おっさん、迷宮に挑む⑧
「しかし……危ないところだったな」
時折ばったり遭遇し、思い出したように襲ってくるダイアウルフ(LV50相当)を蹴散らしながら俺は三人に聞かれないように呟く。
攻守術とバランス良く三拍子揃った俺達のパーティだが、一つだけ弱点がある。
それは盾役となる前衛の不在だ。
基本術師一人につき防衛要員が一人付くのが理想のパーティ構成である。
力ある術師はパーティ戦闘の要。
その点でいえば魔法剣を使うシアを含め三人も術師がいる俺達は恵まれている。
実際、俺達の総合的な攻撃力はS級でもかなりのものだろう。
それこそ強大な力を持つ魔神らの喉元に喰らい付けるくらいに。
しかし瞬間殲滅力に優れている反面、俺達のパーティ構成は持続力がない。
術師が力を使い果たしたらそこでお終いだ。
無論、そうなっても最低限身を守れる体術をリアとフィーには仕込んでいる。
ただそれはあくまで付け焼き刃――窮地を打破する根本的な対策にはならない。
結論としてそうなる前に全力で潰すという展開になる。
けどこの戦法は諸刃の刃な一面もあり、迅速な殲滅に向け前衛が遊撃に出る必要があるのだ。
その役目は状況に応じて瞬時に俺やシアが交互に入れ替われる様に訓練はした。
だが術師の護衛放棄という根本的な問題解決にはなっていないし、俺達を支援する為に術師も力を使わざるを得ないという悪循環。
盾役がいれば長期戦を見据えたペース配分も考えられるが現状は無理だ。
結局のところ後衛を安定して支えられるタンク役がいない限り、短期決戦を見据えて戦うしかないというのが俺達の戦法であり弱点である。
では何が危なかったかといえば先程の様な状況だ。
広範囲から無尽蔵に襲ってくる敵。
一匹一匹は大したレベルじゃないが戦う度に消耗していったらいつか力尽きる。
完全に殲滅し切れば話は別だろうが、流石は魔神皇の居城【逆魔城】を封印する要の天空ダンジョン。
出て来る雑魚敵のレベルが高い。
塔の一階であるここ草原エリアで出て来るのが、群れを率いたダイアウルフなど他のダンジョンなら階層主クラスに匹敵する奴等である。
一般に階層をひとつ経るごとに10の位は妖魔の出現脅威度が上昇する。
50レベル相当の妖魔が出没する一階なら、次の二階は60レベル相当か。
最終ステージである最上階の事を考えると気が重い。
相性にもよるが俺達の手に負えるのか?
まあ弱気になっても仕方ない。
出来る事を堅実に行うのが冒険者の流儀だ。
今は無理無茶無謀の三無主義を標榜した伝説の自由騎士に見習おうとしよう。
「おっさん、お客さん」
思考に沈んでいた意識がシアの警告に引き戻される。
索敵スキルが警鐘を鳴らさないとはいえとんでもない油断だ。
俺は慌ててシアの指摘した方を見る。
「なるほど……確かにお客さんだな」
遥か遠方だが石で組まれた巨大な魔法陣らしきものが見える。
あれがおそらく他の階層へ繋がるゲートだろう。
延々二時間近くも歩き続けた甲斐があった。
問題はその前で鎮座する守護者の存在だ。
竜にも匹敵する巨体を持った純白の狼。
俺も噂でしか聞いたことがないが、おそらく北方の魔狼フェンリルだろう。
俊敏さでは竜をも凌駕しその剛毛は並半端な攻撃を弾くほど強靭だ。
しかし何が恐ろしいかといえば、これだけ離れているのにもう奴は俺達の存在を把握しているらしき事。
興味無さそうに巨体を横たえているが耳がピクリと動いたのを俺は見逃さない。
まあ俺達が視認した以上、嗅覚に優れたフェンリルならばまず間違いなく俺達を捕捉しているのは間違いない。
つまり避けられない戦いだ。
「やれやれ……厄介そうな相手だな。
さて、どうしたものか」
三人に向かい余裕を以って愚痴りながらも、急ぎ戦術を練る。
司令塔が動揺していてはあいつらも最高のパフォーマンスを発揮出来ないしな。
俺の意を汲んでくれたのか無言で密集する三人。
阿吽の呼吸。
ならば前置きはいらない。
俺は魔狼の動きに注視しながら即座に考案した作戦を三人へ伝えるのだった。




