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白銀の簒奪者  作者: たかまち ゆう


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第95話

 僕達は、次の日の夜を待った。


「……来ないわね」

 ベルさんが苛立った様子で言った。

「落ち着けよ。まだ、それほど時間が経ったわけじゃないだろう?」

 ルティアさんが宥めたが、ベルさんの様子は変わらない。


 無理もないだろう。

 スピーシアが、本当に僕達に協力してくれるのか分からないのだ。

 最悪の場合、ここに帝国軍が押し寄せてくるかもしれない。

 平常心でいられる方がおかしいとも言える。


「……」

 最も体力のないミスティは、既に限界のようだ。

 ほとんど居眠りをしているような状態で、僕に寄りかかってくる。

 僕は、魔力を温存するために補助魔法を使っていないため、気を付けないと一緒に倒れてしまいそうだ。


「その役立たずは、ここに捨てていくべきだと思うわ」

 ミスティを睨みながら、ベルさんがそう言った。

「ベルさん……八つ当たりは良くありませんよ」

「私は本気よ。その子を連れて行っても、足手まといになるだけじゃない」


「よせよ、ヴェル。ミスティは、ダッデウドの子供を産むかもしれないんだ。大切にするべきだろう?」

「そんなに先の話をされても困るわ。そもそも、この子がオットームと結婚したところで、ダッデウドを産む確率が、それほどあるとは思えないわね」

「なら、ダッデウドと結婚してもらえばいいだろ?」

「何を言ってるのよ。この子にダッデウドの男を譲ったら、その分だけ、ダッデウドの男がいなくて困る女を増やすことになるのよ?」

「たった1人の話じゃないか」

「いいえ。オットームの女がいると、ダッデウドの男は、そちらに気を取られることになるわ。だから、オットームの女は里の隅に隔離してるんじゃない」

「ダッデウドの男が、ダッデウドの女に興味を示さないのは、オットームのせいじゃないと思うけどな……」

「貴方はオットームを恨んでないの? ちょっと前までは、ダッデウドの男から相手にされなくて、いつも泣いてたじゃない」

「……そのことは、もう諦めたよ」

「それに……貴方は、ティルトがミスティと仲良くしてるのを見て、嫉妬してたでしょ?」

「いや、それは……!」


 ルティアさんは酷く慌てた。

 それから、大きなため息を吐く。


「あの時は……男は、やっぱり小さい子が好きなのかな、と思ってね……」

「あら、ミスティの胸は大きいし、ティルトは胸の大きい子が好きみたいだけど?」

「誰が胸の話をしてるんだ! 身長の話だよ!」

「それは仕方がないと思うわ。男って、プライドが高い生き物だもの。本能的に、見下ろされるのが好きじゃないのよ」


「僕は、背の高い女性のことが嫌いなわけではありませんよ?」

 慌ててフォローするが、ルティアさんは納得しなかった。

「でも……君は、ミスティの頭を撫でていただろう? 私とティルトの身長だと、あんな風にはできないじゃないか」

「えっと……撫でてほしいんですか?」

「……ねだっているわけじゃないんだ。気にしないでくれ」

 そうは言ったものの、ルティアさんが、背が高いことにコンプレックスを抱いていることは確かだった。


「ルディさんは……素敵です!」

 レレがそう言った。

「……ありがとう、ディフイちゃん」

 ルティアさんは、そう言ってレレの頭を撫でる。


 ルティアさんが加わってから気付いたのだが……レレは、自分の発育が良くないことを気にしているらしかった。

 そうはいっても、レレの方が、クレアよりも発育は良い。

 クレアだって、決して平たいわけではないのだ。オットームの社会で暮らしてきた僕にとっては、気に病むことはないと思えた。

 だが、ベルさんやルティアさん、ノエルやミアを見れば、レレの身体が見劣りすることは確かだ。

 ダッデウドの標準は、オットームよりも遥かに上なのである。


 しかし……レレはダッデウドの男に人気があるらしい。

 また、ダッデウドの男にはオットームの女性が人気があるらしいので、スタイルの良さが彼らにとって重要でないことは明らかだ。


 ならば、ダッデウドの男は、何に惹き付けられているのだろうか?

 はっきりとは分からないが、ひょっとしたら、大人しさや従順さのようなものなのかもしれない。


 そんなことを考えていると、誰かが近付いてくる気配がした。

「……満月の夜」

 男の声で、そんな言葉が聞こえる。

「兎たちの踊り」

 ルティアさんがそう言った。

 これは……暗号だろうか?


「エデルディディア様ですね?」

「そうだ。お前はスピーシアの使者だな?」

「はい。馬車までご案内します。私に付いて来てください。尾行されないように細心の注意を払いましたが、念のため、警戒は怠らないようにお願いします」

「分かった」

「それと……スピーシア様は現在、テロリストの仲間なのではないか、と帝国から嫌疑をかけられています。そのため、別荘に身を隠しているので、そちらにご案内します」


「ちょっと……そこは大丈夫なんでしょうね?」

 スピーシアのことを信用していないベルさんが、険のある声を出す。

「その別荘は、ダッデウドの里から近い場所にあります。皆さんにとっても安全で、都合の良い場所であるはすです」

「ヴェル、今は彼とスピーシアを信じよう。さあ、早く案内してくれ」

「分かりました」


 不安は残るが、はっきりとした、疑う根拠があるわけではない。

 僕達は、スピーシアの使者に案内され、かなりの距離を歩いた。

 そして、大きな馬車まで辿り着く。


「……これ、目立ちませんか?」

 僕は懸念を口にした。

「いや、こんな立派な馬車に、テロリストが乗っているとは思われないだろう」

「でも、ベアーデ達も並走するんですよね?」

「荷物を積んだバロルが馬車と並んで走るのは、民間人が乗っている馬車では良くあることだよ」

「……ちなみに、さっきの暗号は何ですか?」

「ダッデウドの社会では、月には兎が住んでいると言われているんだ。オットームには思い浮かばないだろう?」

「月に……兎ですか?」


 どうしたら、そんな発想が出てくるんだろう?

 不思議に思いながら、僕は馬車に乗った。


 僕達が全員乗り込んでも、馬車には十分な空間があった。

 これなら、時々横になりながら、長距離でも移動することができるだろう。

 襲撃や裏切りのリスクがあり、完全に安心することは出来ないが……もう歩かずに済んで、助かることは間違いなかった。


 こうして、僕達はスピーシアの別荘を目指して出発した。

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