第63話
「洗い終わった服は、脱衣所に置いておきましょう。」
ベルさんがそう言った。
僕達は、一度脱衣所に行き、少しでも乾かすために服を広げる。
「それじゃあ、髪を洗おうと思うけど……せっかくだから、ついでに、身体も洗ってしまった方がいいわ」
そう言って、ベルさんは下着も脱いでしまった。
彼女の身体は強烈なインパクトがあるので、直視できずに目を逸らしてしまう。
「ベルさん、急ぐんじゃなかったんですか?」
「いいじゃない、少しくらい。身体が血生臭いままなんて、貴方も嫌でしょう?」
「それじゃあ、さっきは、何のために僕の前で脱いだんですか……?」
「少しでも時間を節約するためよ。さあ、皆も急いで」
ベルさんがそう言って促すと、ロゼットも、無言のまま下着を脱ぎ捨てた。
2人の肉体は、完成された造形をしている。
どちらの裸も見たことがあるとはいえ、彼女達が揃って全裸になると、刺激が強すぎた。
僕は、履いていた下着を脱ぎ捨てて、逃げるように浴室に戻る。
僕が水で髪を洗っていると、ベルさん達が浴室に戻って来たのが音で分かった。
思ったよりも時間がかかったのは、クレア達が、全裸になることを嫌がったからなのかもしれない。
怒られても、振り向いてしまうべきか……?
そんなことを考えてしまい、首を振る。
しかし、頭の中で妄想が膨らんで、興奮が抑えられなかった。
「辛いなら、指で擦って、楽にしてあげようかしら?」
僕の隣で髪を洗い始めたベルさんが、真顔でそんなことを言ってくる。
この状況で、生理的な反応について言及するのは勘弁してほしい。
「結構です!」
「今すぐじゃなくてもいいわよ? 夜、悶々とすることもあるでしょう?」
「クレアやノエルの前で、下品な話はしないでください!」
「貴方って不思議な人ね……もっと、欲望に身を任せればいいのに」
「どうやら、ティルトの傍には、もっと正常な人間がいるべきであるようですね」
ロゼットが、呆れた様子でベルさんに言う。
彼女は、僕がベルさんから悪影響を受けていると判断したようだ。
「私が正常でないっていうの? オットームとは、価値観が違うだけよ」
ベルさんは、ロゼットの言葉を否定した。
相変わらず、自分は間違っていないと思っているようだ。
「彼が、せっかく自分を抑制しようとしているのに、それを妨げるのが良いことだとは思えません」
「無理をしても、そのうち暴発するだけだわ。ひょっとしたら、貴方と2人だけになったタイミングで、欲求を抑えられなくなるかもしれないわよ? そういう状態の男の方が怖いじゃない」
「だとしても、そういう行為を人前で提案するべきではないはずです。特に、酷いことをされたばかりの女性の前で、そんな話題を出すなんて……貴方は正気ですか?」
「普通の男性は、肉体的な欲求を持っているものよ。そんなこと、誰だって知ってるんだから、イチイチ避けるべき話題だとは思えないわ」
「……とんでもない人ですね、貴方は」
「あの……1つだけ、言っておきたいことがあるんですけど」
2人の会話に、突然ノエルが口を挟んだ。
皆の間に緊張が走る。
「……何かしら?」
「誤解されたままなのは嫌だから言いますけど、私……最後の行為は、されてませんから。その前に、あの人のことを……」
ノエルは、そこまで言うと、あの男を殺した時のことを思い出したらしく、両手で顔を覆った。
そんな彼女を気遣うように、クレアとレレが寄り添う。
そういえば、ノエルの全身が輝いたのは、あの男に下着を脱がされた直後だった。
あの後、一瞬で、宿の主人は消し飛ばされたのだろう。
ノエルが犯されていないと知って、少しだけ安心した。
「そう……それは、不幸中の幸いだったわね。だったら、貴方は今日のことを、早めに忘れてしまいなさい」
「そんなこと、できるはずがないでしょう!? ノエルは、人を……」
クレアがベルさんに抗議しようとして、言葉を途中で切った。
これ以上ノエルを刺激するのはまずいと思ったのだろう。
「あの男が死んだのは、自業自得よ。大したことじゃないわ」
「……」
ベルさんが平然と言い放ったので、クレアは絶句した。
「まあ……身体を触られたり、脱がされたりショックだったでしょうから、すぐに忘れるのは無理でしょうけど……。ティルトと一晩寝れば、忘れられると思うわ」
ベルさんが、とんでもないことを提案したので、打ち消さなければならないと思った。
「無茶苦茶なことを言わないでください! それじゃ、事態が悪化してるじゃないですか!」
「あら、ノエルに魅力を感じないの? まだ処女のままなのに」
「そういう問題じゃないでしょう!? 僕とノエルが恋人同士なら、一応、分からなくはない発想ですけど……」
「あの男よりは、ティルトの方が遥かにマシだと思うけど」
「ベルさんが考えることは、理解不能ですよ!」
「貴方は、もう少しティルトの立場を考えたらどうですか?」
ロゼットが、呆れ果てた様子で苦言を呈した。
「あら。私は、誰よりもティルトのことを考えているわよ? 要するに、より多くの女性を抱ければ、男性は満たされるはずでしょう?」
「……貴方ほど短絡的な人間は、他に見たことがありません」
「淫乱ババアの孫には言われたくないんだけど」
「お婆様は、精神を病んでいるのだと言ったでしょう? ひょっとして、貴方も何らかの病を患っているのですか?」
「私は正気よ。おかしいのは、誰でも知っていることを無理矢理隠そうとして、くだらない建前を並べる貴方達の方だわ」
ベルさんの答えを聞いて、ロゼットはため息を吐いた。
そして、禁断の言葉を口にした。
「……なるほど。ダート人が差別されるようになったのは、貴方のような人が原因なのですね」




