第53話
「待たせたね。君の名前は?」
「……ロゼットです」
こちらを睨んでいるものの、金髪のお嬢様は、僕の質問に対して素直に答えた。
「そっか。じゃあロゼット、とりあえず服を着て。その後で、君には道案内をしてもらうよ?」
「……分かりました」
「やっぱり、ダッデウドの男は、オットームの女を求めるのね」
ベルさんは、悔しそうな様子で呟いた。
「そんなことはありませんよ。ベルさんの方が、ペティより綺麗だと思います」
「……貴方って、本来はオットームみたいに旺盛なのね」
「そうでもないと思いますけど?」
結局、ベルさんはペティを殺さなかった。
衣服を身に着けたペティが、逃げるように立ち去る際に、ベルさんが見せたのは……激しい嫉妬心だ。
ベルさんとしては、僕がオットームを求めることに対して、強い不快感があるらしい。
しかし、今回は、ペティを助けるための手段があれしかなかったのだ。
ベルさんがペティを許していれば、僕はあそこまでのことはしなかった。
まあ……ベルさんが強硬だったおかげで良い思いができたのだから、僕は感謝するべきなのかもしれない。
「それにしても、失敗したわ。あのペティっていう子は、人質にしておくべきだったわね」
「人質なら、ロゼット1人で充分でしょう?」
「いいえ。1人だけなら、逃げたり、自殺したりしやすいじゃない」
そう言って、ベルさんはロゼットを疑わしげな目で見た。
「私は逃げたりしません。あのタームという男の子を、助けなければいけませんから」
「あら、どうしてオットームである貴方が、ダッデウドを助けるの?」
「お婆様のなさっていることは、あまりにも非人道的ですから」
「今までは、弄ばれている男の子を、助けなかったくせに」
「あの子を逃がしたとしたら、お婆様は何をするか分かりませんでした。あの人は、老いていく自分が耐えられないのでしょう。既に、精神を病んでしまっているのです」
「だからって、男の子を虐げてもいい、ということにはならないわ。私は、貴方のお婆さんを殺すわよ? その後で、貴方も殺すわ」
「構いません。お婆様も、私も、死んで償うべきなのでしょうから。……ですが、お婆様の元にいる使用人や、お婆様が雇った娼婦の命は、助けていただけませんか?」
「冗談じゃないわ。男の子に危害を加えた者は、全員殺すに決まっているじゃない」
ベルさんは、ロゼットの頼みを聞き入れることはなかった。
僕も、ロゼットのお婆さんに雇われている娼婦については、殺してしまっても構わないと思う。
相手は女性だが、娼婦であれば、全裸にしても恥ずかしがったりはしないだろう。
それは凌辱しても同じだろうし、そもそも、平気で身体を男に売るような女を抱きたいとは思わない。
利用価値のない悪人など、さっさと始末するべきだ。
だが、直接的な関係のない使用人まで殺すのは、やりすぎのような気がする。
「……でもね、ロゼット。ダッデウドの男の子に、直接的な危害を加えた者は、生かしておくつもりがないけど……そうでない者は、全員見逃してあげてもいいわ。お仕置きも、免除してあげてもいいわよ?」
突然のベルさんの申し出に、僕は驚いた。
一体、どうして急に態度を変えたのだろう?
「何故そのようなことを? 何が目的ですか?」
ロゼットは、訝しげな顔をして、ベルさんに尋ねた。
「その代わりに、私達が貴方やペティ達に対してしたことを、私の仲間には黙っていてほしいの」
「……ひょっとして、貴方達の仲間は、虐殺に反対しているのですか?」
「そうよ」
「ベルさん、そんなことを教えたら……!」
僕は慌てた。自分から弱点を暴露するなんて、酷いミスだ。
こんな話を聞いたら、むしろロゼットは、クレア達に全てを暴露するに違いない。
「隠そうとしたって、どうせ、すぐにバレるわ。あの子達なら、ロゼットを縛ることにすら反対しそうだもの」
「……」
確かに、馬車で2日かかる距離を、縛った状態で歩かせるというのは、酷いことをしている印象を与えそうだ。
ノエルの件もある。ベルさんがロゼットを縛ることには、クレア達が反対するだろう。
彼女達の態度を見れば、僕達の間に温度差があることは、簡単に見抜かれてしまうに違いない。
「貴方達の仲間は、善良なのですね」
「甘すぎて嫌になるわ。そういう子達だから、ティルトが貴方達にしたことは、知られたくないのよ」
「暴露するなと言われて、私が大人しく従うと思いますか? 事実を伝えるだけで、貴方達の信頼関係を崩壊させられるというのに」
「思うわ。この取引に応じてくれないなら、私は、貴方のお婆さんのところにいる使用人を、皆殺しにするわよ?」
「……約束は、必ず守ってください。男の子に直接的な危害を加えていない使用人は、全員、危害を加えずに逃がす。間違いありませんね?」
「結構よ」
話はまとまった。
これで、僕はクレア達から嫌われずに済みそうだ。
僕達は、ロゼットを伴って、クレア達と合流した。




