第79話
「……そう。貴方にとっては、ダッデウドである私達のことよりも、クレアやその子の方が大事だということね?」
僕の言葉を聞いて、ベルさんは恨めしげに言った。
「それは違います。僕は、レレのことも、ノエルのことも大切だと思っています。それはベルさんも一緒ですし、貴方に助けてもらった恩は忘れていません」
「だったら、どうして私の敵に回るようなことをするの?」
「それは、貴方が僕達やダッデウドの将来よりも、自分の欲望を優先しているからですよ。そんな人に、僕達の運命をこれ以上任せるわけにはいきません」
「心外だわ。私ほどダッデウドのことを考えている人間はいないっていうのに」
「それは思い込みです。貴方が必要以上にオットームを排除しようとするのは、個人的にオットームのことを嫌っているからでしょう? もし本当にダッデウドのことを考えているなら、より多くのオットームが味方になるように努力すべきです」
「おかしなことを言うのね? こちらのことを人間だと思っていないような連中を、どうやって味方にするっていうの?」
「……少なくとも、僕は……そういうオットームは、殺してしまっても構わないと思っています」
「ティルト!?」
クレアが、悲鳴のような声を上げた。
しかし、僕はあえて彼女のことを無視する。
「でも、味方にすることが可能だったオットームはいたはずですよ。味方が増えれば、僕達はもっと戦いやすくなるはずです」
「ダッデウドに好意的なオットームを味方にしたとして、それが何になるっていうの? オットームの能力なんて、ダッデウドと比べれば、たかが知れているじゃない」
「差別を受けているダッデウドにだって、僕にとってのクレアのように、味方になってくれるオットームがいるかもしれないでしょう? ロゼットは、ダッデウドのことを憎んでいたので無理だったと思いますが……少なくとも、カーラのことは味方にできたはずです。そうすれば、ミアだって僕達の仲間になって、まだ生きていてくれたはずですよ」
「馬鹿げたことを言うのね? そもそも、ダッデウドとオットームは違う生き物なの。私達と同じような姿はしているけれど、共存できるような相手ではないのよ」
「貴方のその差別主義が、ダッデウドにとっては脅威になってしまっています。そのことに気付いていないことが、ベルさんの最大の欠点です」
「ティルトの方こそ、オットームに肩入れしすぎていると思うわ」
「僕が問題だと思っているのは、オットームのことだけではありません。ベルさんは、自分の欲望ばかりを優先して、僕達のことなんて考えてないじゃないですか」
「根拠も無いのに、ずいぶんと酷いことを言うのね?」
「だって、ベルさんは、何度も僕に子作りを勧めるようなことを言ったでしょう? でも、僕がそれを真に受けて、本当にベルさんやレレが妊娠でもしたら……その後は、一体どうするつもりだったんですか?」
「……」
ベルさんが、虚を突かれたような顔をした。
やはりこの人は、深く考えて発言していたわけではないようである。
僕達のメンバーで、戦力になるのは僕とベルさんとレレだけだ。
その内の1人が戦えなくなっただけでも、今後に深刻な影響が生じることは間違いない。
「……そんなの、代わりのダッデウドをこのメンバーに加えれば済む話よ」
ベルさんが、取り繕うように反論した。
「そんな余裕はないでしょう? 独断で動いたせいで、ほとんど味方のいない貴方達には」
「……ディフィ、喋ったのね?」
「ごめんなさい、叔母様……」
「レレを責めないでください。貴方は、そんな重大なことを、僕達に隠していたんですから」
「ねえ……それ、どういうことなの?」
不安げな顔で、クレアが尋ねてくる。
僕は、ダッデウドの多数派が帝国との戦いを望んでいなかったことや、グラートと組んでも勝算が乏しいと考えられること、ベルさんを生贄として差し出すべきだという意見が噴出していることなどを説明した。
「そんな……」
話を聞き終えたクレアは、真っ青な顔をして呟いた。
ノエルも、全く同じ顔をしている。
自分達が、ダッデウドまでも敵に回していたことを知って、恐怖を覚えたのだろう。
「心配することはないわ。臆病な連中が反対するから、戦いに消極的な人が多いだけよ。ダッデウドの里の人達だって、私達が優勢になれば、喜んで参戦するはずだわ」
「そんな時は来ませんよ。僕達はほんの数人ですし、グラートの魔物だって、いずれは完全に攻略されることになるでしょう」
「人数が少なかったら何だっていうの? 味方なんていなくても、オットームは私達の敵じゃないわ」
「それは違います。いくら実力差があっても、魔力切れのことなどを考えたら、圧倒的多数のオットームを敵に回して戦い続けることは不可能です」
「だったら、どうするつもりなのよ? 私の首を差し出して、オットームに命乞いでもするつもりなの?」
「そんなことをしても手遅れでしょう? 少なくとも、僕達はまとめて処刑されるでしょうし、他のダッデウドだって、ただで済むとは思えません」
「じゃあ、どうするの?」
「僕達は、新天地を目指すべきだと思います」
「何ですって?」
眉をひそめたベルさんに、僕は告げた。
「ダッデウドは、帝国領外へ移住すべきです」




