ。
ただ効果が激しいので用法容量を守って下さいね?」
「分かっておるよ、ありがとう!」
狭くない露店のあちらこちらで驚きと感謝の声が湧き上がる。
薄利多売な為、売上自体はそんなに芳しくない。
けれど自分達が皆の役に立ってるというこの瞬間が堪らない。
商品を前に垂涎の眼差しを受けながらやり取りするのは商売人の鑑だ。
村に対する帰属意識ではない。
だが集団を利するという行為に根本的な喜びを感じる。
リアに言わせれば「全体に対する奉仕者意識がどうの」とか言うらしいが。
もっとシンプルに誰かの笑顔が見たいだけだと俺は思う。
この瞬間がずっと続けばいいのに……
だが、その願いは早々に打ち砕かれる。
「ちょっとちょっと、三人とも!
それってもしかして――」
「嘘だ。おい、マジか。
君達の薬指に輝くそれはまさか――」
「はい、婚約指輪ですわ」
「ん。その通り」
「うへへ、いいでしょう~?
ボク達におっさんが贈ってくれたんだ」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
「う、羨ましい」
「僕のシアちゃんが……
リアちゃんが……フィーちゃんが……」
「いや、幾らガリウスでも許せん!
皆でぶっ殺す!」
「何言ってるんだい、宿六。
アンタに比べればガリウスは大したもんだよ!」
「いや~男を見せたね」
「あたしゃやる時はやる男だと思ってたわい」
「さんにんとも、おっさんのおよめさんになるの?」
「およめさんになるの!?」
「さあ、どうかしら?
そこを詳しく聞いてみましょうか」
露店の品々よりも完全にスキャンダルに喰いつく村人達。
こうなる事が予見できるから外しておけと言ったのにあいつらは……
まあ、仕方ない。
隠す事でもないし、いずれは発表しようと思っていた事である。
順序が少し早まってしまっただけだ。
俺も男だ、逃げずに覚悟を決めよう。
騒がしく混沌に満ちた空間の中――
俺は皆の期待に満ちた目に応じるべく口を開くのだった。




