第55話
ベルさんは、南へ向かう道中に、休憩を多く取った。
元々、ノエルが加わってから、休む時間が長くなっていたのだが、今はそれがさらに伸びている。
ベルさんなりに、ロゼットに気を遣っているようだ。
それでも、ロゼットは歩き続けることが辛そうな様子だった。
長距離を歩いた経験が乏しいらしい。
旅は、おそらく5日以上かかるだろう。
その間に、ロゼットに倒れられたりしたら困ったことになる。
僕達は、歩くペースも落とし、ロゼットの身体に配慮した。
街を出てから3日目の夜に、小さな村へ辿り着いた。
「この村にも、宿があるみたいね。今夜は、ここに泊まりましょう」
ベルさんがそう言った。
「叔母様、でも……」
レレが、ロゼットの方を見ながら懸念を示す。
ここは、街から、ロゼットの家の別荘に行く道の途中にある。
ロゼットの顔見知りがいる可能性は高い。不安になるのは当然だった。
「ロゼットには、常に私と一緒にいてもらうわ。この村の人間との、過剰な接触はしないで」
「確かに、この村の方々は私のことを知っているでしょうが、今さら誰かに助けを求めたりはしません。巻き添えで、無駄に死人を出すわけにはいきませんから。しかし、貴方達と一緒に歩いて訪れた私を見て、村の人間が疑いを持つことは防ぎようがありませんよ?」
「安心して。詮索されても、命までは奪わないわ」
ベルさんはそう言ったが、実際にそのような事態に陥ったら、どのような行動に出るか分からなかった。
「あの……やっぱり、この村に泊まるのは、やめておいた方が……」
クレアが、不安そうに言う。
「大丈夫よ。魔物に襲撃されて、親切な人達に助けられた。そう言って誤魔化せばいいの」
「でも……私達がフードを被っていたら、きっと不審に思われますよ? かといって、フードを脱いだら……」
ノエルも不安そうだ。
自分達の銀色の髪を見られれば、この小さな村で、どのような反応をされるのか不安なのだろう。
「分かりました。私に任せなさい」
ロゼットがそう言った。
「あら、貴方、私達を助けてくれるの?」
ベルさんが疑わしげに言う。
「貴方達を助けるつもりはありません。私が、慣れない野宿を続けたくないからです。ベッドで寝れば、疲労の回復も早いかもしれませんから」
「……いいわ。じゃあ、貴方に任せるわね」
こうして話はまとまった。
「お嬢様! ご無事でしたか! 街が魔物に襲われたと聞いて、とても心配していたのです!」
宿の主人は、僕達を見て、嬉しそうにそう言った。
「貴方も、お元気そうで何よりです」
ロゼットがそう言うと、宿の主人は、心から感激した様子だった。
しかし、すぐにその表情を曇らせる。
「……ところで、そちらの方々は一体……?」
銀色の髪である僕達を見て、宿の主人は、あからさまに不快そうな顔をする。
それを見て、ベルさんが殺気を放ったので、僕は不安で仕方がなかった。
「失礼な態度はおよしなさい。この方々は、私を助けてくださったのです」
「この者達が……?」
「そうです。お屋敷から馬車で逃げるところを魔物に襲われ、馬車は壊れてしまい、使用人達も散り散りになってしまいました。一人きりで逃げていたところを助けていただき、別荘まで連れて行っていただくところなのです」
「……そうでしたか。それは、とんだご無礼を……」
宿の主人は素直に謝った。
ロゼットの言葉を信用したらしい。
「いえ、お気になさらないでください」
僕はそう言った。
宿の主人に向けた言葉だが、ベルさんを宥める意味合いも含めている。
宿泊料金は、ロゼットが全員分を支払った。
宿の主人は、ひたすら恐縮していた。
「……ねえ、どうして3部屋なの?」
ベルさんがロゼットに尋ねる。
ロゼットは、3部屋を取ったのだ。
「それが一番自然だからです。主人は、男性が1部屋、私が1部屋、他の女性が1部屋だと解釈したでしょう」
「……まあ、いいわ。じゃあ、私とロゼットが同じ部屋で寝るとして……ディフィはクレアと一緒に寝て。ティルトは、ノエルと同じ部屋に泊まりなさい」
「……!」
ベルさんの言葉を聞いて、ノエルは僕の方を見て、怯えるような反応をした。
「待ってください! どうしてそうなるんですか!?」
当然のことながら、クレアが抗議する。
「だって、私はロゼットを監視する必要があるわ。そうすると、ティルトとディフィで、クレアとノエルのことを守るのが、一番安全じゃない。クレアはオットームだから、ティルトとは同じ部屋に泊めたくないわ。だったら、消去法でノエルしかいないでしょ?」
「そんなの、私とレレとノエルの3人が同じ部屋に泊まって、ティルトが1人で泊まればいいだけでしょう!? どうして、わざわざノエルのことを危険に晒そうとするのか、理解に苦しみます!」
「あら、どこが危険なのかしら? ノエルはダッデウドなんだから、ティルトの子を授かったら素敵だと思わない?」
「どこが素敵なんですか!? ノエルは、ティルトのことが好きなわけでもないんですよ!?」
「そんなの関係ないわよ。ダッデウドの子孫が増えるなら、当人の意思なんて、考える必要はないもの」
「……」
ベルさんの常軌を逸した発言に、クレアは開いた口が塞がらない様子だった。




