第54話
ロゼットを連れて行くと、クレア達は激しく困惑した。
「ティルト、その人は……?」
クレアの質問に、ベルさんが答える。
「この子はロゼット。ダッデウドの少年を飼っているお婆さんの孫娘よ。お婆さんが、別荘に少年を連れて行ったから、道案内をしてもらうことにしたの」
「綺麗な人……」
ノエルが、呟くように言った。
その視線は、ロゼットに釘付けになっている。
「……」
レレも、ぼんやりした様子でロゼットを見つめた。
普段からベルさんを見慣れていても、オットームであるロゼットの美しさには、やはり強烈なインパクトがあるようだ。
「皆、ロゼットに見惚れすぎじゃないの?」
ベルさんが、呆れた様子で言った。
しかし、その表情からは嫉妬心が窺える。
彼女にとっては、オットームであるロゼットに、皆が惹き付けられるのが不満なようだ。
一方で、ロゼットも面食らった様子だった。
「貴方達……こんなに若い女の子ばかりで、帝国を相手に戦うつもりなの? いくらダート人が強くても、無謀としか言いようがないわ。しかも、オルト人の女の子までいるじゃない……」
そう言いながら、ロゼットは首を振る。
僕達のやっていることが、理解できないのだろう。
「いつまでも、ここで話しているわけにはいかないわ。今すぐに、ダッデウドの男の子がいる別荘に向けて出発しましょう」
ベルさんがそう言った。確かに、一刻も早く男の子を助け出さねばならないのだ。
僕達は、南に向かって歩き出した。
ベルさんは、ロゼットのことを縛ろうとはしなかった。
そんなことをしなくても、ロゼットには逃げ出す様子が無い。彼女が、タームという男の子を助けたがっていることは間違いないようだ。
僕は、ロゼットに、クレア達のことを簡単に紹介した。
「可愛い子に囲まれて、貴方は毎日幸せなんでしょうね」
ロゼットは、僕を睨みながら嫌味を言ってきた。
これだけ美人が揃った環境にいながら、ペティを凌辱したことに関して、強い怒りを抱いているようだ。
「そんなことはありませんよ。こう見えても、彼女達には、結構気を遣いながら暮らしていますから」
これは、偽らざる本音だ。
多数の女性と共に旅をする、というのは、決して気楽なものではない。
一番分かり易いのは、誰かがトイレに行きたくなった時だ。
そういう時は、女性同士で何らかのサインを送っているらしい。
しかし、何も知らないこちらとしては、誰かの姿が見えなくなるのは不安なことだ。
だが、迂闊に「彼女はどこに行ったのか?」などと尋ねたら、デリカシーが無いとか、変態だと非難されることになる。
特に、ノエルの一件があって以来、彼女達の警戒心は非常に強くなってしまった。
また、自分が用を足す時も、誰かに見つかるのではないかと不安になる。
実際に、ベルさんがいつの間にか近くにいたことは何回かあった。あれは、確実に僕の後を付いて来ていたのだろう。
彼女としては、無防備な僕が襲われるのは困るからそういうことをするのであって、決して他意は無いと思うのだが……。
また、川などの水場を発見したら、女性としては身体や髪を洗いたくなるものらしい。
そういう時にも、お風呂の時と似たようなやり取りが行われることになる。
もっとも、最終的には、僕には見張りの役割が課せられることになるのだが……。
ベルさんは、「男に見られたら、そいつを殺せばいい」などと言うので、こちらとしても必死だ。
そういった環境で日々暮らしているので、気が休まらないのである。
何より、僕も男なので、肉体的な欲求が高まる時はある。
しかし、そのことを女性に知られるのは、耐え難いことだ。
そういうことに敏感なベルさんが、そういった時を狙って誘ってくるのは、地獄のようなものである。
女性に気付かれないように、こっそりと処理するのも、一苦労なのだ。
この辛さは、決して女性には理解できないだろう。
「贅沢な悩みを抱えて暮らしているのね」
僕の言葉を聞いても、ロゼットの反応は冷淡だった。
まあ、当然のことだろう。
こんな悩みは、女性ならばもちろんのこと、男にだって理解してもらえるとは思えない。
いっそのこと、ベルさんが言うように、全員を抱いてしまえたら、どんなに楽になるだろう。
そんなことも思うが、ベルさん以外の女性は、決してそれを許さないはずだ。
僕は、当分の間、煩悩を抱えながら生きていくしかないのである。




