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白銀の簒奪者  作者: たかまち ゆう


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第92話

 ルティアさんが、動揺を隠すように話す。

「スピーシアは、万人に対する平等な愛を掲げているんだ。民族や性別に関係なく、自分が両親から注がれたような愛情を与えることが、自分の使命だと思っているらしい」

「愛情ですって? とんでもないわ。欲情の間違いよ!」

 ベルさんは、吐き捨てるようにそう言った。


「……ちょっと待ってください。ひょっとして、そのスピーシアという女性も、既に年老いているんですか?」

 僕が尋ねると、ベルさんは首を振った。

「いいえ。確か、スピーシアはルディと同じくらいの年齢だったはずよ」

「だったら……少なくとも、男性は喜んで応じたんじゃないですか?」

「それが違うのよ。スピーシアは、男性に対して、自分の目の前で欲求を処理するように強要したらしいわ。わざわざ自分の裸を見せたり、身体を触らせたりしてね」

「……!」


 何て酷いことをするんだ……!

 僕の中に、激しい怒りが湧き上がってきた。


「やめましょうよ、そんな人を頼るのは!」

 僕がそう言うと、ルティアさんはため息を吐いて首を振る。

「他に方法がないだろう? 私だって、女性と一緒に裸で寝て、肉体関係を迫られるなんて……耐え難いものがあるよ」

 そう言って、ルティアさんは自分の身体を抱くようにした。


 少し男性的なところがあるルティアさんでも、女性を性の対象として見ている女性のことは、脅威だと感じるらしい。

 いや……女性が憧れるようなルティアさんだからこそ、そういう女性のことが怖いのかもしれない。


「だったら、迫ってきたら、殴ってでも止めたらどうですか?」

「それができたら、こんなに不安にはならないよ。スピーシアは、ダッデウドとして目覚めているんだ。決して弱くないはずだし、私やヴェルより強い可能性だって否定できない」

「そんな……まさか!」

「あり得ないとは言い切れないだろう? あの女は、両親から愛されていたとはいえ、オットームの社会で暮らしてきたんだ。しかも、両親の莫大な財産を相続した女だよ? きっと、多くの人からの妬みや憎しみを受けているに違いない。加えて、性的な虐待を行ったことで、被害者からは激しく恨まれたはずだ。つまり、ゲドルド効果が働いて、かなりの魔力を保有している可能性が高いんだよ。ゲドルド効果の個人差は大きいから、ティルトほど強くないとは思うけど……まともに戦ったら、苦戦するだろうね」

「……」


 ダッデウドを虐待するダッデウドの存在なんて、想像したことがなかった。

 しかも、ゲドルド効果によって、強大な力を手に入れているなんて……。

 仮に戦うことになったら、かなりの脅威になるだろう。


「まあ、スピーシアが強いことは確かだけど……本気で戦うんだったら、私達で力を合わせて戦えば、負けることはないはずだ。でも、色々な便宜を図ってもらうためには、全面的に対立するわけにもいかないだろう? 最悪の場合……誰かが身体を委ねることになるかもしれない。今から覚悟しておいてくれ」

「冗談じゃないわよ! あんな女に抱かれるなんて! 誰が何と言おうと、私は命がけで戦うわ!」


 ベルさんは、完全に本気の宣言をした。

 ルティアさんは、再びため息を吐く。


「そう言わないでくれよ……。私だって、本当はそうしたいんだ。でも、今までと同じように旅を続けて、ディフィちゃんやノエル達のことを、危険に晒すわけにはいかないだろ?」

「だったら、ディフィやノエルが、スピーシアに指名されたらどうするのよ? まさか、大人しく差し出すつもりなの?」

「それは……」


 ルティアさんは、困った様子で全員を見回した。

 そして、諦めたような口調で言う。

「……なるべく、私が関心を惹くようにする。それでいいだろう?」


「そんな、駄目ですよ! ルディさんを犠牲にするなんて!」

 ルティアさんに憧れているレレが、必死な様子で言った。

「優しいね、ディフィちゃんは……。気持ちは嬉しいけど、今はこれで納得してくれ」

「でも……!」

「私達は、魔力を消耗した今の状況で、生き延びることを最優先に考えなくてはならない。本当はいけないことだけど……後のことは、後で考えるしかないだろ?」

「……」

「無論、私だって、スピーシアに進んで身体を差し出すつもりはない。全面対決は避けながら、抵抗できるところはしていくさ」


 レレは納得しなかったが、他に、逃げ延びるための良い案があるわけではない。

 僕達は、スピーシアという人物の使者と会うために、待ち合わせをしている場所を目指すことにした。


 一日経つごとに、夜は暗くなっていく。

 そのおかげかは分からないが、僕達は敵から発見されることなく進むことができた。


 僕達は、7人の人間が集まっており、そこに2頭のバロルが加わっている集団だ。

 決して目立たないわけではないので、追手に発見されることは覚悟していた。

 誰とも戦わなかったことは意外だった。助かったと思ったが、拍子抜けもした。

 おそらく、僕達との戦いによる損害が大きすぎて、警備隊が増援を集めるのに手間取っているのだろう。


 そして、僕達は、スピーシアの使者がやって来る場所に辿り着いた。

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