第48話
「次に行くのは、大きな街よ。当然、警備隊も人数が多くて強力だから、安易に近付くことはできないわ」
そう言って、ベルさんは僕達を見回した。
「だから、今回は、グラートの魔物が破壊を始めてから街に突入して、ダッデウドを救い出す方針よ。いいわね?」
「待ってください! それだと、今回もたくさんの人が……いいえ、今まで以上に、多くの人が犠牲になってしまいます!」
前回と同じように、クレアが抗議した。
レレとノエルも、クレアに同調している様子だ。
「安心して。今回は、それほど犠牲者が出ないはずだから」
「何を根拠に、そんなことが言えるんですか!?」
「だって、警備隊の規模が大きいんだから、住人を避難させることは、それほど難しくないはずよ? それに、グラートの魔物に関する情報は、主要な街には伝えられて、広まっているはずだもの。街の住人や警備隊は、絶対に勝てない相手に、正面から挑むほど馬鹿じゃないはずだわ」
「でも、怪我をする人や、死ぬ人は出るはずです!」
「多少の犠牲は仕方がないじゃない。どうせ、死ぬのはオットームだけだし」
「……」
ベルさんは、相変わらず冷酷だった。
「今回助けるダッデウドは、どういう境遇に置かれているんですか?」
僕は、話を進めるように促した。
「その街にいるのは、タームという名前の男の子よ。ミアの時と同じで、金持ちに飼われたような状態になっているわ。飼い主は、かなり年齢の高い、お婆さんね」
「……お婆さんが、男の子を……?」
それは、一体どういう目的があってのことだろうか?
「理解できないかしら? 年を取った女性の中には、若くて綺麗な顔をした男の子が、自分の身体を求めてくることに、快感を覚える人がいるのよ」
「……!」
全身に鳥肌が立った。
気持ちが悪い。
おぞましいとしか言いようがない。
「ショックだったかしら? でも、若さって、いつかは失われるものだから……私も、少しだけ気持ちが分かるのよね……」
そう言って、ベルさんはレレやノエルの方を見た。
こんなに容姿に恵まれた人でも、まだ幼い彼女達に、嫉妬したりするのだろうか……?
「あの、その男の子なんですけど……理不尽な扱いを受けているわけではなくて、本当に、年を取った女性が好きだということはありませんか……?」
クレアが、念を押すように尋ねる。
確かに、思い込みは禁物だ。
世の中には、そういう男性だって存在するのだろう。
「その可能性は、無いと思うわ。事前に仲間が調べてくれたんだけど……そのお婆さん、若くて綺麗な娼婦を、何人も雇っているそうなのよ。身体を拘束した男の子を、娼婦たちが欲情させて……行為自体は、お婆さんとさせられているそうよ。とても、自由な意思に基づいているとは思えないわね」
「……」
吐き気がする。
自分が、そのような境遇に置かれたら……耐えきれずに、自殺してしまうかもしれない。
「助け出しましょう。その男の子を!」
僕は、強く決意して言った。
そんな僕を見て、クレア達は困惑している。
僕が積極的になるのが、そんなに珍しいと感じるのだろうか?
「そうね。ダッデウドの男性の能力を、子孫を作るためでなくて、オットームの娯楽のために浪費するなんて、許されることじゃないわ」
ベルさんは僕に同意してくれたが、僕の態度については、若干呆れたような口振りだった。
僕達は、街までの道のりを急いだ。
街をグラートが襲撃するのは、おそらく次の満月の夜だ。
おそらく間に合うと思うが、それほど余裕があるわけではない。
そんな僕達の前に、汚い格好をした男達が立ち塞がった。
野盗だ。街を出入りする者を狙って、金品を奪っているのだろう。
「おい、見ろよ! 若い女がたくさんいるぜ?」
「しかも、こいつら銀髪だぞ! 身体も、普通の女とは違いそうだな!」
「今回は、色々と楽しめそうだ!」
男達は、そんな話題で盛り上がっていた。
その後も、クレア達には聞かせたくないような、卑猥な言葉が次々と飛び出す。
腹が立った。
お前らみたいなクズに、僕達の邪魔をする権利があるとでも思っているのか!
僕は、荷物の中から剣を抜いた。
そして、野盗に斬りかかる。
僕のスピードに全く反応できない男達は、端から斬り捨てられていった。
「……貴方、本当に強いわね」
ベルさんが、感心した様子で言った。
戦いは、僅かな時間で終わった。
周囲には、20人近い男の死体が転がっている。
相手に反撃する隙も、逃げ出す時間もほとんど与えないまま、僕は全員を始末した。
クレアとノエルは、僕の戦いぶりを見て、蒼白になっていた。
視線を向けると、怯えた様子で震える。
僕が彼女達に襲いかかることはないのだから、そんなに怖がらなくてもいいと思うのだが……。
「ティルト、凄い……」
一方で、レレは、感激したような顔をしている。
彼女は、自分に対して優しい男性を求めていたが……強い男のことも好きなようだ。
「貴方は、私が知っているダッデウドよりも遥かに強いわ。ダッデウドの社会で、互いに好意を持った関係を構築したために、憎しみが溢れた世界から遠ざかってしまったから……魔力を生み出す能力が低下してしまったのかもしれないわね」
ベルさんは、少し動揺した様子で僕に告げた。
「でも、今まで、これほどの魔法は使えなかったんですけど……」
「完全に覚醒して、全力を発揮できるようになったのかもしれないわ」
「ねえ、ティルト……完全に覚醒したってことは、貴方……人を痛め付けたいとか、殺したいとか思うの?」
クレアが、こちらの様子を窺いながら、恐る恐る尋ねてくる。
「まさか。僕に、そんな欲望は無いよ」
僕は、クレアに答えた。
嘘ではない。今は、全くそんな気分ではないのだ。
ここに、なぶるべき対象がいないからだろう。
「そう、良かった……」
クレアは、僕の言葉に安心した様子だ。
やはり、彼女達の前では「善良なティルト」でいたい。
僕の本性を知っているのは、ベルさんだけで充分だった。




